環境・バイオの最前線

発酵学・有用微生物学

環境にやさしいホワイト・バイオテクノロジーの時代へ

  

細菌や酵母に、有用物質を作らせる外来の遺伝子を入れ込んで、有用物質を作る遺伝子工学の方法は、複製という意味でクローニングといわれ、バイオ関連の研究では必須の手法だ。それは、細胞自身が勝手に増殖することも手伝って、従来の有機合成の手法ではとても真似できないような物質を世に送り出す。しかも常温・常圧で行えるため、有機合成より消費エネルギーが少なくて済む。つまり余分な化学材料を使わずクリーンな条件で物質生産でき、環境への負荷が大きい従来の化学工業の課題を克服できるのだ。とはいえ、遺伝子を入れ込む成功率は決して高くない。また、菌自身にも外来遺伝子を排除し、その働きを抑えるシステムがある。それゆえ微生物に有用物質を作らせる方法は、なかなか一般的にはなりにくい。

 

そんな中、微生物が生きるために最低限必要な遺伝子だけを残し、それ以外を除いて車のシャシーのようにする。そして外来遺伝子をどんどん入れられる、生産に都合のよい微生物を人工的に作ろうという考え方が、アメリカを中心に広まりつつある。その背景となる研究成果として、枯草菌の約4100の遺伝子の中で絶対に必要なもの(遺伝子の複写・翻訳といった機能を果たす遺伝子)は、約350にすぎないことを板谷光泰先生(当時・三菱化学生命科学研究所、現・慶應義塾大学環境情報学部教授)らが解明、また、最も早くヒトゲノムを解明し話題になったアメリカのセレラ社は、最小ゲノム生物(マイコプラズマ)の遺伝子517個のうち、最低限必要な遺伝子は300と発表、さらに、慶應義塾大冨田勝先生はコンピュータシミュレーションで遺伝子細胞を作り、わずか127個で、分裂こそできないがタンパク質合成機能を備えた微生物を作れると報告している。

 

そして2001年、経済産業省が5か年計画で、ミニマム(最小)ゲノム生物を作るという構想を打ち上げた。大腸菌、枯草菌、酵母など5つの微生物を、汎用性の高い微生物工場(ミニマムゲノムファクトリー)にしようというのだ。

 

5年後その研究成果は「微生物機能を活用した高度製造基盤技術の開発」に引き継がれ、2011年プロジェクトは終了した。

 

発酵学分野の研究者が参画する次の新しいプロジェクトは、ミニマムゲノムプロジェクトとはまったく違った方向から登場した。それは有用物質生産に都合のいい微生物を人工的に作るのではなく、自然から学び、これまで発見されなかった有用な新規酵素を探索するというもので、環境にやさしい化学工業技術「ホワイトバイオテクノロジー」と呼ばれ、注目される。中心になる研究者は富山県立大の浅野泰久先生。「浅野酵素活性プロジェクト」と自らの名前が冠せられたプロジェクトは、微生物だけでなく植物や昆虫が有する温和でクリーンな酵素反応を探求し、アミノ酸や抗生物質といった有用物質の合成、健康診断法にも応用できる基盤の創出をめざしている。科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業総括実施型研究」(ERATO:エラトー)に採択された。

 

それ以外のプロジェクトでは、最先端のバイオテクノロジーを駆使し、低炭素化に向けた革新的なCO2固定や、エネルギー・次世代燃料・物質生産等を実現することをめざすALCA(先端的低炭素化技術開発)プロジェクト、木質バイオマスからの高効率バイオエタノール生産などをめざすNEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)のバイオマスエネルギー利用技術の実用化に向けたプロジェクトなどがある。

 

いずれのプロジェクトも、環境問題の克服、再生可能エネルギーの高効率利用に、発酵学・有用微生物学の大学研究者が加わるあたりが、今日的だ。

 

発酵学・有用微生物学

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