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発酵学・有用微生物学

学問講座

不思議な微生物の代謝システムを知ろう!

微生物を使えば何でも作れる

微生物は、ブドウ糖やグリコーゲンなどの糖を栄養分として与えると、アルコール、乳酸、アミノ酸など様々な物質を作り出す。それは、人間の体が複合的に行っている様々な作用を1つずつに分解したり、ある1つの作用に特化した、小さな物質生産工場に例えられる。そして40億年前、生命進化のごく初期に誕生した微生物に、人間の体が今生産し使っている物質のほぼすべてが備わっていたことを意味する。言い換えれば、人間はそれを複合化・巨大化して自然環境に適応する戦略を採って生き残ってきたが、微生物は、その1つの機能だけに特化して生き残ってきたといえる。

 

ところで、有用物質を生産するための研究はどのようになされるのだろうか。

 

まずは単純に、有用な物質を生産する微生物の探索。微生物研究者にいわせると、微生物の多様性と万能性を合わせれば、どんな物質も作れないものはないという。次に、捕ってきた微生物をフラスコの中で培養し、それらにブドウ糖など栄養分を与える。そうすると、遺伝子のスイッチが入り、次々と酵素が作られ、それを使ってグルタミン酸や酢酸など有用物質が作られ始める。

 

横取り技術で、できたものはいただき!

しかし、そこでできたものは、基本的に微生物が生きるために必要な物質なので体内に貯め込む場合が多く、大腸菌などは97%を自分の栄養分にする。だから、その物質を利用するには、生産物を外部に放出してくれる微生物が使いやすい。酢酸菌は、体内で作った有機酸のほとんどを体外に排出する。排出によって自分のまわりのpHを下げ他の微生物を近寄らせない。それはまさに、カビに抗生物質を作らせるときの発想だ。

 

しかし、大部分の微生物は生産物を体に貯め込んでしまうので、それを何とかして外に出させなければならない。その放出にはいくつかの異なる方法がある。アミノ酸のような低分子成分は膜輸送体タンパク質によって排出される。協和発酵(現協和発酵キリン)は、ビタミンとグルコースとアンモニアを与えて微生物にグルタミン酸を放出させることに成功した。

 

また、枯れ木のセルロースを分解して自分の栄養にするため枯れ木の中にセルラーゼという酵素(タンパク質)を出すような微生物がいる。セルラーゼのようなタンパク質の排出では、細胞内から細胞膜を経て排出させる特殊なタンパク質輸送システムによって排出される。

 

この輸送システムは、東京薬科大生命科学科を創設した故水島昭二先生によって明らかにされた。先生は、大腸菌内のタンパク質を細胞膜まで運び、さらに細胞膜を通過させる働きをするシグナル遺伝子を、塩基配列上に見つけた。この遺伝子は、今では遺伝子組み換え技術で微生物の遺伝子に導入され、有用タンパク質を体外に排出させるために盛んに使われている。有用物質を作る微生物には、細胞分裂する際にUV放射などをして確率1億分の1レベルの突然変異を起こさせ、より生産性の高いものに改変していく。排出された有用物質は、生理活性物質化学分野の仕事に託されることも多い。例えばビタミンCや肌色着色剤などは、酢酸菌から出た物質を精製、場合によってはさらに化学合成して作られる。

 

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