環境・バイオの最前線

水圏動物学

フグの毒は、海のあり方を解くにも、難病の特効薬にも

 

フグの毒で人が死ぬことがある。フグ毒が、人間の細胞膜上にある浸透圧を調節しているナトリウムチャンネルを塞いでしまうからだが、このフグ毒、学問的に極めて注目度が高い。

 

フグ以外にも様々な魚介類が毒を持っている。しかし、何のために毒を持ち、なぜ毒を持ちながら生きていられるのかなど、未知の部分が大きい。毒は海洋細菌に由来し、食物連鎖の中で濃縮され、最終的にフグが貯めているらしいことが、ようやくわかってきたにすぎない。つまり、生物学、海洋生態学的に大変神秘なのだ。また複雑な構造を持つフグ毒は、生理活性物質化学でも精製や合成の対象として大変魅力的であり、その働きはガンなどの特効薬になる可能性があると、薬学者、環境生命工学者に注目されている。

 

フグに関しては、この毒をめぐる不思議なメカニズムへの関心に、食用をめざした養殖への興味、脊椎動物の起源の解明への期待などが加わり、2002年、魚類では唯一トラフグがゲノム(全遺伝子情報)解明された。これは、脊椎動物のゲノム解析として、ヒト、マウスに続いて3番目。その結果によると、DNAのサイズはヒトの8分の1だが、遺伝子数はヒトとほぼ同じ3万個。その4分の3がヒトと対応し、異質なのは4分の1だという。これは、4億5千万年前に始まった脊椎動物の進化過程を明らかにする1つのカギとしても注目される。

 

またトラフグゲノムから性決定遺伝子の探索が進められている。東京大はさらにこれを実際の養殖にまでつなげ、浜名湖の水産実験所で、東京大産というトラフグブランドを作ろうともくろんでいる。フグは卵巣が猛毒なのに対し、精巣(白子)は食品として評価が高いことからゲノムから雌雄決定遺伝子を同定し、オスのトラフグを飼育できれば、付加価値の高いトラフグを計画的に増殖できる。つまりゲノム育種によるトラフグの優良品種作出をめざしている。すでに性と関連するゲノム上の多型を見出し、養殖用種苗の性を迅速に判定する手法を開発し、特許出願も行っている。東京大に似つかわしくないようだが、これはまさに、水圏動物学による最初の本格的な「ゲノム応用」研究といっていい。


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