物理化学、分子シミュレーション

スーパーコンピュータによる水・氷・ハイドレートの科学

松本正和先生 研究インタビュー

岡山大学 大学院自然科学研究科/理学部化学科

 

松本正和先生
松本正和先生

◆先生の研究分野「水と氷の科学」を簡単に教えてください。

物質の性質には、1つの分子が持つ性質と、分子がたくさん集まってはじめて生じる性質があります。例えば、氷と水は、どちらも水分子が集まった物質ですが、集まり方が違うために性質はまったく違います。私は、なぜ集まり方に違いがあるのか、その中で、個々の分子はどのようにふるまっているのかを知りたくて、理論とコンピュータシミュレーションを使って、分子の世界をその場観察し、ミクロとマクロの橋渡しをしようとしています。



◆さらに発展させようとしている研究は、どのようなものですか。それは、どんな社会的な成果になっていくのでしょうか。

水のような単純な分子が何千何万も集まった場合に、集団としての水はどんな性質を生み出すか、ということを考えます。水には、ほかの物質にはない様々な異常な性質があることが知られていますから、氷になったり、液体の水になったりする、というほとんど自明な(どんな物質でも同じように起こる)変化以外に、一見してそれとはわからないが、水にしか起こらない変化があるはずです。それは、水分子のどこに注目すれば見えてくるのか探ります。

実験にもとづく研究の場合、限られた情報(観測)から、分子スケールで何が起こっているかを推測する必要があります。一方、コンピュータシミュレーションの場合、すべての分子の位置や動きは完全に捕捉できる代わり、情報が多すぎて何が起こっているのかがわかりません。莫大な情報の海の中から、注目すべき情報を漉しとる必要があり、実験による研究とはまた違う種類の困難があります。

このような視点に立つと、シミュレーションによる水の研究は、人工知能やビッグデータといった情報科学の分野になじみやすいことがわかります。水の相転移を研究対象とするのは、水が地球や宇宙に遍在し、しかも面白い性質をたくさん持っていることももちろんあるのですが、水ぐらい単純な分子じゃないと、今の計算機では相転移を扱うのはまだまだ荷が重いということもあります。計算機は指数関数的に性能が上がり続けていますので、単純な分子でいろいろ調べる方法を作っておけば、将来、より複雑な分子を扱うようになった時にも役に立つでしょう。



◆先生が指導されている学生の研究テーマ・卒論テーマ、大学院生の研究テーマを教えてください。
 

 ・氷IIのプロトン秩序に関する理論研究
 ・ハイドレートの成長と分解の速度の研究
 ・ガスハイドレート中のガス分子の拡散速度
 ・水溶液からの塩の析出
 ・高圧氷の相転移と臨界現象
 など

◆高校時代は、どのように学んでいたか、何に熱中していたかを教えてください。

高校時代は「勉強のしかたを学んだ」ように思います。数学なら数学で、同じような問題集を数冊平行して解いていき、ある本の説明がわかりにくければほかの本の説明を読んでみる、というのが、障害をいちばん早く乗り越えられる方法だと思いました。

熱中していたことはいろいろありますが、プログラミングには特に熱を入れていました。30年前当時の非力なコンピュータの性能をどこまで引き出せるか、授業中にノートにプログラムを書いていた覚えがあります。後から思うと、ろくなOSもプログラム言語もないひどい時代でしたが、そのせいでいろんな力技を身につけた時期でもありました。


<先生の研究をさらに知るなら>
◆名古屋大学理学部情報誌「理 philosophia」第20号
「五角形の雪はつくれるか」と題した講演録参照
http://www.sci.nagoya-u.ac.jp/kouhou/backnumber.html

◆研究室のHP(URL)
http://theochem.chem.okayama-u.ac.jp

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スーパーコンピュータによる水・氷・ハイドレートの科学

 松本正和先生 岡山大学 大学院自然科学研究科/理学部化学科


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『[新装] 氷の科学』

前野紀一(北海道大学出版会)

意外と知られていない氷の素顔を、結晶構造や物性、火星の雪や宇宙の氷など、多彩な角度から紹介する氷の科学の入門書。前野先生の語り口は柔らかく、どんどん読み進められ、いつのまにかものすごくマニアックな話にひきずりこまれている。日本の氷と雪の研究は、中谷宇吉郎を祖として長い歴史と膨大な知識の蓄積があり、この本はそれを広くカバー。隅々まで読めば、氷の科学者にもなれる。

 

科学者は、巧妙な実験によって、氷の様々な性質を明らかにしてきた。しかし、実験で実際に水分子が並んでいる様や動いている様がみえているわけではないのだ。例えば、野球の試合結果が20-0と聞けば、その試合の中でホームランやヒットが乱れ飛んだことは想像できるが、試合の実況まではわからない。実験で見えるのは試合結果だけで、シミュレーションを使えば、実況中継ができる。何がきっかけで、結末が決まったかを、具体的に見せられるのだ。

ただし、氷の中で起こる様々な現象のうち、シミュレーションで再現できたものはまだわずか。これまで実験家が説明してきた氷の性質が、本当に氷の中で起こっていることを的確にとらえているのか、もっと良い説明があり、もっと面白い例外があるのかを、コンピュータシミュレーションを駆使して調べていきたいと考えている。

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 『水とはなにか―ミクロに見たそのふるまい』〈新装版〉

上平恒(講談社ブルーバックス)

地球上の生命は海の中で誕生し、今もすべての生物は体内に海を抱いている。生物は水をどのように活用しているのか、生体内での水の役割が詳しく解説。水とは何か、水の研究の現状を知りたい人に最適の一冊。

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