食品物性学
おいしいパンの秘密は小麦粉にあり。10%のタンパク質の「物性」が決め手
裏出令子先生 京都大学 農学部 資源生物科学科 品質設計開発学分野

裏出先生おすすめ本
『食料の世界地図』
エリック・ミルストーン、ティム・ラング(丸善出版)
農業や食料問題に興味がある高校生でも、日常は豊かな食品に囲まれて何が問題なのかよくわからないというのが実感ではないでしょうか。本書は地球上の複雑な食料問題を地図上に表し、一見してその状況がわかるようにまとめた一冊。現在人類が抱えている食料問題が視覚的に示されることで、強烈なインパクトを受けます。本書を読むことで、未来を担う高校生に、生命、食料、環境を扱う農学部のいろいろ学問領域の重要性を知り興味を持ってもらえればと願っています。
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第1回 タンパク質含有量が多い強力粉はパンに、少ない薄力粉はケーキに

食品のおいしさ、例えば味や香り、舌ざわりや歯ごたえを調べるには、食品の性質を科学的に研究する必要があります。おいしさだけでなく、生理機能性や食物アレルギーなど健康との関係について調べることも重要です。その目的は、私たちが得た知見を、作物の品種改良や食品加工の技術に役立てるということにあります。
今日はその中で、代表的な食用作物であるコムギを例にとって、食品を科学するとはどういうことなのかを説明してみたいと思います。コムギは人類にとって非常に重要な作物です。世界中の人が摂取している全カロリーのうち、約20%はコムギから摂っています。
コムギが食品になるまでの過程を見てみましょう。多くの場合、小麦粉という形で食べています。その小麦粉はどうやって作られるのかというと、コムギの種子の中に胚乳と呼ばれる大きな塊がある。この胚乳を粉砕したものが、小麦粉です。でも私たちは小麦粉をそのまま食べません。パンをはじめ様々な小麦粉食品は、小麦粉に水を加えて捏ねた生地から作られます。この生地が持っている物理的な性質を物性と言います。小麦粉生地は、この物性が優れているからこそ、パン、パスタ、うどん、ラーメン、ケーキ、クッキーやまんじゅうなど、実に様々な食品に使われているのです。

では小麦粉生地にどんな優れた物性があるかというと、重要なものは2つです。1つは伸張性といわれる物性です。よく伸びて引っ張っても切れないという性質です。もう1つは、抗張力という物性です。これはひっぱりや伸ばしに対する抵抗力です。
でも、どの小麦粉から作った生地でも、まったく同じ物性かというと、そうではありません。小麦粉は、中に含まれるタンパク質の含有量によって強力粉、中力粉、薄力粉などに分けられていますが、例えばタンパク質含有量が高い強力粉は、抗張力が強くパンを作るのに向いています。一方、薄力粉は抗張力が弱くサクサクしたスポンジケーキなどを作るのに向いています。では、おいしいパンを作るにはどうしたらいいのか考えながら、小麦粉を科学することをはじめてみましょう。
興味がわいたら Bookguide

『食料の世界地図』
エリック・ミルストーン、ティム・ラング(丸善出版)
農業や食料問題に興味がある高校生でも、日常は豊かな食品に囲まれて何が問題なのかよくわからないというのが実感ではないか。本書は地球上の複雑な食料問題を地図上に表し、一見してその状況がわかるようにまとめた一冊。現在人類が抱えている食料問題が視覚的に示されることで、本書からは強烈なインパクトを受ける。社会的な問題と自然科学的な問題を融合した客観的な内容であり、食料問題に対してグローバルな視点が培われる。「本書を読むことで、未来を担う高校生に、生命、食料、環境を扱う農学部のいろいろ学問領域の重要性を知り興味を持ってもらえればと願っています」と、本書を薦める裏出先生。
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『21世紀に何を食べるか』
葛西奈津子(恒星出版)
食品の生理機能性や安全性に興味がある高校生向け。本書は、11人の専門家がそれぞれ独立のテーマで執筆し、1冊で食をめぐる様々な問題点に関して知識を得られるように構成。クローン牛が食用肉として販売されたことへの疑問、日本人の食物アレルギーの原因食品の変化の話等々。執筆者の1人、裏出令子先生は「アブラと健康の密接な関係」について述べている。

『新装版 「こつ」の科学 調理の疑問に答える』
杉田浩一(柴田書店)
美味しい食事を食べたり作ったりすることに科学的な興味を持っている人向け。ただの料理本ではない。調理の中で知られているいろいろな「こつ」の「なぜ?」287項目を、科学的に解説している。調理科学の研究者が執筆を分担しており、簡潔ではあるが奥が深い読み応えがある内容となっている。
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『「おいしい」を科学して、レシピにしました。』
サリー(サンマーク出版)
美味しい食事を食べたり作ったりすることに科学的な興味を持っている人向け。著者は、京都大学農学部在学中、「料理がおいしくできる仕組み」があることに気づき、料理と科学の関係に目覚めた生粋の理系女子。現在は理系ライターとしても活躍する、今注目の料理研究家の一人。なぜ味つけは最後にするのか?落しぶたはなぜ必要なのか?青魚は10秒だけ湯通しするといい!玉ねぎは切った直後に塩を加えるといい!お弁当に使う肉は赤身がいい!意外と知らない料理のコツと、実際のレシピを数多く紹介する。
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『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』
石川伸一(DOJIN選書/化学同人)
近年、物理学、化学、生物学、工学の知識を調理のプロセスに取り込み、これまでにない新しい料理を創造しようとする「分子調理」が注目されている。本書では、その世界的な広がりの様子を眺め、料理と科学の幸運な出会いの場面を描く。
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『おいしい穀物の科学』
井上直人(講談社ブルーバックス)
本書は、「三大穀物」とされるイネ、ムギ、トウモロコシについて、その進化や栽培化の過程と、食料としての特性などに重点を置き、自然科学に人文科学的な視点も交え解説。農学だけでなく、温室効果ガスなど環境科学の研究成果も取り入れ、穀物を幅広く理解できるようなっている。誰もが毎日食べている、おいしい穀物がわかる。
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『ノーマン・ボーローグ 「緑の革命」を起した不屈の農学者』
レオン・ヘッサー(悠書館)
小麦品種改良のたゆみない努力の結果うみだされた“奇跡の小麦”を、ラテンアメリカ、インド、さらにアフリカ、中国に広め、世界の小麦生産量を飛躍的に増大させた“緑の革命”の立役者ノーマン・ボーローグ。飢餓に苦しむ数億人の人々を救い、世界平和に貢献したとして、1970年、ノーベル平和賞を受賞した農学者の生涯。
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