量子光学<物理学>
レーザーでつくる冷たい世界
平野琢也先生 学習院大学

【BOOK】平野先生おススメ本
『1秒って誰が決めるの? 日時計から光格子時計まで』
安田正美(ちくまプリマ―新書)
正確な時計を作ることの意義の説明から始め、最新の研究成果まで紹介した本です。量子光学分野の一つの重要な研究テーマである光時計について、数式を一切使わず、わかりやすさを優先して説明してあります。光格子時計が、国際的な競争と協調のもとで研究が行われていることや将来の驚くべき可能性を知ることができます。
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第1回 温度とは何か
~粒子の動きが激しいかゆっくりかで温度が決まる
平野琢也先生 学習院大学理学部物理学科

私たちは日常生活で温度を感じながら生活をしています。でも、物理学の目で見ていくと、温度は粒子の運動で説明できます。例えば気温の場合、空気を構成している窒素分子や酸素分子が激しく動き回っているときは気温が高くなり、あまり動いていないと気温は低くなります。ものの温度は、温度という実態があるのではなく、そのものを構成している粒子が激しく動いているか、ゆっくり動いているかの違いだけです。
そして、温度の正体が粒子の運動であるということは、温度には下限があることを示しています。なぜなら、ものを構成している粒子が止まってしまうと、それよりも温度が下がることがないからです。その温度は絶対零度と呼ばれています。絶対零度は粒子の熱振動が停止する温度で、摂氏でいうとマイナス273.15℃になります。摂氏は水の融点が0℃となっています。摂氏0℃は絶対温度で考えると273.15K(ケルビン)となります。そして、水の沸点は摂氏では100℃、絶対温度だと373.15Kと表現します。
今回は低い温度で起こる現象についてお話しします。皆さんが「低い温度」といってイメージするのは摂氏マイナス5℃、マイナス10℃くらいだと思います。それよりも低い温度というと、ケーキなどを買ったときについてくるドライアイスがあります。ドライアイスは二酸化炭素が凍ったもので、摂氏マイナス78.5℃になるとつくることができます。絶対温度で表現すると194Kとなります。また、空気の中に含まれている窒素はマイナス196℃、絶対温度の77Kで液化して液体窒素になります。
そして、宇宙に行くとさらに温度が低くなります。宇宙には空気がないので、振動して温度になるものがほとんどありません。しかし、宇宙には宇宙背景放射という光のようなものが充満していて、その温度が2.7Kになっています。

今回のテーマとなっている「レーザーを使って作る冷たい世界」は、その宇宙背景放射よりも低い温度です。何と、0.000001Kという絶対零度にとても近い温度なのです。レーザーというと、ものが熱くなるようなイメージがあると思いますが、レーザーをうまく使うと、他のどんな方法よりも短時間で低い温度をつくり出すことができるのです。これから、この話を詳しくしていこうと思います。
興味がわいたら

『1秒って誰が決めるの? 日時計から光格子時計まで』
安田正美(ちくまプリマ―新書)
正確な時計を作ることの意義の説明から始め、最新の研究成果まで紹介した本です。量子光学分野全体を紹介しているわけではありませんが、その一つの重要な研究テーマである光時計について、数式を一切使わず、わかりやすさを優先して説明してあります。全体の半分弱のページ数を使って時計の歴史が扱われており、正確に時を図る技術がどのように進歩してきたのか、それが社会にどのような影響を与えてきたのかを誰でも興味深く読むことができるでしょう。また、後半では、著者自身が研究している光格子時計について、イメージ豊かな説明があり、国際的な競争と協調のもとで研究が行われていることや将来の驚くべき可能性を知ることができます。
高校生の皆さんの中には、研究の最前線はいわゆるタコツボ化していて、他の研究や社会と孤立しているのではないかとか、科学は既に発展しすぎていて今更研究することは残っていないのではないかというイメージを持っている人もいるかもしれません。この本を読むことで、これらのイメージは誤りであり、1秒を正確に測るという一つの研究が、どのように社会に広がってきたのか、そして、今後社会を変えていこうとしているのか知ることができるでしょう。また、様々な分野の技術が進展し、それらを融合することで、更に新しい可能性が無限に拓かれつつある研究の最前線の様子もわかるのではないかと思います。
光格子時計は、レーザー冷却という技術を使う時計です。レーザー冷却は、レーザー光の波長を精密に制御し、他のどんな方法よりも低い温度を短時間に実現することができる技術です。これは、原子がどのように光を吸収し、放出するかということについての深い理解が可能にした技術であり、量子光学という分野の一つの大きな成果と言えます。また、精密に測定するということを極めようとすると、そこには量子力学の原理が顔を出します。量子力学は自然界を記述する基本的な法則であり、そして興味深いことに、量子力学のおける測定は、測定対象と切り離された客観的な操作ではなく、測定装置と測定対象は一括して取り扱うべきだからです。
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『原子の波が見えてきた ~ボース・アインシュタイン凝縮の世界~』(サイエンス チャンネル)
http://sc-smn.jst.go.jp/B020509/
レーザー冷却により実現した原子の不思議な状態であるボース・アインシュタイン凝縮について紹介したビデオ。ノーベル賞を受賞したアメリカの研究者に加え、日本の大学での研究も紹介。平野先生も登場します。

『量子力学と私』
朝永振一郎 著、江沢洋 編(岩波文庫)
ノーベル物理学賞を1965年に受賞した朝永振一郎による珠玉の文章を収録。特に「光子の裁判」はおすすめ(『鏡の中の物理学』にも収録)
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『量子の新時代』
佐藤文隆・井元信之・尾崎章(朝日新書)
SF小説がリアルになる時代について、2名の著名研究者と一級の科学ジャーナリストが平易に解説する良書
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『量子コンピュータ ―超並列計算のからくり』
竹内繁樹(講談社ブルーバックス)
量子コンピュータの原理をごまかさないでわかりやすく説明することを試みた本
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量子光学が学べる大学・研究者