発酵学・応用微生物学

世界87ヵ国まわって見つけた、驚きの発酵食品

小泉武夫先生 東京農業大学名誉教授 (元 応用生物科学部醸造科学科)

『発酵は錬金術である』(新潮選書刊)

泡盛の蒸留廃液から「もろみ酢」、かつお節の削りカスから「天然液体かつお節」など、発酵の力を駆使して、廃棄物を資源に変え、ヒット商品に。無駄なものや捨てていたものも、発想次第で金のような価値あるものに変身。発想のカギは、「逆転」と「好奇心」にあるとか。その柔軟で大胆な発想は、私たちの生活の中でも役に立つでしょう。

出版社のサイトへ

第1回 微生物はすごい!30年も40年も長持ちさせる発酵

小泉武夫先生
小泉武夫先生

微生物が食べ物を生み出す!


今日は、食と民族の研究の中で出会った珍しい、心に残った発酵食品を紹介します。発酵食品とは、目に見えない小さな微生物の力を借りて作る食品です。


発酵で使われるおもな微生物には、お酒やパンを作るときに使う酵母、みそや醤油を作る麹菌、納豆を作る納豆菌やヨーグルトや漬物を作る乳酸菌があげられます。酵母はイースト菌ともいい、丸い形をしています。麹菌は、小さなつぶつぶを持っています。これは胞子で強烈な増殖力を持っています。納豆菌は稲わらにつく菌で、激しく増殖するときに糸を引くと考えられていましたが、私たちの研究では増殖前から糸を引くことがわかりました。納豆菌は、相当ぬらぬらが好きなようです。


発酵食品の特徴は何より腐らないこと、長く保存できることです。食品を保存するには、乾燥や燻製などいろいろな方法がありますが、最良の保存法は発酵です。発酵させると、食べ物はおいしくなり、栄養性を保ったまま保存できるからです。

 

170年前のグルジアのチーズ

中国で40年前の「コイのなれずし」を食べたことがあります。なれずしとは魚を塩と米で乳酸発酵させたものです。チョワン族は、子どもが生まれるとお祝いにたくさんコイを贈ります。そのコイをなれずしにしておいて、誕生日など人生の節目に取り出して食べます。私が訪れたときはちょうど村長の40歳の誕生日で、40年前に漬けたコイを食べました。40年前のなれずしは、薄く切ると硬いチーズのようでした。それをスープなどにして食べます。もっと古いものでは、グルジアで170年前の「羊の乳のチーズ」を食べました。表面は真っ黒ですが、石の上で砕いたら中は飴色。とろけるようなチーズの味がしました。


日本では、和歌山県の新宮市で30年前の「さんまのなれずし」を食べることができます。薬壺に入れてあり、魚も米もとろとろに溶けています。ヨーグルトのような味がしました。


いくつかの例をあげましたが、発酵させると食品は腐らず、こんなにも長く保存することができるのです。

 

(2014年7月27日、一般社団法人自然科学書協会主催の講演会にて)

小泉先生の本

 『発酵は錬金術である』(新潮選書

泡盛の蒸留廃液から「もろみ酢」、かつお節の削りカスから「天然液体かつお節」など、発酵の力を駆使して、廃棄物を資源に変え、ヒット商品に。無駄なものや捨てていたものも、発想次第で金のような価値あるものに変身。発想のカギは、「逆転」と「好奇心」にあるとか。その柔軟で大胆な発想は、私たちの生活の中でも役に立つでしょう。

出版社のサイトへ

『発酵食品礼讃』(文春新書)

発酵の原点からバター、チーズ、納豆、鰹節から火腿(ハム)、野鳥の塩辛、珍酒まで、この1冊で世界の発酵食品がわかります。講演に出てきた「キビヤック」や、スウェーデンの「シュールストレミング」、韓国の「ホンオフェ」など珍しい発酵食品も紹介されており、発酵食品の魅力がつまっています。
出版社のサイトへ

『小泉教授が選ぶ「食の世界遺産」日本編』(講談社文庫)

日本の伝統食を「食の世界遺産」として選定し、握り飯やだし、梅干しなどの基本の食から、ふぐの卵巣の毒抜き、いらぶー汁、魚骨料理、花料理、灰汁巻きなどの珍味まで68品を、自身の体験談とともに紹介。平成25年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、この本を通して、日本の食文化の知識を深めることができます。

出版社のサイトへ

『発酵食品学』(講談社)

世界の様々な発酵食品を酒類、調味料、発酵食品にわけて、文化や歴史から製造法、最新技術までを網羅しています。食品学を学ぶ人や専門家向けの専門書ですが、食品に興味のある人にとっても読みやすい本です。イラストや写真も豊富で、発酵と腐敗はどう違うのかといった疑問にも答えてくれます。

出版社のサイトへ