量子光学<物理学>

平野琢也先生インタビュー

学習院大学理学部物理学科 

●先生のご専門である、量子光学 <物理学>とはどういう学問でしょうか。

物理学の中で、光と物質の相互作用に焦点を当て、その根本を追求する学問分野です。近年、光や原子・分子の量子力学的な振る舞いの理論的な理解や、それらを制御する実験技術が飛躍的に進展しており、量子計算や量子暗号などの量子情報技術の研究や、量子多体物理学の研究などが世界中で活発に行われています。実験では、レーザーや光通信などの先端光技術を利用します。

 

●量子光学において、先生はどのような研究をされていますか。

私の研究室では主に3つの実験を行っています。1つは、レーザー冷却の技術を使って、原子集団を非常に低い温度(1千万分の1ケルビン)まで冷却し、ボース・アインシュタイン凝縮という現象を起こして多数の原子の波としての位相をそろえ、その状態の原子の性質を調べる実験です。2つめは、量子力学の原理を利用して安全な通信を行う量子暗号の実験です。最先端の光通信技術を使う新しい方式を研究しています。3つめは、パルスレーザーを用いて量子エンタングルメントという量子力学特有の現象を実現する実験です。これらは、光と物質の相互作用を利用して、光と物質の量子力学的な性質を調べ、そして、制御する実験です。


平野研究室のみなさん(平野先生は前列中央)
平野研究室のみなさん(平野先生は前列中央)

●生み出された成果は、社会的にどのような意味を持ち、また貢献できると思われますか。

ボース・アインシュタイン凝縮を調べることは、物理学の基本的な未解決問題、量子多体系を理解することにつながると期待されています。複数の粒子が互いに相互作用を及ぼしあう状況は、自然にありふれており、その状況で、粒子が個性を失わないでどのように振る舞うかを理解することは、学問の基礎として興味深いだけでなく、材料開発などの応用につながります。また、量子力学の原理を直接利用した情報処理技術は、量子計算や量子暗号など、従来よりも質的に優れた情報処理が可能です。


●その研究テーマとはどのように出会ったのでしょうか。

量子光学の実験では、レーザーなどの光技術を利用します。私は大学院生のとき、六本木にあった研究所の極限レーザー部門というところに所属していました。そこは、最先端のレーザーを開発し、応用することを研究する部門でした。私が修士課程1年生のとき論文を読んでいたら、研究室に既にある装置を使って、真空状態の量子揺らぎを制御する実験ができることがわかりました。そこで、その実験を始めたというのが、今の研究テーマのきっかけです。

ただ、新しい装置もいくつか必要で、それらは自作しました。高校生の皆さんは、今は何でもあって何でも出来ると思っているかもしれませんが、実際には、世の中に既にある装置は限られていて、実現されていないことが沢山あります。身の回りにある装置でも、少し改造したり、使い方を変えたりすることで、新しいことが可能になるかもしれません。

実験室にて(研究室の学生さんたち)
実験室にて(研究室の学生さんたち)

●高校生が授業や課外活動等で、「量子光学」に関する研究をするとして、高校生でも取り組めるテーマや課題はありますか。

基本的なことを知らずに課題に取り組んでも、疑似科学になってしまう心配がありますので、まずは、下記で紹介する一般向けの書籍を読んだり、それでは物足りない場合は、大学生向けのテキストに手を伸ばすのが良いと思います。量子力学に興味のある方は、『量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために(清水明著、サイエンス社)』に挑戦してみることをお勧めします。あるいは、身の回りに指導して頂ける人がいる場合には、実験的な課題に取り組むことができるかもしれません。


●先生が指導されている学生の研究テーマ・卒論テーマ、大学院生の研究テーマを、いくつか教えてください。
 

・長距離連続変数量子鍵配送における鍵生成率の向上
・低損失周期分極反転光導波路を用いた通信波長帯パルス光のスクイージング
・CCDカメラを用いた空間分解BEC磁力計
・原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体の集団スピンのコヒーレンス制御
・往復方式連続変数量子鍵配送

実験室にて(研究室の学生さんたち)
実験室にて(研究室の学生さんたち)

●先生の研究室の卒業生は、どんな仕事をされていますか。

学部卒の場合はIT関係の割合が高く、大学院の修士卒になるとメーカーの割合が高くなります。博士課程に進学した学生のうち、2名は国内の大学で助教を、あと1名は海外の大学で博士研究員をしており、専門分野の研究に従事しています。

メーカーに就職した卒業生の中で、カメラメーカーや、あるいは精密機器メーカーでプリンタの開発に従事している場合には、光学の知識が多少役に立つ場合もあると思いますが、量子力学の知識が役に立つ場合はあまりないかもしれません。学習院大学を卒業後に、他大学の大学院に進学し、現在は研究用の光デバイスの開発に携わっている卒業生や、3次元半導体の開発を行っている場合には、量子力学の知識も役に立っていると思います。

<関連サイト>
■学習院大学平野研究室
http://qo.phys.gakushuin.ac.jp/

■学習院大学理学部サイエンスインタビュー第4回 「最先端の研究を、実用へ」
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/top/interview/in04.html

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