環境・バイオの最前線

水圏動物学

40年来のウナギ完全養殖という悲願がこの学問を育てた。そして今、クロマグロが!

 

めざせ!ウナギの完全養殖


この分野は、日本の理学部での基礎的研究も含む魚介類の科学といえるが、実は、いかにウナギを卵から成魚にまで育てるかという課題が発展させたといっていい。

 

ウナギは淡水魚と思われがちだが、正確には、海水で生まれ淡水で育ち、また海水に戻って産卵して死ぬというサイクルを持っている(図3)。その養殖は、南太平洋で生まれ日本の沖にやって来た5㎝程度のシラスウナギ(ウナギの稚魚)を漁師が捕り、それを安いときは1匹30円、高いときには500円くらいも出して養殖業者が買い、育てる。日本人に人気のウナギを、ぜひ卵から成魚まで完全養殖し安定したウナギ生産をしたい、というのは養殖業者の悲願だった。

 

この研究、実はすでに約50年前、母親の中で卵を育て産卵させ、ふ化させる競争から始まっていた。卵巣から卵を培養したのが北海道大、産卵させたのは東京大、ふ化はまた北海道大が勝ったという研究レースは、今でも学界で語り草だ。

 

この研究は2010年にようやく一応の結末を見た。ウナギは南太平洋でふ化して150日くらいかけて北上しつつ大きくなり、九州沖に約5㎝程度のシラスウナギとなって現れる。しかし飼育では、とても5㎝までは成長させられない。ふ化後数十日ほど、つまりシラスウナギに変態する前の不思議な形、レプトケファルスと名付けられた段階(6㎝程度)まで飼うのが精一杯だったのだ。ふ化後300日間の飼育に成功した研究が、その期間の長さで話題になったが、ついにシラスウナギにはならずレプトケファルスのままだったということもあった。ようやく10年前に、ウナギの産地、三重県の水産総合研究センター増養殖研究所がサメの卵などで工夫したエサを用い、シラスウナギまで成育させることに成功した。この研究で、ウナギはレプトケファルスからシラスウナギに変態する際に「縮む」ことも明らかとなった。つまり6㎝程度のレプトケファルスは、約5㎝のシラスウナギに縮むというわけだ。さらに2010年に卵から飼育したウナギから受精卵を取り、その卵から稚魚を作る完全養殖に増養殖研究所が成功したと報じられた。しかし、成功例はまだ極めて少数で、大量に養殖するためのシラスウナギを飼育する技術開発が必要だ。


ところで、太平洋を日本まで北上してくるウナギは、実地調査を主とする生態学系の水圏動物学の研究対象にもなっていて、東京大学大気海洋研究所、塚本勝巳先生(当時。現在は日本大学教授)によるウナギの産卵場所を探る研究への期待は大きく、いつ産卵の現場をとらえるかが、注目されていた。先生は東京大の研究船白鳳丸で定期的に南洋に向かい、誕生後約10日の大量のレプトケファルスをマリアナ諸島沖で採取し、世界で最も権威のある学術雑誌『nature』の表紙にもなった。そして、先生とその研究室の学生たちが、毎年の航海調査から、成熟した親ウナギや産卵直後の卵を採集したことから、マリアナ諸島沖の海山(海の中の山)が産卵場であることを突き止めた。さらにウナギの耳石(じせき)の日周輪から、ウナギは新月の時期に産卵することもわかった。また、大量のレプトケファルスが採集され、天然で何を食べているのかも少しずつわかってきた。そんな成果との往還もあって、ウナギの大量完全養殖が実現する日への期待が高まっている。


図3 ウナギは、シラスウナギとして黒潮に乗って中国や日本の海岸(地図中の太い線)に現れ、河川を上って淡水で生育し、川や湖で約10年かけ十分に成長後、台風シーズンの増水時に流れに乗って川を下り、今度は小笠原海流に乗って再び産卵場所に向かい、産卵後一生を終えると想定されている。
図3 ウナギは、シラスウナギとして黒潮に乗って中国や日本の海岸(地図中の太い線)に現れ、河川を上って淡水で生育し、川や湖で約10年かけ十分に成長後、台風シーズンの増水時に流れに乗って川を下り、今度は小笠原海流に乗って再び産卵場所に向かい、産卵後一生を終えると想定されている。

近畿大ブランドのクロマグロが食卓へ

 

一方、これまで完全養殖できていなかったクロマグロも、近畿大学水産研究所が和歌山県串本町にある直径30m、深さ8mの大きないけすを用いて先鞭を付け、水産総合研究センターも成功した。

 

刺身や寿司で人気のクロマグロは、これまで天然で捕らえたものを養殖でさらに大きく育て、市場に出荷していた。体長が大きく高スピードで太平洋を北から南へと回遊するので、まさか完全養殖ができるとは思われず、研究もあまりされなかったのだ。そんな中で、近畿大の熊井英水先生は、大学として唯一挑んでいた。しかし1970年から研究を始めたものの、体長10cm程度になると光や音などに過敏になり、パニックを起こしていけすの網に突っ込んで死んでしまうという課題を克服できずにいた。それが、魚の動物学的な理解が進んだことに加え、いけすを単に大きくするのではなく、四角を円筒状にするなど工学的な工夫も加えることで、克服できたのだ。

 

近畿大は、このマグロを大学として本格的に売り出し商売を始めた。しかし、海に設置したいけすを用いなければならないこともあり、毎年環境が変わるため、安定してクロマグロを産卵させることは難しい。この課題の解決には陸上水槽で環境をコントロールしなければならないが、2013年にようやく水産総合研究センターに大型陸上水槽が作られ、研究が開始、2014年5月に、採卵を目的とした大型陸上水槽としては世界で初めてクロマグロが産卵するとともに受精卵の確保に成功した。


水圏動物学

水圏動物学ってどんな学問?

 

◆トピックス1

40年来のウナギ完全養殖という悲願がこの学問を育てた。そして今、クロマグロが!

◆トピックス2

フグの毒は、海のあり方を解くにも、難病の特効薬にも

 

◆学問ことば解説

増殖・養殖、エビの養殖/発生・生殖、魚病学・免疫、呼吸、行動学・摂餌


水圏動物学の研究者

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