運動の心理と生理

最高のパフォーマンスに近づくために運動を科学する

鈴木智高先生 神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科理学療法学専攻

第2回 失敗を重ね、シュートが上達する理由

サッカーのシュートを学習することを想定してください。キーパーの位置を確認してシュートを打ちます。ループシュートを打とうとしましたが、ポストに当たってしまいました。これを運動制御でいうと、キーパーの位置を確認することを「刺激の同定」といいます。そして、キーパーが前に出ているのでループシュートを打とうと考えることは「反応の選択」です。こういったプログラミングをして命令を出します。そして、シュートを打ち(運動)、失敗という結果が出ます。

そのときの感覚というのは、筋や関節が覚えていて、自分の中に残ります。それが学習における「フィードバック」というもので非常に重要です。

同時に脳は、ループシュートを打つときにどんなプログラミングをしたかという情報も覚えています。この「プログラミング情報」と「結果からのフィードバック」を比較照合し、その結果、「力を入れすぎてしまった」という判断ができます。それが最終的に脳に戻っていき「もう少しフワっと打ったほうがよかった」と考えます。こういうふうに何度も何度も失敗し学ぶことで、だんだんループシュートの精度が上がっていきます。

このように、運動のフィードバックと意図している運動の比較により誤差修正していくことを「閉回路制御モデル」といいます。非常にわかりやすい理論ですが、ループシュートを何度も練習しないと学習ができないという点では効率が悪い学習といえますし、この理論では説明のつかない巧みさがヒトにはあります。

理学療法は「教師あり学習」

理学療法士は、患者さんにフィードバックを与える側。つまり「学習を促す教師」です。この点において理学療法は「教師あり学習」といえます。患者さんに、「体重かけすぎですよ」「体が左に傾いていますよ」などの知識を与えます。このとき、すぐに与えればよいというわけではなく、失敗したときや成功したときに、そのときの感覚を認知させてあげる時間が必要なのです。つまり、間(ま)を与えてから指導することが、次のパフォーマンス向上につながります。

興味がわいたら BookGuide

『時速250kmのシャトルが見える-トップアスリート16人の身体論-』

佐々木正人(光文社新書)
皆さんも知っているトップアスリートに、心理学者の著者がインタビュー。総勢16人で、全員異なるスポーツを極めた選手たちです。パフォーマンスを極限まで追い求めているトップアスリートが、どのように環境を知覚しているのかを知ることができます。インタビュー形式ですので、テレビで語られるのと同様に平易な内容で読みやすいと思います。

運動を学習する、運動を制御するためには、自分を知覚する、環境を知覚することが重要です。トップアスリートは研ぎ澄まされた知覚能力により、独特の感性で環境を表現しています。彼らが語る言葉の中に、運動を高次に制御するために必要な要素が多く含まれていることと思います。

私たちと同様に、アスリートも運動を学習していくことで、知覚する力や運動を制御する力を獲得しています。その力を究極に高めた彼らの言葉を科学的に捉え、効率的な運動学習や運動制御に関わるヒントを見つけることができれば、そこから導き出される理論を用いることで、パフォーマンスの更なる向上が期待できます。

『脳百話―動きの仕組みを解き明かす』

松村道一、小田伸午、石原昭彦/編著 (市村出版)
運動を科学する上で、脳(神経)は欠かせません。運動に係わる脳の働きが、読みやすい形でまとめられています。興味ある話だけを読んでも構いません。これまでの研究結果から面白い知識を得ることができます。

『運動学習とパフォーマンス―理論から実践へ』
リチャード・A・シュミット 調枝孝治 監訳(大修館書店)
専門書ですが、運動を学習しパフォーマンスを高めるための知見がまとめられています。

[出版社のサイトへ]

「運動の心理と生理」関連分野が学べる大学