計量政治学、投票行動論、政治過程論
みらいぶプラス 学問本オーサービジット(協力:筑波大学)
18歳、選挙に行こう! みんなで社会を作ろう!
何を手がかりに投票すればいい? ~『イデオロギー』を図書委員で読んでみた。開成中学・高校図書委員会、政治学者と語る
竹中佳彦先生 筑波大学人文社会系(社会・国際学群 社会学類 政治学主専攻、大学院人文社会科学研究科 国際公共政策専攻)
第2回 イデオロギーって何? ~左翼・右翼から保守・革新まで
いよいよ、『イデオロギー』という本の中身に入ります。まず、みんなに与えられたテーマは、「日本は右傾化しているか」ということでした。
イデオロギーって何でしょう? イデオロギー(Ideologie)はドイツ語から来ています。イデオロギーの定義は、第1に、ある価値に基づいて、一貫している複雑な思想・意識の体系を誰にでも理解できるように表現したものということができます。第2に、政党や階級などの社会集団にとって自己正当化の手段であり、国民の支持を獲得するために、どのような社会が望ましいか示したものということができます。そこから、特定の政治的立場に基づく考えを指すようになります。ですから、その政治家や政党のイデオロギーがわかれば、どのような行動をとるのか、推測できます。
イデオロギーでよく使う分け方に、左翼・右翼ということがあります。この言葉は、18世紀、フランス革命後の国民公会で議長席から見て左側にジャコバン派が、右側にジロンド派が座ったことから、急進派が「左翼」、復古派が「右翼」と呼ばれたことが起源です。その後、使われ方は広がってきていますが、既存の制度を変革していこうとするのが左翼、現在の支配的な体制を維持しようとするのが右翼と、ひとまず考えてください。
イデオロギーは、社会主義や自由主義、環境保護主義、性差別に反対し女性の解放を主張するフェミニズムなど、特定の思想体系とみなされています。また日本でイデオロギーと言うと、マルクス主義の影響で「社会や時代によって縛られた考え」とみなされています。日本では、イデオロギーは虚偽の意識と考えられがちなのです。しかし欧米では、有権者や政党・諸集団の政策的な位置を測る尺度としてイデオロギーが使われています。
一方、日本では、左翼・右翼のほかに、保守・革新という分け方があります。一般に保守は右寄り、革新は左寄りと思われています。でも、受け取られるイメージはだいぶ異なるようです。

2012年12月に安倍晋三首相が政権に返り咲いて以来、日本は「右傾化」していると言われています。そのことを高校生はどう感じているのでしょうか? オーサービジットで、たいへん率直で面白い意見が飛び出したのでまず先に紹介しましょう。
竹中先生:「第2次安倍内閣の発足以来、国内外で日本は『右傾化』していると言われます。皆さんはどう思いますか?」
遠藤くん:「『右傾化』していないと思います。経済政策が前面に出ていて、しかもそれは自由主義的と思う」
坂谷くん:「僕も。『右傾化』のイメージって、戦争、『天皇陛下、バンザイ』って感じですけど、そこまでなっていないし」
野村くん:「みんな、防衛政策を見ずに、『安倍さんはいい』と言っている。戦後、55年体制の中で、昔の自民党なら、党内の別の派閥から反対意見が出たり、党内で派閥の政権交代を行ってきたが、今はそれがないのが、ちょっとこわい感じがします」
竹中先生:「ちょっと質問を変えて、右翼・左翼のほかに、保守・革新という言い方があります。どう違いますか?」

坂谷くん:「右翼も左翼もマイナスイメージ」
加藤くん:「右翼・左翼のほうが、保守・革新よりも過激なイメージがする」
竹中先生:「じゃ、日本の政党でいうと、保守・革新はどこ?」
青山くん:「集団的自衛権の自民党って、案外、革新と思う」
加藤くん:「自民党は保守、革新は共産党ってイメージ」

遠藤くん:「僕は、今の自民党は革新、保守は社民党、民主党(民進党)のイメージ」
東山くん:「小泉純一郎の経済政策は革新ですが、民主党に革新イメージはないです」
野村くん:「どの党も最初は革新でも、与党になった瞬間、保守になる(笑)」
とても興味深いのは、保守・革新に比べ、多くの人が右翼も左翼もよくないというイメージを持っていることです。日本の有権者はイデオロギー的に中立を好み、イデオロギー的な対立が弱まってきていることもわかっています。それはあとで詳しく話しましょう。

加藤辰明くん(高1)
テレビのニュースを見ても、ネット上の意見を読んでも、よくわからないイメージのあった政治。データを多分に使い、現在の政治を分析していくという、オーサービジット当日にしたことは、新鮮であるとともに、政治や世論というものを非常にわかりやすく理解していくことができ、とても興味深かったです。
開成中学・高校図書委員会によるブックガイド

『イデオロギー』(現代政治学叢書8)
蒲島郁夫、竹中佳彦(東京大学出版会)
冷戦が終結し、東西イデオロギーの対立が消滅した今、イデオロギーは存在するのだろうか?しかし、現に「右傾化」という言葉が現政権を批判するのに使用されているように、決して消え去った過去の概念ではないように見える。本書では、この「イデオロギー」という概念について、理論的、および実際的な考察を交えて考えていく。特に、日本ではイデオロギーという言葉が使われるとき、それは「保革イデオロギー」としての形である場合が多い。それでは、「保守」と「革新」が両端にある対立軸のほかに、別の対立軸は存在しないのか。「保守」「革新」とみなされる政党と、その主張する政策にはどのようなかかわりがあるのか。有権者が考える位置づけと、政党の自認する位置づけはどれほど異なるのか?そもそも、有権者は自らをどのように認識し、その幅がどれほどあるのか?選挙年齢が18歳に引き下げられ、今後我々にも政治にかかわる機会が多くなる。その中で、「イデオロギー」というものを無視するわけにはいかないだろう。(図書委員会 遠藤達朗 高2)
興味がわいたら

『戦後政治史 第三版』
石川真澄、山口二郎(岩波新書)
敗戦から民主党政権の発足と混迷までの日本の政治史を概観しており、戦後史の流れを大まかに知るのに役立ちます。衆参両院の選挙データが収録されているのも便利です。
[出版社のサイトへ]


『代議制民主主義――「民意」と「政治家」を問い直す』
待鳥聡史(中公新書)
著者は、代議制民主主義を、自由主義と民主主義の二つの要素の緊張関係からなるものとしています。代議制民主主義を、歴史・実態・制度の面から考える際の参考となります。
[出版社のサイトへ]


『めざせダウニング街10番地』
ジェフリー・アーチャー 訳:永井淳(新潮文庫)
3人の英国下院議員が、ダウニング街10番地の主=首相を目指す小説。英国政治の勉強になります。