機械力学・制御

車両工学・自動車工学

高校数学で解く“未来のぶつからないクルマ”

林隆三先生

東京理科大学 工学部 機械工学科

ダイナミック図解 自動車のしくみパーフェクト事典

古川修(ナツメ社)

走る、止まる、曲がるのクルマの基本がわかる。ハイブリッドカーや電気自動車、次世代に期待される燃料電池車などの基本メカニズムも図解。写真とイラストがふんだんに使われていて、理解が進みます。


第1回 自ら判断して、事故を回避するクルマを作ろう 

ぶつからないクルマのCMがみなさんの目に触れるようになったのは、2、3年前からだと思います。障害物をみつけたら自動的に止まってくれるクルマは、今や当たり前になりつつあります。


これからお話するのは、もうちょっと未来の、ドライバーに代わって、クルマ自身が判断して、事故を回避するようなシステムのお話です。

 

はじめに、「未来の」ぶつからないクルマの実験に用いた実験車両を紹介します。この車両は、十数年前に、当時の東京農工大学の学生が作ったもので、ピザなどの小さい物の配達や運搬に使われる普通の電気自動車を改造して作られています。


主な改造ポイントは、ヘッドランプの部分をくり抜いて、レーザーレンジファインダという障害物の位置を測る装置を取り付けたことです。他にも、モーションセンサという、加速度を主に測る装置や、ロータリーエンコーダといって、車輪の回転数を測って、クルマの速度を計測する装置が付いています。


こうした計測のための機械のことをセンサといいますが、センサのデータはコンピュータに自動的に取り込まれ、そこでいろいろ計算が行われます。


今回の場合でいうと、「ハンドルをどのように操作すれば障害物を避けられ、事故が回避できるか」といった計算です。その計算結果に基づいて、車輪に付いているモーターを動かしてクルマを加速させたり減速させたり、ハンドルの所に取り付けたサーボモータを使って自動的にハンドルを切らせたりしています。

 

図1:実験車両の構造
図1:実験車両の構造

レーザーをあちこちに飛ばし、自動的に障害物を避ける

 

障害物の認識は、レーザーレンジファインダ、通称LIDAR(ライダー)で行います。ライダーは、レーザーをあちこちに飛ばし、レーザーの照射孔からレーザーが当たった所までの距離を測っています。そのデータをうまく処理してやると、「自分から見て角度何度の方向には距離何mの位置に何か物がある」というデータを次々と取得することができます。


両側に壁がある道路を走行している場合、障害物が何もなければ、ライダーのデータは、びしっと2列で並んで出てきます。それによって、「こことここに壁がある」ということがわかります。

 

図2:障害物がない場合LIDARのデータは2本の直線となる
図2:障害物がない場合LIDARのデータは2本の直線となる

 

もし障害物があった場合は、「2列の線の間に何かある」、「しかも自分の目の前にある」というライダーのデータが計測されますので、これによって障害物が検知でき、その位置も計測されます。

 

図3:2本の直線の間にLIDARのデータがあれば、障害物が存在する
図3:2本の直線の間にLIDARのデータがあれば、障害物が存在する

 

障害物の位置がわかったら、障害物に衝突せずに事故を回避する軌道(これを回避軌道といいます)を考えればいいわけです。回避軌道を走る際のハンドルの切り方は車両工学という既に確立した理論を用いれば計算することができます。


あとは計算された通りにハンドルをサーボモータで動かしてやれば、障害物にも壁にも当たらずに走っていける、というのが未来のぶつからないクルマというわけです。

 

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(ポリフォニー・デジタル、ソニー・コンピュータエンタテインメント)

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