18歳、選挙に行こう! みんなで社会を作ろう!

よくわからない政治が、統計的に分析できることに新鮮な驚き

みらいぶプラス 学問本オーサービジットに参加して

開成中学・高校図書委員会 図書館だより「本の森」より

東西冷戦はおよそ四半世紀前に終結し、西側の資本主義陣営と東側の社会主義陣営による対立は事実上消滅しました。しかし、最近では「右傾化」など、政治的な思想をいわゆる右、左で考える潮流があります。では実際のところ、こういった思想にはどれぐらいの力があるのでしょうか?

 

とくに、公職選挙法が改正され選挙年齢が18歳に引き下げられた今、政治は私たちにますます近づいてきています。そのような中で、私たちはどのように向い合っていけばよいのでしょうか?

 

今回、図書委員会では筑波大学が行っているオーサービジット(本の著者と、その本について話し合う会のこと。詳細は後述)を通じ、政治学を専門とされている筑波大学の竹中佳彦教授とお話をする機会をいただきました。

 

選んだ本は『イデオロギー』(現代政治学叢書8)です。

 

そのレポートを図書館だより「本の森」66号(2016年3月)に掲載しました。

そもそも政治学とは何か

まず、竹中先生は、私たちが政治に対して持っているイメージを問うたうえで、そもそも政治や政治学とはどういうものなのかを説明されました。

 

私たちが政治について持っているイメージや考えは「どこか遠いもの」「いろいろな政策を実行しているが正直言ってよくわからない」「ニュースを通じて知る程度」といったものでした。

 

では、政治とはどういうものなのか。ある集団(委員会、部活などあらゆる組織)を作っている個人は、本来様々な価値観を持ち、利益を求めている。そのような利益を秩序立てていくことが、政治というものだ、ということでした。

 

このように、政治は様々な人間の相互作用によって生じる現象なのです。これを研究するための学問が政治学であり、心理学的側面、歴史学的側面、社会学的な側面など、様々な考え方がベースになっています。

 

また、特に重要な考え方が「権力」です。

 

すべての場合において、集団の構成員全員の利益が一致することはあり得ません。このようなときに、権力が行使されることによって、人が本来ならばしたくなかったことをさせ、全体の行動を一致させることができます。つまり、権力は政治の源でもあるのです。

 

政治の諸形態

「政治」という現象を表す英語表現は“govern”“politics”の2つがあります。これら二つ似ていて、それぞれ考えてみましょう。

 

govern:原義は、船のかじ取りをすること。このことからわかるように、誰かがほかの誰かをコントロールするという意味合いが強いです。

 

一方、politics:原義は「ポリス」、つまり古代ギリシャの都市国家のこと。これらの都市では自治が行われていたことから、外部からコントロールされるのではなく、市民権を持つ者たちが自治を行うという意味が強い。

 

このことからわかるように、権力は決して外部から行使されるだけではなく、自分たちが自らを統治するという形式が存在するのです。

 

「政治過程論」という考え方

現在ほとんどの国家での政治形態である民主主義では、支配者と被支配者は同じです。だから、政治はまず国民が自らの意思を表明することに始まり、そこから政策が作成され、法律となり実行されるという一連の流れが存在します。この流れを「政治過程」、と呼びますが、今回のテーマである「イデオロギー」の研究もこの分野に属します。

 

この流れを見ればわかるように、この一連の過程の中で一番重要なのは、最初にある「国民の意思表示」であり、それは私たち主権者の役割です。したがって、その過程の一部であるイデオロギーも重要であることがわかります。

 

では、イデオロギーとは何か

先ほどイデオロギーとは政治過程論の中の一分野であると述べました。では、これはどのようにしてその過程にかかわってくるのでしょうか。

 

投票することを考えてみましょう。

 

投票の基準は様々だと思います。候補者の個人的な好み、政党帰属意識(これは特に米国で顕著にみられます)などがあげられますが、やはり政党や候補者の政策を見て判断するという人が多いでしょう。しかし、様々な政策のリサーチをこなすには多くの時間と労力がかかります。

 

しかし、「この候補者はこういったいくつかの政策を掲げている、どうやらそれは自分の考えに合うようだ」ということになると、ほかの政策も自分の考えに合っていると考えることも、決しておかしなことではないと思います。

 

このように、様々な政策の中で、自分の立場が一体どれぐらいの位置にあるのか、という考えこそが、イデオロギーなのです。

 

イデオロギーの位置づけ

イデオロギーというと「自由主義」「社会主義」「フェミニズム」など、日本ではどちらかといえば思想の問題、しかも場合によっては間違った思想のようなとらえ方をされることが多いと思います。実際に2012年に東京大学の谷口研究所と朝日新聞が行った世論調査によれば、イデオロギーという言葉に対する感情温度は自らをどれぐらい「革新(左)」「保守(右)」に位置づけるかにかかわらず低いことがわかっております。(感情温度:50を基準として、より好意を感じる場合は高い値を、感じない場合は低い値を答えてもらうもの)

 

そもそも、日本人は「左」「右」という表現をあまり好まないようで、自らが「革新」「保守」と表現されるよりも、「左」「右」と表現されることを嫌うようです。また、最近では特にそのように自らを位置づけずに、自分を真ん中とする有権者が増えています。

 

実際、生徒の間では

「右翼」「左翼」という言葉は、「保守」「革新」という言葉と比較して過激で、急進的なイメージがある。

という意見が見られました。

 

しかしながら欧米ではむしろ「左」「右」という表現が、有権者自身や各政党を位置づける尺度とされているように、場所によってそういった表現のとらわれ方が異なることもあるようです。

安倍政権や日本国民は右傾化しているのか

現政権を非難する際に、よく使われる単語として「右傾化」があげられます。では、実際に現政権や、それを選出した有権者は右傾化をしているのでしょうか?どうして、安倍政権は圧倒的な支持を受けて政権を握ることができたのでしょうか?

 

我々が考えた理由としては、

・日本国民は何よりもまず経済政策を重視している。自分の一番身近にある雇用や生活の安定を望んでいるのではないか。

・前民主党政権がうまくいかなかったことから、その受け皿として自民党が票を集めた。

・そもそも、深く考えずになんとなく自民党にした人もいたはずだ。

などの意見が出ました。

 

また、

・安倍政権では特に近隣諸国との関係において強硬な姿勢をとっており、そのような点では右傾化をしているのではないか。

という意見もありました。

 

では、実際の世論調査などでは、どのような結論が出ているのでしょうか?

 

同じく東大谷口研・朝日新聞が2013年に行った世論調査「安倍首相・内閣の良い施策・言動」によると、経済成長戦略や黒田総裁の起用、大型補正予算の編成など、経済にかかわる問題は、どのイデオロギーを持っていても、日米同盟の強化等の安全保障に関連する分野や、震災復興などの問題よりも高い評価を受けていることがわかりました。(ちなみにほとんどの場合、自らを右に位置づけた人ほど評価は高い傾向が見られます)

 

その結果、「安倍首相の仕事ぶりに対する評価」を5段階で評価した場合、ほとんどが3以上でした。

 

安倍政権の支持は、経済政策によって下支えされているのかもしれません。

 


まとめ

日本において、どちらかというと忌避される傾向にある「イデオロギー」は、実際には有権者や候補者がどのように位置づけできるのかを測る尺度として有用であり、有権者としては候補者を決定するためのコストを減らすこともできました。

 

しかし、最近の調査によれば、多くの有権者は自分を「真ん中」に位置づけています。結果、候補者としてはその多くの「真ん中」にある有権者を取り合うことになり、イデオロギーを用いて特色を出すのは難しくなってきております。

 

そのような中で、候補者を選ぶ際に、あまりにも一つの政策、例えば経済政策にのみ注目してはいないでしょうか?

 

多少のコストがかかるといえども、議論や自身の考察を通じて、様々な政策を重視することが、今の有権者には必要なのかもしれません。

 

<出典> 

データ:東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査 

出所:竹中佳彦,遠藤晶久,ウィリー・ジョウ「有権者の脱イデオロギーと安倍政治」『レヴァイアサン』57号,木鐸社,2015年10月,25-46頁 

 

参加者より

左から、坂谷竜聖くん、青山龍平くん、野村優くん、東山晋承くん、遠藤達朗くん、加藤辰明くん
左から、坂谷竜聖くん、青山龍平くん、野村優くん、東山晋承くん、遠藤達朗くん、加藤辰明くん

二十世紀の末に生まれた僕たちの多くは、「イデオロギーの対立」と聞いても、いまいちピンとこないと思われます。例えば、冷戦に代表される資本主義と社会主義の対立を歴史上の出来事としてしか認識できない。言い換えれば、文献や映像などの記録の中でしか接点のない、遠い世界の出来事という理解なのです。僕もその一人でした。

 

そのような世代に生まれた僕たちが今回の企画に応募するにあたり、この作品を選び、読んだことは、最善の選択だったでしょう。政治学に関する文献の中でも特に科学的な分析がなされていて、内容を理解しやすいこの文献に巡り合えたことは僥倖に他なりません。この機会を逸していたならば一生受けることがなかったかもしれない分野のご講義を、その分野の一流の先生から直接拝聴することができたのは、本当に貴重な体験だったと思います。

 

寡聞な私たちにもわかりやすい、貴重なご講義をしてくださった竹中先生、この企画を提供して下さった筑波大学の皆様、河合塾「みらいぶプラス」の皆様に、この場を借りて感謝の意を申し上げます。

(野村 優 高1)

 

「イデオロギー」と言われて、僕がもともと連想したことと言えば、「右」「左」「反動主義」「共産主義」…。正直言って、あまりいいイメージを持っていなかった言葉も多いです。しかしながら、「イデオロギー」について少し知ることができてからは、イメージは大分変わりました。

 

このオーサービジットは政治学という今まで私があまりよく知らなかったことについて知るとても良い機会となりました。テレビのニュースを見ても、ネット上の意見を読んでも、今まで私にとってその内容がよくわからないイメージのあった政治が、統計を用いて定量的に測ることも可能だと知りました。データを多分に使い、現在の政治を分析していくという、オーサービジット当日にしたことは、新鮮であるとともに、政治や世論というものを非常にわかりやすく理解していくことができ、とても興味深かったです。統計を使うと、日本人が「イデオロギー」という言葉や、「右」「左」などといった言葉に一体どのような印象を持っているか、現在の政治、政策に対する世論などといったことも、手に取るように理解できました。

 

また、読んだ本の著者と実際に会って話すというのは初めての経験だったので、そういった意味でも僕にとっては貴重な機会でした。当日の話し合いはテンポ良く進み、その話し合いにおいて友人の意見も聞くことができたというのも良かったなと思っています。

(加藤辰明くん 高1)

 

イデオロギー同様、議論の中心になっていた、計量政治学という、人々の思想(例;右翼か左翼)を数字で振り分ける考え方はとても新鮮であった。また、イデオロギーという難しい話題ながらも、竹中先生の司会運びのおかげで、活発な議論を展開することができた。著者のかたに直接お会いして、話を聞くという貴重な体験は図書委員だからこそできたものだ。オーサービジットという素晴らしいイベントに参加できたことをとても嬉しく思う。

 (青山龍平くん 中3)

皆さんは、自分が18歳になった時を想像できますか?皆さんは既に知っていると思いますが、高3あるいは高校卒業時に、私たちは選挙権を持ちます。しかしながら、選挙に行こうとしても、このような問題が発生するのではないでしょうか?

「誰に投票すべきかパンフレット見たけど、なんか違いがわからん。」

そうなのです。今、政党による主張の差がどんどんなくなってきているのです。

今でこそ政権が、右傾化していると言われていますが、野党に関しては反対一辺倒の観が否めません。

 

今回いらっしゃった竹中教授は、これらを有権者にとったアンケートを統計学的に分析して、それを基にこのような意見を述べていらっしゃいました。「アンケートを分析すると、日本の有権者は自らを中間層(右派、左派でない)だと位置づける人が半数以上を占めている。したがって、政党はこれら半数以上の中間層を獲得するために、偏った政策を打ち立てられない」。

 

今回の例のように、政治という分野には難しい問題がたくさん横たわっています。是非興味が湧いた人は、図書館で『イデオロギー』を読んでみてください。

(坂谷竜聖くん 中3)

 

私は元々政治にそこまで興味がなかった。近い将来有権者としての権利を行使する意思はあったが、政治についてあまり深く考えることはなかった。物理を考える方が興味深いと感じていた。物理のように簡単に数式化できるものと違って、政治は人間関係が複雑に絡み合ってできたカオスであり、私の手に負えるようなものではないと思っていたのである。

 

人文科学でも、経済学はよく数式化されるが、経済学者には単に自分の理論に酔っている者が多いと考える。彼等は逆に数式で他人を煙に巻いている。言わば、独善的な反知性主義者である。

 

今回の講義を受けて、政治学も定量化して扱えるという智見を得た。各人のイデオロギーの度合に応じ政治意識を調べたものである。政治学は従来、概念的で容易に理解できないものであったため、私は敬遠していたが、このように一般にもわかり易く提示できることに驚いた。反知性主義者の妄言に惑わされた私に知性の光を当ててくださった。

 

私の政治に対する関心は増したことであろう。理系の道に進むことは変わらないが。脳科学的に論を進めてみようと思う。我々がある意見に賛成または反対する時、我々の脳内では、すべて等しく賛成または反対するのではなく、ムラがある。私はこのムラが政治において重要であると考える。脳内状況を調べて、ムラがどう政治に反映されるかを考えたい。語弊を恐れずに言えば、脳細胞レベルの政治意識を分析するのである。政治学も独立して存在するのではない。分野を越えて考察するのも興味深い。

(東山晋承くん 高2)

 

日本は右傾化しているといわれていますが、果たして本当はどうなのでしょうか?確かに近隣諸国からは一時期現政権のやり方が強硬的であるとして非難されることもありましたし、集団的自衛権の行使の容認など、今までとは少し違う政策を打ち立てていますが、しかし「右」「左」というのは様々な文脈に依存する、あいまいなものだというイメージがありました。

 

しかし、今回のオーサービジットで取り扱われた『イデオロギー』を読むと、様々な人々を対象にした調査から、自らを右、左、と位置づける人は様々な政策について、それぞれが同じような意見を持つ傾向にあることがわかります。このように、様々な統計を用いながら人々が抱いている意見や感情の傾向を、実体を持つものとして浮き彫りにすることができるということを知ることができたのは、貴重な経験となりました。

 

そしてもう一つ、左右への広がりがなくなる中、各候補者は真ん中の層を対象にした、経済政策などの生活に密着した政策を支持の基盤としていますが、その陰に隠れたほかの政策について注意をおろそかにすることの不注意さも思い知らされました。

 

これから社会に出ていくことになる私たち学生に、このような貴重な場を提供していただいた竹中先生、筑波大学そして河合塾「みらいぶプラス」の皆様には重ねてお礼を申し上げます。

(遠藤達朗くん 高2)

 

「オーサービジット」について

今回私たちが参加した「オーサービジット」。2015年11月28日に行われ、図書委員6人が参加しました。このイベントについては、冒頭でも少し説明しましたが、ここでもう少し具体的に説明をしたいと思います。

 

オーサービジットというのは、基本的にはある本の著者(オーサー)が、読者が用意する場を訪問(ビジット)し、読者とともにその本のテーマや内容について自由に話し合う会です。今回私たちが申し込んだ筑波大学のオーサービジットは、河合塾が運営している、様々な本を通して学問を紹介するサイト「みらいぶプラス」の協力のもと筑波大学の人文社会系が行っているもので、実際に大学の先生にお越しいただいて、人文社会にまつわる幅広い分野、例えば政治のほかに哲学、国際社会などをテーマに、自由に、そして深く論じ合うことができます。

(遠藤達朗くん 高2)

 

オーサービジット書籍紹介

『イデオロギー』現代政治学叢書8)

蒲島郁夫、竹中佳彦(東京大学出版会)

冷戦が終結し、東西イデオロギーの対立が消滅した今、イデオロギーは存在するのだろうか?しかし、現に「右傾化」という言葉が現政権を批判するのに使用されているように、決して消え去った過去の概念ではないように見える。本書では、この「イデオロギー」という概念について、その形成過程から現在の政治に与えている影響について、理論的、および実際的な考察を交えて考えていく。特に、日本でイデオロギーという言葉が使われるとき、それは「保革イデオロギー」としての形である場合が多い。それでは、「保守」と「革新」が両端にある対立軸のほかに、別の対立軸は存在しないのか。「保守」「革新」とみなされる政党と、その主張する政策にはどのようなかかわりがあるのか。有権者が考える位置づけと、政党の自任する位置づけはどれほど異なるのか?そもそも、有権者は自らをどのように認識し、その幅がどれほどあるのか?選挙年齢が18歳に引き下げられ、今後我々にも政治にかかわる機会が多くなる。その中で、「イデオロギー」というものを無視するわけにはいかないだろう。(遠藤達朗くん 高2)

 

図書館だより「本の森」を手にする図書委員の遠藤達朗くん
図書館だより「本の森」を手にする図書委員の遠藤達朗くん

※本記事は、開成中学・高校図書委員会による、図書館だより「本の森」66号(2016年3月)より掲載しています。竹中先生のオーサービジットに参加して、自ら考えたことが特集されています。

 

 

開成中学・高校図書委員会によるブックガイド

『八十日間世界一周』

ジュール・ヴェルヌ(光文社古典新訳文庫)

私が小学生の頃に読んだ本です。当時SF小説にハマっていて、ジュール・ヴェルヌの本を多く読んでいたため、『八十日間世界一周』に出会いました。この本自体はSFではなくタイトル通りの冒険小説です。近代の、交通が今ほど発達していない、地球がもっと大きかった時代の話なので成り立つ話なのですが、ある男が世界を八十日で一周できるかをかけて冒険する話です。現代とは大分違ったその設定ゆえに面白い話がたくさんあります。(加藤辰明くん 高1)

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『帝国の興亡』

ドミニク・リーベン、監修:袴田茂樹、訳:松井秀和(日本経済新聞社)

帝国はどうしてその広大な領土と多様な国民を一つにまとめ上げ、またどのような理由によって崩壊するのか。弾圧と圧制、民衆の目覚め、といった要素で説明するのはあまりにも稚拙であろう。本書では、ロシア帝国とソ連を中心にしつつ、帝国を軍事、政治、経済、イデオロギーという側面から分析し、これらの要素がどのようにして帝国を生み出したかを論じている。特に、この本ではときにナショナリズムに突き動かされた民主主義と多民族国家となりえた帝国を比較する構図を示したりと、いわゆる帝国と民主主義を善と悪の二項対立によって説明することを避けている。安易な政治思想は、ここに入り込む余地はないだろう。(遠藤達朗くん 高2)

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『星の王子さま』

サン=テグジュペリ 訳:谷川かおる(ポプラポケット文庫)

最近になって映画化されたようで、図らずも時事的な話題となってしまった。本作は第二次世界大戦中、1943年にアメリカで出版された。原著は英語とフランス語の同時出版。サンテグジュペリは作家兼フランス空軍のパイロットだった。そんな著者と同じく、飛行機乗りの主人公が、飛行機のエンジン故障でサハラ砂漠に墜落した場面からこの作品は始まる。わずかな水、独力で飛行機を直さなければならない焦りと不安の中で一夜を明かした主人公はこんな声で目を覚ます。

 

「ねえ、ぼくに羊を一匹描いてよ!」(ポプラポケット文庫版)

 [因みに原文だと、“If you please-draw me a sheep!”(英語)

 《S'il vous plaît…dessine-moi un mouton!》(フランス語)]

驚いて起きると、そこには「世にも風変わりな男の子」。

優柔不断な王子さまとの出会いから、主人公(と読者)は大切なことを学ぶ。

 

新潮、中公、集英社、光文社古典新訳などの文庫版に加え、岩波書店などからも単行本の邦訳が出ている。因みに(写真で手にしているのは光文社版だが)、僕は初めに読んだポプラポケット文庫版の訳が一番好きだ。簡単な英文ばかりなので、英語版で読むのもおすすめである。何度読んでも面白く、読み返すたびに新しい発見があり、年を重ねていくにつれて異なる角度からの解釈が生まれていくところが、僕がこの作品を愛する所以だ。次に読み返すときには一体何が見つかるのか、今から楽しみで仕方がない。(野村優くん 高1)

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『世界のなかの日本』

司馬遼太郎、ドナルド・キーン(中公文庫)

この本は言わずと知れた偉大な二人、故司馬遼太郎氏とドナルド・キーン氏の対談を書籍化したものである。題名では、「世界の中の日本」という通り、近世(江戸~明治)における日本人・日本という国の立ち位置について論じている。博識な二人のトークはまるで、博物館にいるように感じさせてくれる。本書は題名の通り、世界と日本を比較しているが、それあってかサブテーマのような形で、「鎖国」の是非・明治維新からの変化について論じている。グローバル化が訴えられる現代に暮らす身として、過去の日本に起きた国際化を踏まえて、「平成時代」の国際化はどうなのかということについて考えさせられた。(坂谷竜聖くん 中3)

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『みをつくし料理帖』シリーズ

高田郁(角川春樹事務所)

『みをつくし料理帖』は、江戸時代のある女料理人に焦点を当てた物語である。一見、料理本であるかのようだが、読めば読むほどそのストーリーに引き込まれてしまう。主人公の澪は類稀なる料理の才能を持ちつつも「女」という理由から客に受け入れられず、苦悩の日々を送る。そんな中、澪は「雲外蒼天」を信念として様々な苦境を乗り越えていく。この物語には二つの見所がある。一つ目は澪の作る数々の創作料理。そして二つ目は、澪を取り巻く素晴らしい人々の織り成す人間ドラマだ。この本を読み終わった後にはなぜか心がほっこりしてしまう。(青山龍平くん 中3)

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『感じる脳 -情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』

アントニオ・R・ダマシオ、翻訳:田中三彦(ダイヤモンド社)

 

(原作:Looking for Spinoza – Joy, Sorrow, and the Feeling Brain

By Antonio Damasio (A HARVEST BOOK HARCOURT, INC.))

スピノザと聞くと、大抵の人は、なんか偉い人というイメージしか浮かばないであろう。哲学を齧ったことのある人なら、デカルトの後継者のイメージが浮かぶであろう。彼が生物学者の顔を持つと知ったら驚く人もいるかもしれない。驚いた人に本書を薦める。著者は脳科学者で、感情の仕組みを研究していたが、研究結果がスピノザの著書に書かれたことと一致することを偶々発見する。残りを見てみると、かなり多くの点で最先端科学の智見が既にその哲学書で予言されていたことに気付く。本書は脳科学とスピノザ哲学の意外な接点を見出すものである。

P.S. 科学書にはよくあることであるが、翻訳の方が難解である。英語がある程度読める読者の皆様には原作を読んでみることをお薦めする。

(東山晋承 高2) 

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※原書はこちらへ [amazonのサイトへ

※手にしているのは『エチカ―倫理学(上)』(著:スピノザ、訳:畠中 尚志、岩波文庫)です。(合わせて読むと引用元がわかります。) 

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18歳、選挙に行こう! みんなで社会を作ろう! 何を手がかりに投票すればいい? ~『イデオロギー』を図書委員で読んでみた。開成中学・高校図書委員会、政治学者と語る

竹中佳彦先生 筑波大学人文社会系(社会・国際学群社会学類、大学院人文社会科学研究科国際公共政策専攻)