薬剤学、薬物動態学

薬の研究こそが長寿社会を創るも、未だ糖尿病など困難

 ~薬学部6年制移行でますます求められる高い資質

高倉喜信先生 京都大学 薬学部

『薬学教室へようこそ いのちを守るクスリを知る旅』

二井將光(講談社ブルーバックス) 

薬学とクスリについて、基礎からわかる入門的な本。クスリが効くしくみ、クスリができるまで、高齢社会とクスリの問題など、クスリについての正しい理解が深まる。第9章では薬剤師の仕事について、第10章では薬学部で学ぶことについて解説しているので、薬学志望の人は読んでおきたい。 

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第1回 薬で寿命が40代から80歳へ。しかし、ガン、アルツハイマーなど難病も

 

高倉喜信先生
高倉喜信先生

薬学部を知ってもらうために、薬学とはどういうものかという話からはじめましょう。


日本人の平均寿命は、明治・大正時代では、――ちょっとみなさんには想像しにくいでしょうが――40代です。それが平成17年には女性の平均寿命は80歳を越え、さらに最近、男性の平均寿命も80歳を超えたという報道がありました。100年前と現在では、実に日本人の平均寿命は倍に伸びていることになります。


何が変わったのでしょう。薬をキーワードに考えるとそれはよく理解できます。明治・大正時代を考えてみましょう。その頃は結核という肺の病気でたくさんの人が若くして亡くなりました。結核は日本人の寿命を縮め、国民病または亡国病と言われました。歴史上、幕末の沖田総司や高杉晋作といった有名人もこの病で亡くなっています。


それを救ったのは、ストレプトマイシンと呼ばれる抗生物質の発見です。1943年、ワックスとそこの大学院生だったシャッツという人が、ある放線菌の一種が、結核菌を殺す働きがあることを発見し、この薬を創ったのです。それによって、結核は、誰もが病気と思わなくてもいいような状態になりました。そのように薬学とは、人類の健康と幸せに貢献できる薬を創ることからスタートしたわけです。


京大薬学部出身の研究者の中にも、世界的な貢献に関わった創薬があります。例えば、FK506という免疫抑制剤。臓器移植の発展は、拒絶反応を緩和するこの薬なしには、ありえません。


しかし、いろんな病気を克服しても、次々と新しい病気が登場してきます。生活習慣病、ガン、アルツハイマーなどがあります。糖尿病性の腎症はまだ有効な薬ができていません。糖尿病はまた、腎臓病だけでなく、目の網膜の病気とアルツハイマー病を起こす脳の神経障害を併発するという問題もあります。これを糖尿病の三大合併症と呼びます。このあたりの治療はまだ十分に進んでいません。革新的な新薬の開発が期待されている分野です。そう言う意味では、薬学の使命はまだまだ続くのです。


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『薬学教室へようこそ いのちを守るクスリを知る旅』

二井將光(講談社ブルーバックス)

薬学とクスリについて、基礎からわかる入門的な本。クスリが効くしくみ、クスリができるまで、高齢社会とクスリの問題など、クスリについての正しい理解が深まる。第9章では薬剤師の仕事について、第10章では薬学部で学ぶことについて解説しているので、薬学志望の人は読んでおきたい。

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『新しい薬をどう創るか』

京都大学大学院 薬学研究科(講談社ブルーバックス)

京都大学薬学研究科の教授が新薬の開発プロセスをわかりやすく解説。新しい薬の種(シーズ)がどのように見つけられ、どのように医薬品に仕上げられるか、ドラッグデリバリーシステムがどのような役割を果たしているかなどが紹介されており、クスリに興味を持つ高校生に薦められる。

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