自然言語処理
言葉を理解し、知識を増やし始めたコンピュータたち
黒橋禎夫先生 京都大学 大学院情報学研究科 知能情報学専攻 (工学部 電気電子工学科兼担)

黒橋先生のおススメ本
『「わかる」とは何か』
長尾真(岩波新書)
IT、クローンなど、生活の中につぎつぎと押し寄せてくる科学技術を題材に、科学的理解とは、人間的理解とは何かを考える。長尾先生は、元京都大学総長で、専門は、自然言語処理・画像処理・パターン認識。黒橋先生は長尾先生の弟子の一人だ。
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コンピュータに言葉や知識を与えることは、長い間たいへん難しいとされていました。しかし、現在では、音声で質問に答え、クイズ番組で人間に勝ち、大学入試に挑戦するコンピュータも現れました。コンピュータはどのようにして言葉や知識をどのように得ていったのでしょうか。
第1回 言葉を理解し、クイズ番組で優勝したコンピュータ

今から3年ほど前ですが、IBMのワトソンというスーパーコンピュータが、アメリカの「Jeopardy!(ジャパディー)」というクイズ番組で、人間のクイズチャンピオンに勝ったという事件が起きました。ワトソンは、3000個のコンピュータチップをつないだ並列コンピュータで、その中に百科事典で2億ページぐらいの情報を持っています。その他に、Web上にあるWikipediaなどもうまく活用し、比喩、しゃれ、スラングなども柔軟に解釈していきます。
YouTubeにワトソンがどのように開発されていったのかを短くまとめた動画も掲載されています。開発期間中、いろいろな失敗もありましたが、ワトソンは人間のチャンピオンにクイズで勝つまでになりました。このワトソンはとても有名になり、IMBはワトソンに使われているシステムを、様々な分野への実用化することに取り組んでいます。
その1つが、医師の診断です。病院の医師は、患者からどこが痛いとか、何がしんどいとかいう情報を聞き取ります。そして、検査結果もあわせて、その人がどのような病気になっているのかを診断します。しかし、この診断はとても難しいものです。そこで、医学生をトレーニングするプログラムとして、このワトソンのシステムを使おうというのです。そして、将来は実際の診療現場で、コンピュータが「こんな病気が疑われるのではないですか」と医師をサポートすることになるのではないでしょうか。医師はコンピュータからの情報を参考にしながら、最終的な判断をするという時代も来るかもしれません。
ワトソンは、とても有名なシステムで、私たちとはあまり関係がないと思うかも知れません。でも、私たちのまわりにも、普通の言葉を介したコンピュータのサービスがどんどん登場しています。今回はそのうち3つを紹介します。1つめはGoogleの音声検索です。音声認識は、従来、非常に難しかったのですが、最近は、とても賢くなり検索ができるようになりました。
2つめは、AppleがiPhoneなどに搭載しているSiriという会話システムです。日本でも「しゃべってコンシェル」、Yahoo!の音声アシストなど、同じようなサービスを展開していますし、「今日の京都の天気は?」、「誰々に電話する」というように、スマートフォンを使いこなすためのコマンドを音声で受けつけるサービスも始まっています。
そして、3つめがVoice Traです。これはまだあまり使われていないと思いますが、例えば、旅行中に日本語で話しかけると英語に翻訳されて音声で出てくるという翻訳アプリです。このような形で、言葉のアプリケーションや応用システムがどんどん私たちの身のまわりに現れ始めています。
興味がわいたら Book Guide

『「わかる」とは何か』
長尾真(岩波新書)
IT、クローンなど、生活の中につぎつぎと押し寄せてくる科学技術を題材に、科学的理解とは、人間的理解とは何かを考える。長尾先生は、元京都大学総長で、専門は、自然言語処理・画像処理・パターン認識。パターン認識の分野では、手書き文字の認識方式を提案した。弟子も多く、黒橋禎夫先生のその一人だ。
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『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』
松尾豊(角川EPUB選書)
人工知能は人類を滅ぼすのか。日本トップクラスの人工知能の研究者の著者が、「いま人工知能ができること、できないこと、これからできるようになること」をわかりやすく解説する。
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『あなたの声で操作できる iPhone Siri かんたんガイド』
橋本佳幸(秀和システム)
iPhoneの音声認識パーソナルアシスタント機能「Siri」を解説。「Siri」は自然言語処理を用いて、質問に答えている。基本操作やカスタマイズ方法、Siriの仕組み、日常での利用方法などがわかる。著者は株式会社NewtonJapan代表取締役。iPad/iPhoneを使った様々なサービスを企画・開発している。

『スマホは「声」で動かせ』
鈴木清幸(ダイヤモンド社)
著しい音声認識技術の発展で、議事録作成作業が5分の1に減った。今まで1日30件しかできなかった医療検査結果の読み取りが、150件できるようになり、残業がゼロになったという。著者は音声認識システムの株式会社アドバンスト・メディアの会長。

『IBM 奇跡の“ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる』
スティーヴン・ベイカー 土屋政雄:訳(早川書房)
IBMが開発した、自然言語を理解する驚異のスーパーコンピュータ「ワトソン」。2011年、ワトソンは世界屈指の難易度をほこるアメリカのクイズ番組「ジョパディ!」に出場し、みごと人間チャンピオンをやぶり優勝したのだ。開発から優勝するまでの、技術者の激闘1500日を描く。
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『翻訳夜話』
村上春樹、柴田元幸(文春新書)
東大教授(現在は名誉教授)で翻訳家の柴田元幸先生と、小説家であり翻訳家の村上春樹の肩の凝らない翻訳談義。翻訳が楽しくてしかたがないという2人。2人の翻訳を比べてみる試みも。翻訳アプリの発展を考える上でも、興味深い。
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