生殖生物学/動物バイオテクノロジー

遺伝子組換えの最新研究へ ~緑色蛍光細胞作りに成功した!

南直治郎先生 京都大学 農学部 資源生物学科 生殖生物学分野

第2回 いつ、どこで、どんなタンパク質を発現させるか

 ~有性生殖の受精後の染色体の半減に迫りたい

遺伝子組換え動物の作り方は、導入したい遺伝子を実験室で構築することから始まります。私たちの遺伝子組換えマウスを例に説明してみましょう。


最初に重要なことは、導入したい遺伝子を、マウスが生まれた後の、いつ、どんな場所(組織や細胞)で発現させたいかを決めることです。例えばその遺伝子をマウスが産まれてから、脳で発現させたいのか、心臓で発現させたいのか。それをコントロールすることが今では技術的に可能です。こうした遺伝子が発現する場所と時間を決定するDNA配列があり、これをプロモーター配列と言います。

 

次に重要なことは、どういう機能を持った遺伝子を発現させたいかです。例えば植物であれば害虫に抵抗性のある遺伝子を発現させることができれば、生産性の高い作物を作ることが可能になります。言い換えれば、何かの機能を持っているタンパク質をコードしているDNA配列を決めてやる必要があるのです。私たちのマウスの場合、GFPという緑色に光る蛍光タンパク質のDNAを導入することにしました。GFPとはノーベル化学賞を受賞した下村脩博士の発見したものです。


もう1つ重要なことは、DNAをタンパク質に翻訳することを促進する配列を組み込む必要があることです。これをポリAシグナルと言います。以上の原理を踏まえて、私たちは雌の生殖細胞である卵子の細胞膜でGFPを発現するようにデザインしたDNAを構築しました。

次にいよいよ組換え遺伝子を細胞に導入する実際の作業です。哺乳動物の場合、遺伝子組換え動物を作る時には、受精卵を使います。この絵は受精5~6時間後の受精卵です、まだ細胞分裂していませんから1個の細胞です。この中に卵細胞に由来する雌性前核と、精子由来の雄性前核が見えます。そのうち雄性前核に、組換えDNA溶液を注入します。マウスの受精卵の直径は約80ミクロンのサイズですので、顕微鏡下の作業になります。

外来の遺伝子を入れた受精卵は、雌マウスの借り腹に移植し、20日後に生まれます。生まれてきた子マウスのうち、組換えマウスのできる確率は10~20%くらいです。

この写真は組換えマウスの卵巣切片を蛍光顕微鏡で見たものですが、卵巣の中にある卵子が緑色に光っていることが確かに確認できます。青色に光っているのは、細胞のDNAです。これは全ての細胞で光ります。

同様の原理を用いて、私たちは光る精子の作出にも成功しました。

私たちの最終的なターゲットは生殖細胞特異的な分裂様式である減数分裂の仕組みを解明するための組換えマウスを作ることです。減数分裂とは、受精で2倍になった染色体数を半減させること。それは生殖細胞が作られる過程で最も巧みな仕組みの1つです。減数分裂にかかわる遺伝子を解析し、有性生殖をする生きものナゾに迫りたいのです。

 

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