社会システム理論
『今こそ、学問の話をしよう』スペシャル
〜震災を通した大学教員と被災地/宮城・福島の高校生との対話
<河合塾・東日本大震災 復興と学び 応援プロジェクトから>
◎宮台真司先生からのメッセージ
復興は共同体自治へ~便利・快適よりも幸せや尊厳を

【BOOK】宮台真司先生の本
『原発社会からの離脱――自然エネルギーと共同体自治に向けて』宮台真司、飯田哲也 (著) (講談社現代新書)
宮台先生が、「震災後、原子力エネルギーとその他のエネルギーについて、技術的合理性や政策的合理性をあらゆる面で比較して議論できる方は、飯田氏一人しかいない」と、自然エネルギー政策の国際的な専門家である飯田哲也氏と議論しできたのが本書。原子力と各種自然エネルギーについて、従来の議論とは異なり、「人々の動きの非合理性に焦点を当てて深く議論」しているのが特徴です。北欧などの自然エネルギー政策もわかる。
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【Message】
復興は共同体自治へ~便利・快適よりも幸せや尊厳を
宮台真司先生 首都大学東京 都市教養学部 人文社会系 社会学コース
[ 社会学 /研究領域:社会システム理論 ]
震災で日本の脆弱さが露呈した。想定外うんぬんは出鱈目だ。チェルノブイリ原発事故の同年に出た社会学者ベック『危険社会』によれば、想定外の際に事態を収拾可能か否かが問題だ。ギネス級堤防があったのに全滅した所がある一方、低い堤防しかないのに「想定に囚われるな、全力で逃げろ」との教えで全員助かった所があった。「絶対安全な」原発にせよ堤防にせよ、〈システム〉過剰依存が〈システム〉崩壊の際に地獄をもたらす。
防災に限られない。欧州では、共同体が〈市場〉や〈国家〉などの〈システム〉に過剰依存する危険を共通認識とする。だからスローフードや自然エネルギーが普及した。日本はグローバル化で〈市場〉と〈国家〉が回らなくなって以降、自殺・孤独死・高齢者所在不明・乳幼児虐待放置が噴出した。〈システム〉過剰依存と共同体空洞化が原因だ。震災でも、支援物資や義援金を配れない状態が続いた。行政は平時を前提とするから非常時に期待できない。反省すべきは共同体自治の脆弱さだ。復興は共同体自治へ。
食とエネルギーが手掛りになる。欧州は、チェルノブイリ原発事故を機にスローフード化と自然エネルギー化が進んだ。食とエネルギーの共同体自治だ。〈システム〉機能不全の際の安全保障になり、経済発展も生む。株式時価総額1兆円超の自然エネルギー企業が世界に4社あるが、日本企業は皆無だ。特定の電力会社からしか電気を買えないのは変で、電力会社も電源種も自家発電も選べるのが先進国標準だ。共同体自治による復興には産業構造改革・税制改革・霞が関改革が必須だ。
だが、制度に加えて、価値観も変える必要がある。日本のGDPは世界3位だが、幸福度は75位以下だ。エネルギーや物に頼らなくても幸せに溢れた社会がある。そう、学習や研究の〈最終目的〉が問われている。〈システム〉過剰依存を加速するだけの学問か、共同体自治に必要な知識社会に貢献する学問か。日本は前者に偏った結果、大きなしっぺ返しを食った。宗教が生活に根付いた社会(欧米もそう)では、便利や快適よりも幸せが、そして幸せよりも尊厳が、大切だと考える。尊厳には、自治が不可欠なのだ。
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『原発 決めるのは誰か』
吉岡斉、寿楽浩太、宮台真司、杉田敦
(岩波ブックレット)
福島第一原発事故後、「脱原発」を求める声が高まる一方で、安倍政権では原発再稼働に向けた動きが進んでいる。原子力政策を実際に決めているのは誰であり、本来は誰であるべきなのか。専門的な知識も求められる原子力政策に、私たち市民はどのように関わっていけるのか。このことを考えるために、市民グループ「みんなで決めよう
「原発」国民投票」(共同代表:宮台真司・杉田敦の両氏)が、科学技術政策を専門とする吉岡斉氏と寿楽浩太氏を招いて、公開シンポジウムを実施(2014年夏)。その記録をもとに書かれた本。
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中高生からの感想 ~先生の記事を読んで

過剰依存と共同体自治の希薄さから今日の日本の脆さが露呈したという点でとても共感することができました。平常時だけの想定、利便性だけを追求したシステムが震災で地獄を味わうはめになりました。そして幸福度の低さに驚きました。個人の尊厳を守りつつも日本のあり方を考えて、被災地を新たに新興してゆくためにこれからの勉強に励んでゆきます。(高2・男子・S.S)

「震災で日本の脆弱さが露呈した」、このフレーズがとても印象的でした。本当にそうだと思いました。はっきりとしない態度の日本政府をさらに全世界に見せられたと思います。社会システム理論というのは初めて触れる学問ですが、今の世界の状態を理解するには必要なことなのではと思いました。くわしく勉強していったらとても楽しそうだと感じました。(高2・女子・T.R)

今の日本が行っている政治の問題点とその解決策を見つけ出し、政治制度を変えていくのは確かに重要なことではあるが、価値観も変えていかなくてはならないという意見には深く共感した。私は社会学か経済学を大学で学びたいと思っていたので、食とエネルギーに関する先生の話を通じてより社会学に興味を持てたのではないかと思う。(高2・男子・S.T)

宮台先生の考える共同自治は確かに魅力的です。ですが、現時点で私は日本における共同自治の意識改革の現実味に関して疑問を隠せません。それは今の日本の社会システムが固定化されつつあるからです。行政に頼りすぎない地方自治は理想ではあります。しかし私が住んでいる宮城もそうですが、今や家庭は核家族化・一人家族化が進み、地域から離れる風潮が強まっているように思えます。そういった社会の中へ共同自治という新たな理想を波及させるのはそう容易ではないと考えるのです。各自治体の役所が定めた方針をどのように民間へ発信し浸透させていくのか。私は来年度から首都大の都市教養プログラムで学びたいです。(中3・男子・T.W)

欧州は共同体が<市場>や<国家>などのシステムに過剰依存する危険を共通認識とするが、日本はグローバル化で<市場>と<国家>が回らなくなって以来、自殺、孤独死が増えていったことを悲しく感じる。日本がGDPは3位、幸福度は75位以下という。現実を見て変えて行くべきだと思う。(高1・男子・H.M)

〈システム〉過剰依存が〈システム〉崩壊の際に地獄をもたらすというところが大変印象に残り、「エネルギーか物に頼らなくても幸せに溢れた社会がある」というところに大変関心が持てた。自分はこういったことをあまり考えず、日々ダラダラ過ごしていた気がするので、そういったことも考えながら日々の生活を過ごして、もうちょっとまともな人間になりたいと思った。(高2・男子・M.T)

想定外の際に事態を収拾可能か否かが問題。〈システム〉過剰依存が〈システム〉崩壊の際に地獄をもたらす。この2文がとても印象に残った。頼ることよりも自治のほうが大事なんだと思った。(高2・男子)

エネルギーや物に頼らなくても幸せな社会をつくるには尊厳だ大切だということには本当にその通りだと思った。日本のこれからの課題をずばずばと指摘していて、関心が持てた。(高2・男子・Mr.Full Swing)

私自身もそうなのだが、真司先生の言っている「日本は想定外の事態に対応するのが遅い」というのは現状だと思う。というよりは、自分は大丈夫だと思っているんだと思う。自身の命を守るために心の準備はしておいた方がいいと感じた。(高2・男子・ムウ)

「想定に囚われるな、全力で逃げろ」という言葉が印象に残った。<システム>や自分の力を過信することで結局ひどい目にあうということに気づいた。勉強面でも全力で取り組むことが必要だということに気づいた。(中3・女子・K)

日本の弱さが詳しく書いてあって面白かった。これからは自分たちが日本を強くしようという気持ちが生まれた。(高2・男子)

システムやマニュアルはあった方がいざという時のためによいと思っていたけど、依存し過ぎることは心にすきを生むと地震と通じて感じた。(高3・女子・M.K)
宮台真司先生の書いた本から

『14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に』
宮台真司(ちくま文庫)
「これからの社会をどう生きればいいのか」という問題に正面から向き合った。「自分」と「他人」、「社会」と「ルール」、「恋愛」と「性」、「死」、「自由」などを語る。最終章では、BOOK&MOVIEガイドも。「14歳からの」とあるが、高校生にも十分歯ごたえのある一冊。

『日本の難点』
宮台真司(幻冬舎新書)
「すべての境界線があやふやで恣意的な時代」となっている現代の日本でどう生きていくのか。どう深くかかわっていくのか。コミュニケーション論・メディア論、若者論・教育論、幸福論、米国論、日本論という5本立てで、まさに「日本の難点」を列挙していく。

『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』
宮台真司(幻冬舎)
本書は、2009年度のベストセラーであった『日本の難点』の続編として位置づけられる。宮台先生が長年書いてきたものを、文化、社会、技術、政治などのテーマで俯瞰できる、集大成的な本。400ページを超える厚さだが、社会学の予備知識がなくても読み進められるようになっている
宮台真司先生のご紹介

宮台真司(みやだい・しんじ)
首都大学東京 都市教養学部 人文社会系 社会学コース
1959年宮城県生まれ。社会学の数理分野である社会システム理論を軸に、国家論、宗教論、性愛論、若者文化論、日本思想史、西欧思想史などを研究しています。今回の原発災害については、技術的文脈とは別に、社会的文脈を問題にしています。