生殖生物学/動物バイオテクノロジー

遺伝子組換えの最新研究へ ~緑色蛍光細胞作りに成功した!

南直治郎先生 京都大学 農学部 資源生物学科 生殖生物学分野

『カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書』(上・下)

ラインハート・レンネバーグ 監:小林達彦、訳:田中暉夫、奥原正國(講談社ブルーバックス)

ユーロ圏を始めとしアメリカの大学でも採用される世界標準のバイオテクノロジーの教科書。といっても、iPS細胞の山中先生はじめ、様々なバイオの歴史のコラム、美しいイラストなどが詰め込まれ楽しく読める。上巻では、発酵など微生物に関わるバイオテクノロジーが、下巻では、ウイルス、抗体、ワクチン、クローン、トランスジェニック動物、がん、幹細胞、ヒトゲノムなどがわかる。

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第1回 生殖細胞=卵子を操作。マウス、ラット、ブタ、昆虫、魚などで

 

南直治郎先生
南直治郎先生

精子と卵子という生殖細胞の研究をしています。卵子と精子は受精する前は遺伝子発現を完全に停止した状態で存在します。卵子と精子が受精すると初めて遺伝子発現が開始します。この最初の遺伝子発現を「胚性ゲノムの活性化」と呼んでいます。受精卵は発生を続け、個体となって次の世代を残していくわけですが、その発生過程にはどういう遺伝子が関与しているのかを調べています。様々な遺伝子の働きを調べる方法の一つに、遺伝子組換え動物を利用する方法があります。遺伝子組換え動物を作るには卵子や受精卵を顕微鏡下で操作する必要があります。一時期話題になった体細胞クローン動物を作出する技術も、卵子を操作して行われます。また、子供ができない人のための生殖補助医療である体外受精も、卵子や精子を体外で操作して実施する技術です。


遺伝子組換え動物の前に、遺伝子組換え食品の話を少ししたいと思います。なぜ遺伝子組換え食品を作るのかというと、例えば除草剤に耐性のある遺伝子やウイルスに強い遺伝子を導入した作物を作ることによって、作物の生産性が向上し、食糧増産に役立つからです。主に、ダイズ、トウモロコシ、ナタネなどで行われています。


海外で生産された遺伝子組換え食品がどれくらい日本に入って来ているのかというと、ある米・食品会社の日本法人のホームページによれば、日本で消費されるダイズの75%、トウモロコシの80%が遺伝子組換え作物とのことです。みなさんも「遺伝子組換え食品は使っていません」という表示をよく見かけると思います。日本ではまだ食用の遺伝子組換え作物は作られていません。遺伝子組換え食品は消費者にとって、まだかなり抵抗感があるのかもしれません。

 

動物はマウス、ラットなど実験用

さて遺伝子組換え動物の話をしましょう。動物の場合、まだ遺伝子を組み換えた食品は出回っていません。特に法律の規制があるわけではありませんが、以前にアメリカで食用に使っていいかどうかの議論がありました。安全性について問題はなかったようですが、最終的にアメリカ政府がオーケーを出していないようです。その影響でしょうか、日本でも流通していません。


このような理由から、遺伝子組換え動物は、実験研究用に作出されることがほとんどです。主に、マウス、ラット、ブタ、昆虫や魚類で行われています。その作出方法を紹介しましょう。遺伝情報は1方向に流れるという、DNAのセントラルドグマというものがあります。つまり、遺伝情報はDNAに貯蔵されており、「DNA→メッセンジャーRNAに転写され→タンパク質に翻訳」という順に伝達されて機能します。

動物は成長するにしたがって、DNAを複製し細胞分裂を繰り返します。この遺伝情報を元に、細胞がそれぞれ独自の機能を持ったり、様々な種類の生きものが生存したりするプロセスです。遺伝子組換え動物は、細胞が持っているDNAの配列に、特定の機能を持ったタンパク質を作るためのDNA(遺伝子)を組み入れることにほかなりません。


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『カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書』(上・下)

ラインハート・レンネバーグ

監:小林達彦、訳:田中暉夫、奥原正國(講談社ブルーバックス)

ユーロ圏を始めとしアメリカの大学でも採用される世界標準のバイオテクノロジーの教科書。といっても、iPS細胞の山中先生はじめ、様々なバイオの歴史のコラム、美しいイラストなどが詰め込まれ楽しく読める。上巻では、発酵など微生物に関わるバイオテクノロジーが、下巻では、ウイルス、抗体、ワクチン、クローン、トランスジェニック動物、がん、幹細胞、ヒトゲノムなどがわかる。

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『高校生からのバイオ科学の最前線 ―iPS細胞、再生医学、ゲノム科学、バイオテクノロジー、バイオビジネス、 iGEM』 

生化学若い研究者の会(日本評論社)

新進気鋭の若手研究者たちがやさしく解説する、最新の「生命科学の教科書」。基礎知識だけでなく、社会でどう役立てられ、どのような問題が起きているかがわかる。第1章はES細胞、iPS細胞と、再生医療にやや重きが置かれている感があるが、「高校生レベルの知識で、最先端のバイオを理解したい」人に。

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『生命科学の冒険 ―生殖・クローン・遺伝子・脳』

青野由利(ちくまプリマー新書)

最先端を追う「わくわく感」もあるが、同時に倫理問題も投げかける生命科学。著者は科学ジャーナリスト。生殖技術・クローン技術と再生医療・遺伝子・脳科学についての論点がわかる。

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