学問本オーサービジット(筑波大学協力)

法律は悩み、苦しみ、書き出されたもの。権威を疑い、様々な考えに悩み向き合う学生に法学研究は向く

辻雄一郎先生インタビュー

筑波大学 社会・国際学群 社会学類 法学主専攻/人文社会科学研究科 国際地域研究専攻 

◆先生の研究分野とその今後について教えてください。

 

◇情報法について

SNSの発達で、表現の自由の根本的な価値が問われています。自分の書いた記事に責任と義務を負うという古典的な原理は、フェイクニュースの登場で、その存在意義が疑われてきています。どうして確実な資料や根拠に基づかない記事が執筆され、そして、それらがもっともだ、と社会に受け入れられていくのでしょうか。果たしてこのようなフェイクニュースは古典的な表現の自由の価値や原理の放棄を迫っているのでしょうか。

 

◇環境法について

環境を保護するためには経済的成長を犠牲にするというのは古い考え方です。現在では、温暖化対策を実施する「緩和」や「適応」が議論されています。経済成長を促す温暖化対策を実施するための議論が深まってきています。国内の法整備はもちろん、国外の動きに目を向けていく必要があります。

 

◇比較法について

我が国の憲法、行政法は、多くの先人たちが業績を積み上げてきました。しかし、他国の成功例は、必ずしも我が国の成功にならないでしょう。我が国の成功例が途上国にそのまま移植しても成功する可能性は低いでしょう。どのような原理の、どのような価値が比較の対象になるのでしょうか。文化や民俗性も大きな要因でしょう。法的な視点からも何か言えないでしょうか。残念ながら我が国の業績は非常に洗練されていますが、言語上の問題から他国にはそれほど知られていません。

 

◆先生が指導されている学生・大学院生の研究テーマを教えてください。

 ・尊厳死について

 ・フラッシュモブの合法性

 ・ダム建設の事業計画の違法性について

 ・フランク三浦とフランクミューラーの知財裁判について

 ・東日本大震災による津波被害についての学校の国家賠償責任

 ・出身国に戻った場合に死刑が予想される場合の強制退去の合法性  など

 

◆先生の指導した卒業生は、どんな就職先で、どんな仕事をされていますか。

 

国家公務員(いわゆるキャリア)・地方公務員(県庁・市役所)、警察官や消防官などはもちろんですが、一般の企業にも勤めています。法的な考え方は、矛盾する事案を整理して、どのように首尾一貫して説明するか、あるいは矛盾点を取り除くかという論理的な思考方式です。それは必ずしも一般社会でいう「法」とは関係のない場面で発揮されることが多いでしょう。法学は特定の方向に人を動かそうとする道具の一つです。制裁やご褒美だけでは人は動きません。人生の中でじわじわと数十年後に成果が表れるものでしょう。

 

◆ゼミでは、どのようなことをされていますか。また、どのような学生が、先生の分野の研究には向いていますか。

 

前半は、公務員試験対策と最新の判例の報告です。後半は、各自で好きなテーマを検討します。

 

立派な人のいうことだからもっともだ、という姿勢ではなく、「権威」を疑い、常に自分の考え方を含めて悩んでいく学生がこの分野の研究に向いているかもしれません。また、理系、数学的な論理的思考方式は法学では案外、役に立ちます。かえって、将来に悩んでいる人、法律に関心がない人の方が向いているのかもしれません。

 

◆先生は研究テーマにをどのように出会いましたか。

 

学生時代にテーマを選んで、演習で報告したのがきっかけです。そのテーマを持続的に追求することができたのは私にとって幸せでした。大学院時代は憲法の制定史を学びました。あまり関心のない分野でも、後になって非常に役に立つことがどうやら人生にはあるらしいです。

 

 

◆この分野に関心を持った高校生が取り組めるようなテーマを出していただけますか。

 

AIの進展に伴い、自動運転技術で、交通事故が発生した場合、責任を負うのは誰か考えてみましょう。

・ハンドルを握っていない運転手か、それとも自動車のメーカーか。それともAI自身か。

・従来の法律は放棄を迫られているのか。

・既存の法律では、メーカー製造物責任法なのか。それともAI自身に信託基金や法人格を認めて、そこから損害賠償責任を負わせるのか。

など、検討してみましょう。

 

◆先生の研究室にお伺いしたい場合はどうすればいいでしょうか。

 

学校の先生にお願いして出張講義(出前講義)を高校・大学経由で依頼してみてください。その際に、何を学びたいのか、何を知りたいのか、具体的なテーマをあらかじめ提示していただけると準備しやすいです。

 

メールでのアポイントメントをお願いします。研究室に来る際には、一枚程度で何を学習したいのかを、あらかじめ書いておくと、それほど緊張せず、知らない相手と話すことができるでしょう。

 

◆関連サイト

◇公法講義 辻 雄一郎

https://sites.google.com/site/publiclawtsuji/

 

◇英語の論文が下記に収められています。

SSRN  https://ssrn.com/author=979824

 

富士見高校でのオーサービジットの様子
富士見高校でのオーサービジットの様子

興味がわいたら

『自信をもっていじめにNOと言うための本 (憲法から考える)』

中富公一(日本評論社)

「いじめ」がなぜ許されないのか、そして周囲はいつ介入すべきかについて、極めて詳細に検討しています。高校生や中学生でも、法的なものの考え方を理解できるようにわかりやすく記述されています。

 

法律は、決して与えられたものではありません。私たちの生活の周囲にあるルールは、私たち自身が悩み、苦しみ、妥協の末に書き出したものです。これらのルールは法律と呼ばれたり、慣習と呼ばれたりします。法律は、いじめを決して許しません。法律の限界を探り、その守るべき価値を考えるきっかけをこの本は提供してくれます。

 

本書では、いじめを「憲法」から考えます。「憲法」は、決して国会議員、裁判官、検察官、弁護士、憲法学者だけのものではありません。私たちが自分たちの人生を悩み、苦しみ、描き出し、自分たちが大事に想う人たちとどのように生きるかたちを描いているのかを考えたときに、憲法が生まれています。国会議事堂、首相官邸、裁判所といったコンクリートの建物は決して「政府」でもなく「国家」でもありません。

 

「行政法」は、生活の実態に沿ったそれぞれの法律の運用のかたちを具体的な事例をもとに検討していきます。例えば、どうして「子どもの貧困」「いじめ」が生まれ、それをどのように解決していくのかを考えていきます。そこに正解はありません。しかし、正解がないからといって、私たちは正解に至る努力を放棄するわけにはいかないでしょう。

 

「いじめ」の定義をどうして、わざわざ確定しないといけないのか。厳しい制裁を課せば、いじめは根絶できるのだろうか。考えて欲しいと思います。

 

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映画『スターウォーズ エピソード3』

共和国が帝国に変貌する際の意思決定の過程は、古典的なものです。「自由は万雷の拍手の中で死ぬ」という言葉が非常に印象的でした。国家防衛のためのクローン部隊が帝国圧政の象徴へと変貌するのです。

 

映画『誰も知らない』

母子家庭で母親に見捨てられた長男が弟妹の面倒を見る。友人が援助交際で得たお金で彼らを助けようとする。生活保護、子どもの貧困が描かれています。

 

映画『シン・ゴジラ』

ゴジラは生物であり、外国「国家」ではなく、したがって、ゴジラに対しては、集団的自衛権を使う際の前提である「存立危機事態」には該当しません。災害時には自衛隊は武力の行使は許されません。映画では、憲法や関連する法律が運用される姿、内閣の意思決定の姿を描いています。

 

こちらも高校生におすすめ

映画『帰ってきたヒトラー』

ヒトラーが現代にタイムスリップ。最初は、コメディかな、と思って楽しく見ることができます。

 

映画『ハンナ・アーレント』

ドイツ系ユダヤ人の哲学者ハンナ・アーレントの伝記ドラマ。ナチスドイツの過去の行為は、どのようにして責任を追及すべきでしょうか。彼らは、絶対的な悪でしょうか。私たちの心の中に、その起源はないのでしょうか。

 

『これからの「正義」の話をしよう』

マイケル・サンデル 鬼澤忍:訳(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

NHK教育テレビ『ハーバード白熱教室』では、積極的是正措置、過去の行為についての政府の責任など、考えながら正解を導こうとする姿勢を「観て」学ぶことができます。その書籍版です。

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映画『バットマン』

バットマンシリーズの『ダークナイト』では、恋人が死ぬシーン、また、爆弾が船内に仕掛けられている際のゲームについて思うことは、私たちが人生で下す決断に正解はないということ。また『ダークナイト ライジング』ではベインは「政府の存在意義」を人々に問いかけます。