都市交通計画
持続可能な都市交通とまちづくり
中村文彦先生 横浜国立大学 理工学部 建築都市・環境系学科

都市交通の入門書、中村先生の著書
『バスでまちづくり 都市交通の再生をめざして』
(学芸出版社)
バスの能力は意外と高く、これを新しい交通まちづくりに活かさない手はない。基幹的な大量輸送から個別対応のディマンドバスまで、環境、福祉、都市開発などにおける役割、経営問題など、あらゆる角度からバスとは何かを見直し、その可能性を提示する。
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第1回 お金を出さず知恵をかけた都市交通
~オランダ、ドイツ、ブラジル
自転車を大切にしている国
私の専門は「都市交通」です。都市における様々な交通手段について研究しています。

これはオランダのベロタクシー(自転車タクシー)です。現在では日本の横浜、東京、京都、名古屋などの都市でも見られます。ベロタクシー発祥の地はオランダ、自転車をとても大事にしている国です。この国には珍しい法律があって、会社の経営者は、5km以内の通勤圏内の社員の半数以上を自転車で通わせることが義務づけられています。社内のシャワールームや駐輪場の設置も国が援助し、もちろん自転車専用道路も整備されています。

次は隣の国、ドイツのフライブルクという街の一角です。写真には車が全然写っていませんね。実は買い物客の車は、街の外周にある駐車場に停めてあります。とはいえ、商店街にあるお店への搬入には車を使います。「早朝や深夜だけは車もOK」というふうに時間帯によって使い分けているのです。いろんな議論をみんなで重ねたうえで、限られた場所を有効に使う知恵を出し合ったわけです。
そして、フライブルクの街のこだわりは、水が流れている道路の溝。もともとせせらぎの多い地区で、水の音を街の中にも残したいという市民の意向があって、わざと勾配を付け、いい浄化装置も付けて、きれいな水が循環して流れて水の音が聞こえるようにしているのです。
クリチバのバスシステム

次は、ブラジルのクリチバという街のバスの写真です。この丸いものは何でしょう?
そう、バス停です。
このバス停の床は約80cmと高く作られていて、係員が常駐しています。バス停の床を上げた理由の1つは、バスを待つ空間の快適性を高めるためと安全面から。私は1995年から10数回ブラジルに通っていますが、やはり治安は悪い。特に夕方から夜、バス停でぽつんと待っているのと比べて、係員がいるこの中は安心です。

彼らが真剣にこのシステムを考えた理由は、もう1つあります。この街では、鉄道を導入する予算がなかったのでバスで何とかしなければいけない。でもバスは「遅い」、「排気ガスが臭い」など、いろいろな問題があります。
バスが遅くなるのは、実は乗降時です。運賃の支払いなどで乗り降りに時間が掛かるのであれば、バス停の係員にその仕事を全部任せて、停車時間を短くし、バスを速く運行しようと考えたわけです。
クリチバの人たちはこのシステムを、いろんな実験を経て、20数年前に実行に移したのです。
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『バスでまちづくり 都市交通の再生をめざして』
中村文彦(学芸出版社)
当たり前すぎて人気がないバス。しかしその能力は意外と高く、これを新しい交通まちづくりに活かさない手はない。基幹的な大量輸送から個別対応のディマンドバスまで、環境、福祉、都市開発などにおける役割、経営問題など、あらゆる角度からバスとは何かを見直し、その可能性を提示する。中村先生の著書で、実際に本書を読んで、横浜国大を受験してくれた人が何人かいるとのこと。
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『都市と交通』
岡並木(岩波新書)
35年以上前の新書だが、都市と交通を新聞社論説委員の目線から多角的に述べていて、現在読んでも共感できるところの多い入門書。私たちが毎日利用する駅や歩道、地下街、あるいは電車やバスは、利用者の立場に立って設計・運行されているか。車があふれる大都市の姿は変えられないのか。こうした不合理や危険性に光をあて、諸外国と比較しながら、都市交通の現実的な改革への道を考える。ここから未来の都市の在り方、それを支える交通とは、を考えてほしい。
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『富山から拡がる交通革命―ライトレールから北陸新幹線開業にむけて』
森口将之(交通新聞社新書)
今、富山では、人と環境に配慮した、公共交通を軸にしたまちづくりが着々と進められている。地方都市で、世界的な潮流となっている先進的公共交通政策がなぜ、どのように可能になっているのかがわかる。
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『LRT-次世代型路面電車とまちづくり』
宇都宮浄人、服部重敬(交通ブックス)
まちづくりと一体化した整備が世界各地で進む次世代型路面電車、LRT(ライトレール・トランジット)。開業はこの30年間に120都市余にものぼる。欧米はどうやってLRT導入を進め豊かなまちづくりを実現したのか。事例も豊富に紹介し、LRTの本質に迫る。
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『地域交通政策づくり入門─生活・福祉・教育をささえる』
土居靖範、可児紀夫(自治体研究社)
地域の交通は、住民生活をささえる基礎的な条件。市民参加で質の高い公共交通をつくりあげた岐阜市の例ほか、福祉と交通問題を解決したある町の例、スクールバス運行による生徒の安全確保と学校の魅力化を実現した例など、各地に広がる地域交通システムづくりの実際を紹介。地域交通総合政策・基本条例案を提案する。
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『コミュニティ交通のつくりかた: 現場が教える成功のしくみ』
森栗茂一、猪井博登、野木秀康(学芸出版社)
地域づくり・まちづくりの基礎に交通がある。議論の場づくりから工程表と評価まで、大都市郊外・地方都市・過疎化地域の事例を紹介。あわせて交通NPOのネットワーク活動も語った。住民、事業者、行政が、どんな取り組みをし、活性化できたのか、当事者が語る。
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『トラムとにぎわいの地方都市 ストラスブールのまちづくり』
ヴァンソン藤井由実(学芸出版社)
フランスを代表する環境都市、欧州の元気な地方都市としてドイツ・フライブルクと並び称せられ、世界中から視察が絶えないストラスブール。優れたデザインのトラムに代表される総合的な都市交通政策によってまちの活性化を実現。「人が住みたくなるまちづくり」の全貌を紹介。
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