著者に聞く

『どうして高校生が数学を学ばなければならないの?』

角 大輝先生

京都大学 人間・環境学研究科 共生人間学専攻 数理科学講座(総合人間学部 認知情報学系兼担) 

『どうして高校生が数学を学ばなければならないの?』 (大阪大学出版会)
『どうして高校生が数学を学ばなければならないの?』 (大阪大学出版会)

この本では、数学を職業としている人、そうでない人、様々な立場の先生が、数学とのかかわりを語ります。例えば、科学コミュニケーターの門田英子先生は、「数学はそれ自体が道具である。人生の道具箱に数学を!」と、河合塾で数学を教える大竹真一先生は、「数学は何千年という長い歴史を持つ人類の文化である」と語ります。また、社会生態学・里山のグローバルマネジメントが専門の深尾葉子先生は「数学で、生命・宇宙・芸術が理解できる」と数学の広がりを語り、数学専門誌の編集にたずさわる横戸宏紀氏は、受験生がどうやって数学と向き合えばよいのかを語ります。著者の中には、とても数学が嫌いだったという人もいます。その経験を経て、数学を大事に思う部分は何なのか、それぞれの立場から述べています。数学で悩む高校生も、数学好きな高校生もぜひ読んでください。数学の世界が広がります。

 

著書の一人、角先生は「第8章 あなたは何を描いてもいいのです―論理と感性を紡いでいきましょう」を担当。専門は、物事がある規則に従って変わりゆく様子(力学系)と、海岸線やカリフラワーのような細部が全体と似る面白い図形(フラクタル)を数学的に調べることです。角先生に伺いました。

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『どうして高校生が数学を学ばなければならないの?』

◆角先生は、どうして高校生が数学を学ばなければならないのか、どうして学んだ方がよいと思われますか。

 

幼いときに指を折って1,2,3,4…と数えた数たちとその足し算、引き算、掛け算…の世界。それをつじつまが合っているようにストーリーを目いっぱいに展開したものが数学です。そこでは「AならばB、BならばC、よってAならばC」のような「論理」が使われます。そのような数を含む論理世界自体が日常生活を含めてよく使われるので大事だということが一つ。

 

そして、そのような論理的世界の論理の展開のされ方をなぞってみる(味わってみる)ことによって、自分でもその世界を体験することができるということが一つ。

 

そのようなことをしておくと、論理の世界に強くなれるので、説得力のあるしっかりとした考え方をすることができるということを主張したいです。この数を含む論理世界を体験するには、本当に基礎(土台)の部分からゆっくりしっかり丁寧に理解していくことが大事で、特に算数をしっかり理解することが大事です。

 

場合によっては、中学、高校で習う論理展開の仕方をもって(証明の仕方などをもって)もう一度数学の教科書を読み直して、説明が少ないところを自分で探し出して自分でその説明を補うことなどが必要でしょう。何を出発点として、何を示そうとしているのか、どうしてそのことが成り立つのかを理解していくことは、人が生きていくことで、他人に対して論理を展開して話をしないといけない以上、いつも大事ではないでしょうか。

 

なお、私自身、大学の数学が全くわからない時が何年もありました。私の研究室の学生さんでも数学がわからない状況にある人をよく見ます。でも、基礎からやり直すと、よくわかるようになります。見違えるようにしっかりとして別人のようになった学生さんを何人も見ました。これは大学での話ですが、高校生の皆さんでも同じことが言えると思います。

 

さらにそして、論理の世界を大事にすると同時に、その人個人個人の物の感じ方(感性)を大事にして、例え自分の考え方が他人から笑われたりけなされたりすることがあっても、自分の中で強く感じるものがあるときには、自分の感性を大事に育て、それを生かしていただきたいと思います。それがその人個人のみならず人類全体の役に立ち共有財産になっていくと思います。

 

◆角先生の専門分野(カオス、フラクタル、力学系、ランダム(複素)力学系)についてはどのようなことが書かれていますか。

 

海岸線やカリフラワーのような細部が全体と似る面白い図形である「フラクタル集合」の紹介を行い、それが自然界のオブジェクトとしてしばしば現れることを述べています。そしてその数学的な模型である「自己相似集合」の紹介もしています。

 

また、直線や平面の上での与えられた2つ以上の操作に対し、サイコロを振ってその目で1つの操作を選んで点を動かすということ(ランダム力学系と言います)をすると、その時間無限大の振る舞いを表すものとしてフラクタル図形(グラフがフラクタル的な関数)が出てくることを解説しています。ランダム力学系理論は物事が時間とともに変化していく様子を記述するのに役立つのではないかと考えています。

 

フラクタル的な野菜であるカリフラワー
フラクタル的な野菜であるカリフラワー
フラクタル的な野菜・ロマネスコ
フラクタル的な野菜・ロマネスコ

雪片集合
雪片集合
悪魔の階段
悪魔の階段

悪魔のコロシアム
悪魔のコロシアム
フラクタルウエディングケーキ
フラクタルウエディングケーキ

※悪魔のコロシアムとフラクタルウエディングケーキの図は

角大輝HPhttp://www.math.h.kyoto-u.ac.jp/~sumi/index-j.html より

 

カオス、フラクタル、力学系、ランダム(複素)力学系について詳しくはこちらを読んでください。

 

 

◆高校生に、この本の中で、特に読んでほしいところを教えてください。

 

前半部分で数学を学ぶことが大切だと思われる事項を述べています。特にその中で算数をきちんと理解することが大事だと説明しておりますので、その箇所を読んでいただきたいです。もう一つ、後半部分で、フラクタルを説明するところがあります。その中で、フラクタルの理論を使って実際に高校生(女性)が売れているマンガの図柄の複雑さをはかり、その量(=フラクタル次元)が話の起承転結とともにどう変化するかを研究されたことを紹介するところもありますので、そこも読んでいただきたいです。

 

角先生の研究である「カオス、フラクタル、力学系、ランダム(複素)力学系」について知る

角先生インタビュー

カオス、フラクタル、力学系、ランダム(複素)力学系でリードする大学・研究者