神経化学・神経薬理学
記憶を担うタンパク質の動きが見えてきた!
~アルツハイマー病の原因、そして心に迫る
白尾智明先生 群馬大学 医学部 神経薬理学分野

おススメ本
『記憶をあやつる』
井ノ口馨(角川学芸出版)
「記憶は人為的に書き換えることができる!」。記憶形成に関与する分子を発見した気鋭の分子脳科学者、富山大学井ノ口先生が、記憶研究の歴史をたどりつつ、記憶研究の最新成果を紹介。
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第1回 心にとって脳は大事なものか
脳はいらないもの? ~ミイラでは捨てられていた

誰もが、「脳は本当に重要だよな」と思っていることでしょう。でも、大昔は、「脳はあんまりいらない」と思われていました。
古代エジプトではミイラを作りますが、エジプトの人は、「死者は甦るから、甦るときに必要な物はとっておきましょう」と、ミイラの横に、カノポスの壺を置いておいて、この中に心臓や肝臓などの臓器を詰めておきました。脳みそは邪魔で、一番腐りやすいので、真っ先に捨てられていました。心臓なら、ドクドクと動いて血を体中に送って、この血がなくなっちゃったら、もう生きていけないというのはわかるけれど、脳は何だかわからなかったと思います。

では、いつ頃、人は脳が重要だと気づき始めたのでしょう。それは、今から400年くらい前のことです。哲学者のデカルトが1644年に出された『哲学の原理』という本の中で、脳の重要性を世に問いました。心臓は昔から重要だと思われていましたが、その重要な心臓と脳は太い血管で直結しています。だから、脳も重要だと考えたのです。そういう意味ではデカルトが初めて、「脳は大切な物ですよ」と言った人です。ただ、デカルトは脳の役割はハッキリとはわからなかったと思います。
心はどこにあるの ~細胞の森の中のどこに

私は、脳や神経の研究をずっと行っていますが、神経細胞の森が脳であり、この細胞ももともとは分子とかタンパク質からできており、それらが心とどう関係するのか、その一番の目的は、心のあり方を見つけることです。「心って何かな」、「どうやって生きているんだろう」といつも考えて、研究しています。
今までの生物学の研究では、生きることにとって一番大切な単位は細胞であると考えられています。では、心ではどこが重要なのでしょう。分子に心はないというと、ほとんどの人が「そうだろうな」って言ってくれると思います。じゃ、細胞はどうだろうか?というと、やっぱり1個の細胞には心はなさそうな気がします。結局、細胞の森に心があるらしいと現代科学のほとんどの人が考えていると思っています。

そのネットワークの接点、つまり神経細胞と神経細胞の接点になっているのが、シナプスです。まだ、仮説ですが、このシナプスに心があるのではないかと私は思っています。
興味がわいたら

『記憶をあやつる』
井ノ口馨(角川学芸出版)
「記憶は人為的に書き換えることができる!」。記憶形成に関与する分子を発見した気鋭の分子脳科学者、富山大学井ノ口先生が、記憶研究の歴史をたどりつつ、記憶研究の最新成果を紹介。
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『脳科学の教科書 神経編』
理化学研究所脳科学総合研究センター:編(岩波ジュニア新書)
世界有数の脳科学の研究拠点、理化学研究所脳科学総合研究センターが編集した、現在の脳科学の基礎がわかる入門書。感覚や運動、記憶などの基本的な脳の働きについて詳しい。
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『脳科学の教科書 こころ編』
理化学研究所脳科学総合研究センター:編(岩波ジュニア新書)
こころに関する臓器としての脳を解説。第3章では、言語を、第4章では、感情と情動を取り上げている。脳を調べる手段である脳画像法の原理なども紹介。文系なら、上記の「神経編」よりこちらから読んではいかが。
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『アルツハイマー病の早期診断と治療:脳を知る・創る・守る・育む15』
金澤一郎、伊藤正男、武田雅俊、柚通介、田中沙織、黒田公美、津本忠治:著 NPO法人脳の世紀推進会議:編 (クバプロ)
シナプスとアルツハイマーの関連がわかる一冊。21世紀は脳の世紀と言われる。脳科学にかける期待と展望に始まり、アルツハイマー病の治療薬開発、記憶を支える構造「シナプス」はどのように形成され失われるのかなど、第一線の脳科学者が解説する。
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