環境・バイオの最前線

水圏動物学

学問ことば解説

増殖・養殖:この学問が支える水産業最大のテクニック


人間の管理下で行われる漁業の主なものに、増殖と養殖がある。増殖は、国や地方自治体を中心に水産資源がより良く育つ環境を作ったり、稚魚を放流したりして、魚介類の成長を助けることだ。放流された魚は自然環境の中で育ったのち漁獲される。生理学・生殖学を中心とする水圏動物学では、この放流のための稚魚育成の基礎を担う。一方、養殖はいけすなどで魚介類や藻などを人工的に管理して育てること。まさにこの分野が支えており、すでに、タイ、ブリ、カキ、真珠貝、ノリ、クルマエビ、アユ、コイなどで行われている。その過程は、いけすに放つまでの種苗生産段階と、そこから成魚まで育てる育成段階に大きく分かれるが、今ではそのほとんどで両段階を含めた完全養殖を実現している。しかし、主に経済的理由から、ブリやカキやホタテガイでは種苗段階を行わず、天然である程度大きくなった稚魚・稚貝を捕って人工的に育成している。サケやクルマエビでは、卵を持つ親魚や卵自体を天然から獲得する場合が多い(図4)。


ホットな話題としては、東京海洋大学の吉崎吾朗先生による生殖幹細胞を用いた“借り腹養殖”という発生学的な研究がある。親魚の飼育の難しい大型魚に、生殖細胞の異種間移植によって代理親魚養殖技術の開発に成功したのである。


図4
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エビの養殖/発生・生殖:養殖業界の生殺与奪の権を握る


エビは日本人に人気の食材だが、その多くは東南アジアなどで養殖、日本に空輸されている。このエビは、完全養殖されているものの非常に不安定な養殖体制にある。なぜなら、卵を持った母エビを育てられないため、その漁場(ぎょば)を知っている個人業者から高価な母エビを買わざるを得ないからだ。そこで、エビの生殖機能の解明が期待される。実は多くの魚介類で養殖が実現したといっても、卵を産む親魚の養殖は必ずしもできておらず、卵は天然に依存している魚介類も多い。だからどの魚についても、発生・生殖研究は重要だ。現在クルマエビ類についてわかっているのは、大きくなるための何度目かの脱皮を経たあと、交尾のための生殖脱皮をすること。生殖脱皮をした柔らかいエビの腹に精子の入ったサックをオスが付け、受精は産卵の際、サックが破れ精子がかかるという形で進む。卵の成熟には、肝臓で作られたビテロジェニンが血流によって運ばれ、卵に入り、ピテリンという物質に変わり作用しているらしい。しかしエビの目の中にある脱皮を司るホルモンや、さらに踏み込んだ機構など、まだまだ未解明な部分も多い。



魚病学・免疫:今後の学問の最重要課題か


水産業で今一番の問題は、いかに病気を起こさないかだ。大学では様々な魚介類で、ウイルス・細菌といった病原体から免疫などの生体防御、さらにはワクチンによる予防まで、様々な研究が行われている。特に最近では免疫機構への関心が高く、魚は人間と同等の免疫を有していることがわかってきた。一方従来ないとされていたが、エビ類にも獲得免疫が発達している可能性が示唆される研究がなされている。



呼吸:水中での独特な機構


魚も酸素を身体に供給しなければならないが、水中には大気の約40分の1の酸素量しかない。魚がどう酸素を摂取しているかがわかれば、その成果を養殖に生かせる。具体的には、陸上動物が呼吸のために行う仕事量は全仕事量の1~2%なのに、魚は約10%も占めること、マグロやサメといった大型魚は常に高スピードで泳いで大量の水をエラに送り込むことで呼吸すること、などがわかってきた。しかしエラから出ていってしまうナトリウムイオンなどの浸透圧をどう調節するのか、海水、淡水ではどのようなホルモンスイッチが代わって起動しているのか、ムツゴロウのように口や皮膚からも酸素摂取を行う魚の生体内機構はどうなっているのかなど、未知の部分も多い。



行動学・摂餌:生物学・神経科学的興味も満たされる


行動学は、体内時計に関係するような昼夜の日周行動リズム、共食い、親と子どもの泳ぎ方の違いなどを研究する。それらをホルモンとの関係で研究すれば内分泌行動学、神経との関連で研究すれば神経行動学となる。行動研究は必ずしも水産業に直結するとは限らないが、イルカやクジラの知能研究などにつながる理学的な魅力を持つ。エサの与え方につながる摂餌の研究は水産業に直接役立つ。まいたエサの残りが環境汚染を招くことから、魚が食べ残さないですむ自発的な摂餌システムなども開発が進んでいる。


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