学問本オーサービジット(筑波大学協力)

犯罪は「社会を映す鏡」。少年犯罪から現代社会を考える

~『人間失格?~「罪」を犯した少年と社会をつなぐ』を読んで

犯罪社会学・土井隆義先生+富士見高等学校有志7人

●オーサー 土井隆義先生

筑波大学 社会・国際学群 社会学類/人文社会科学研究科 国際公共政策専攻

●参加者 東京・富士見高等学校有志7人

●実施 2017年2月13日

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『人間失格?~「罪」を犯した少年と社会をつなぐ』

土井隆義(日本図書センター)

少年たちはなぜ罪を犯すのか? その罪は彼らだけの責任なのか? 罪を犯してしまった彼らは人間として失格なのか? 「少年犯罪」の動向と、それを取り締まる側の分析を通して、現代社会のありようを考察した本です。逸脱した少年たちとのつながりの糸を、あなたは紡ぎますか? それとも断ち切りますか? 彼らとどのように向き合うべきなのか、皆さんご自身の問題として考える際の参考にしてください。本書は、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞、週刊金曜日、朝日中学生ウィークリー、ダヴィンチなどでも紹介されました。

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◆本に書かれたことで、とりわけ高校生に読んでほしい箇所や考えておいて欲しい点はありますか。

 

犯罪は「社会を映す鏡」であると言われます。社会の中でもっとも問題をはらんだ部分、もっとも病理的な部分が、具体的なかたちをともなって表われたものだからです。しかし、この言葉には別の含意もあります。ときどきの社会がどんな行為を嫌悪し、自分たちの世界から排除したがっているかが、犯罪の定義を通して具体的に見えてくるのです。すなわち、人びとの価値観が投影されているという意味においても、犯罪は「社会を映す鏡」だと言えます。さらに言えば、どんな人物が犯罪者として摘発されやすいのかを通じて、社会の人びとが抱いている人間像が透けて見えてくるという意味においても、犯罪は「社会を映す鏡」だと言えます。そういった点に注意を向けながら本書を読んでいただければと思います。

 

◆先生の研究分野である「犯罪社会学」について、簡単にご説明ください。

 

犯罪という社会現象の分析を通して、社会の仕組みについての考察を行なう学問です。犯罪を行なう側だけでなく、ある行為を犯罪と定義する統制側の活動も分析の対象となります。犯罪の事実だけでなく、その概念もまた社会現象の一つだからです。犯罪社会学のバックボーンとなっているのは社会学という学問です。この学問は、社会を眺めるときの概念を吟味し、洗練させることで発達してきました。そもそも概念とは、具体的な現象を捉えるときの補助線の役割を果たすものです。私たちの知的財産として、その補助線のストックを増やすために、社会学者もまた努力してきたのです。

 

◆オーサービジットで取り上げる本から、先生の分野に関して、どのようなことを知ることができますか。

 

本書で試みているのは、犯罪という社会現象に対して、新たに補助線を引きながら考え直してみるという作業です。皆さんは、図形を扱った数学の問題を解いているとき、たった一本の補助線を引いてみただけで、それまでまったく見えていなかった図形の構造が、そこに浮かび上がってくることに感激した経験があるでしょう。本書では、それと同じことを犯罪現象について試みています。社会学的な補助線を引いてみることで、犯罪の見え方が従来とはまったく異なってきます。その知的スリルをぜひ味わってください。

 

少年犯罪の変化は、時代の変化、人間関係のありかたの変化も関わる

◆オーサーはどのような話をしましたか。

 

罪を犯してしまった非行少年と、社会がどうつながっていくべきかが大きく扱われました。非行少年に対する社会の偏見や意識の違いが指摘されました。団塊世代、バブル世代、そして私たちの世代というように、時代の変化と犯罪には密接な関係があり、そして少年犯罪の種類にも移り変わりがあるのです。

 

一昔前の少年犯罪の傾向と今の少年犯罪の傾向が違うわけには、人間関係のありかたの変化も関わっており、自分たちにも当てはまるようなことも多くありました。また非行少年だけではなく、私たちにも当てはまることですが、努力では埋められない周囲の環境の差というものについての話もありました。必ずしも全ての場合ではありませんが、貧困層で育つ時と裕福な家庭で育つ時の差は少年犯罪にも関係するといったことです。

 

また、大人と子供との世代間ギャップが少なくなっており、子供の大人への反骨精神が薄れてきていることも挙げられました。このことは、少年犯罪の移り変わりにも関係しています。

 

◆とくに丁寧に説明があったのは、どのような内容でしたか。

 

社会の変化についてです。高度経済成長中の社会の中では、貧富の差があまり目に見えませんでした。貧しい人でも、昨日より今日、今日よりも明日、と日々、生活の質が良くなっているのが感じられたので、貧富の差はあまり目立たなかったのです。しかし、社会の成長が止まってしまった今では、その差がよく見えるようになってしまいました。

 

また、昔はみんなが同じ目標を持っていたので、自分の考えていることは周りと同じだ、正しい、と思う傾向があり、自分の信念が揺れることは少なかったわけですが、社会の成長が落ち始め、社会が多様化していくにつれ自分の価値観に不安を抱くようになってしまった。そして周りの評価を気にしてしまう傾向が生まれてしまったということでした。

 

さらには、様々な人と触れ合う必要性についても話されました。自分というものは、他の人を通してでないとわからない。周りの人に指摘されて初めてわかるのだそうです。その時にいつも同じ環境の人といると同じ面からしか自分を見られなくなってしまうので、新しい自分を発見するには、様々な環境の人と出会うことも大事で、非行少年と触れ合うこともその一つだと言います。非行少年と関わることは、私たちにとっても、治安の良い社会のためにもよいことなのだそうです。

 

◆どのようなことをディスカッションしましたか。

 

少年法の適用年齢の引き下げについてです。世間では、若者はマナー意識が他の年代よりも高いと言われており、罪を犯した人に対して、年配の方より若者の方が厳しい傾向があるそうです。今も少年法について様々な議論がされていますが、もしも適用年齢が引き下げられてしまったら、今の18-19歳の少年にどのようなことが起きてしまうのか、社会にどう影響されるのかをディスカッションしました。

 

また、新しい自分の発見についても話し合いました。様々な環境の人と出会うことは大切であり、周りの人から指摘される、自分の知らなかった自分を認めることは大事です。しかし、果たして自分のことをあまり知らない人からの意見を信じてよいのか、その見極めも大切であるのではないかということを話しました。

 

少年法の適用年齢の引き下げは、少年たちと社会のためにならない

<学問本オーサービジットに参加して>

◆オーサーの話では、どんな内容が印象に残っていますか。

 

◆少年法の適用年齢の引き下げは必ずしも厳罰化になっているとも限らない。むしろ18-19歳の少年たちにとっては、少年院に入って更生を受けるよりも、罰金で済ませられる成人としての償いの方が、ゆるくなってしまう。少年法の適用年齢の引き下げと聞いた時に、イメージでは少年にとっては厳しくなるのかと思っていたが、実は逆だということがわかった。私は、少年法は引き下げなくてよいと思う。18-19歳の少年にとっても、社会の治安にとっても少年はきちんと更生されてから社会復帰するべきだと思う。もしも18歳で罪を犯してしまい、ただ罰金をするだけで終わってしまったら再犯をしてしまう少年も多くいると思うし、少年たちはむしろ損をすると思う。(西間さん 1年)

 

◆「少年犯罪に走る子供たちの多くは、幼少期の虐待や両親による事情により犯罪に走るケースが多い。それは扁桃体が大きくなることによって、小さなストレスに過剰に反応してしまうようになり、犯罪者となってしまうからである」といった話を聞いて、犯罪にはしっかりとした原因があるのだと知りました。原因があるのだから、対処法もあると思います。

 

また、「マスコミの報道は事実だが真実とは限らない」といったことに対しては、マスコミは加害者をより加害者らしく報道しているということと、また加害者に対して「マスコミと第三者である私たち」が共犯者となって加害者を社会からの「被害者」にしているということに気が付きました。(古野さん 1年)

 

◆少年法で裁かれることが原因で、本来受けるべき刑より軽くなってしまうという話が一番印象に残っています。先生は、動物や病気の人と同じように未熟な少年を扱うべきとおっしゃっていました。もし自分が被害者だったとしたら、本来受けるべき罰が与えられないのは絶対に許せないと思います。(尾野さん 1年)

 

◆現代の少年は生活圏が狭く、傷つくのを恐れて特定の友達としか関わらない。だから、その中だけでの人間関係によって自分の個性というものを認識している。この状況はまさに私にも当てはまると思った。必要以上の友達とあまり話さず、性格や趣味の合う人とばかり話している。先生の話を聞いて、私とはまったく違う環境に置かれている人とつながり、自分というものを見つめ直してみるのもよいなと思った。視野や自分の世界を広げることはとても大切だと思う。(國武さん 1年)

 

◆少年法の適用年齢引き下げについての話が一番印象に残った。思春期や後期思春期の青年にとって何が正しいことで何が効果的なことか考えることができた。心の発達途中の青年にとって少年院で改心させることの大切さを知った。また複雑な家庭環境やそれぞれの家庭事情を抱える青年に一人一人向き合うことの大切さも感じたが同時にそれがいかに大変で難しいのかもわかった。この問題は青年自身の問題だけではなく社会の影響も大きい問題であることが複雑化しているのだなと思った。社会の非行少年への偏見や差別など法律で解決できない問題にどう対応していくべきかまだ考えることがたくさんあると感じた。(和田さん 1年)

 

◆オーサーの話から、どんなこと考えましたか。

 

◆現代ではアーキテクチャによる環境のコントロールが行われていることを聞き、発想は良いと思ったが、少し寂しい世の中になってしまったと感じた。店の回転率を上げるために椅子をわざと座り心地のよくないものにしたり、公園などにあるベンチにひじ掛けをつけてホームレスの方が寝られないようにしたりと、他人に対して厳しいと感じた。(西間さん 1年)

 

◆少年少女が罪を犯してしまう原因は社会環境にあり、環境に恵まれていないからこそ犯罪に走ってしまう。私たちが犯罪に手を染めていないのは、周囲の環境が整っていて、たまたま環境に恵まれているから。少年少女が犯罪者になってしまったことに対して、悪いのはこの少年だと押し付けてしまうのは、いま自分が置かれている環境がたいへん幸福なことに気がついていないのと同時に、一方的に押し付けてしまうことは社会をより良くしていくためには良くないことだと思います。また、私たち子供は、将来の社会を担っていく存在でもあります。子供たちを犯罪に手を染めさせないようにするのはもちろん、犯罪に手を染めてしまったあとの矯正方法などを考えていく必要があると思いました。(古野さん 1年)

 

◆今まで犯罪の深い話に触れる機会がなかったので本当に面白かったです。同じような暮らしを送っていても、満足度によってものごとの捉え方が変わってくることなど統計からみた犯罪について知ることができました。自分の視野が広がりました。また、もっとものごとをいろいろな面からみるべきだと強く感じさせられました。(尾野さん 1年)

 

◆事件を起こしている少年たちは私と年齢、環境も変わらないことが多く、ひとごとではない。彼らの人間関係のグループの雰囲気がたまたま犯罪に近かったというだけで私と何の変りもないのだ。けっして他人事ではない少年犯罪についてもっと深く、様々な角度から考えていきたいと思った。(國武さん 1年)

 

◆少年犯罪の背景にある日本の現状や日本人の心境の変化など、深く詳しく話すことができて面白かった。また少年犯罪や非行は決して自分と程遠い世界で起こっていることではないと感じた。だからこそ法律家や政治家の大人だけでなく同世代である私たちに意味がある議論なのだと思った。(和田さん 1年)

 

 

先生のゼミの学生の研究テーマは? 土井先生ミニインタビュー

◆先生が指導されている学生や大学院生の研究テーマを教えてください。

 

・リスク社会における犯罪報道

・加害者家族のスティグマ化

・死刑存廃論争における死生観

・少年犯罪の解釈と教育思想

・少年法におけるパターナリズム

など

 

◆先生のゼミの卒業生は、どんな仕事をされていますか。

 

家庭裁判所調査官となった卒業生は、犯罪社会学の知識を活用して、非行少年の更生のお手伝いをしています。

 

◆大学時代などに、自分の道に影響を受けた先生を教えてください。

 

●大村英昭先生<犯罪社会学>

●卒論の執筆時に、先生の著作に初めて接して、その分析の鋭さに感動しました。自分の大学の先生ではなかったので、一発奮起して、大学院は先生がいらっしゃる大学を外部受験しました。

 

先生の分野の関連本

『若者の気分~少年犯罪〈減少〉のパラドクス~』

土井隆義(岩波書店)

近年、少年犯罪は減少しています。それは一見望ましい現象に見えますが、それが他面でどのような問題を孕んでいるのかを考察した本です。皆さんご自身の問題として読んでいただけたらと思います。

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映画『砂の器』

野村芳太郎:監督

松本清張原作の推理小説を映画化したものです。犯罪が起こる社会背景について考える際に恰好の作品です。DVDでご覧になれます。きっと感動することと思います。

※画像は新潮文庫刊の原作本[出版社のサイトへ]

 

映画『時計じかけのオレンジ』

スタンリー・キューブリック:監督

アンソニー・バージェスのディストピア小説を映画化したものです。社会が犯罪者の内面を統制しようと企てるとき、いったいどのようなことが起こるのか。統制とは何かを考えさせられる映画です。DVDでご覧になれます。

 

『子ども法』

大村敦志、横田光平、久保野恵美子(有斐閣)

子どもをめぐる法律には様々なものがあります。本書は、子どもが誕生してから成人に達するまでの期間に関わる可能性のある関連諸法を解説したものです。自分の日常生活がどのような法と関わっているのかを知るために恰好の一冊です。

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こちらでも先生の記事が読めます

映画『幕が上がる』を観て

人と人とのつながりこそが、人生の幕を上げる~日常知としての社会学

 

「AKBから読みとろう!いまどきの人間関係」(みらいぶ)

 

SAVE IBARAKI~機能停止の大学で学生が起こした奇跡

(わくわくキャッチ/東日本大震災 復興と学ぶ応援プロジェクト)

 

川崎中1殺害事件の教訓とこれから私たちにできること

川崎中一殺害事件について、インターネット・ニュース「ビデオニュース・ドットコム」で、ジャーナリストの神保氏と社会学者の宮台氏と鼎談を行なった模様のダイジェストです。

 

「いじめられている君へ」

朝日新聞の「いじめ問題キャンペーン」でインタビュー取材を受けたものです。

 

「友だち地獄 「空気を読む」世代のサバイバル」

Tokyo FM で放送された「未来授業」の内容をまとめたものです。

「未来授業」HP

 

「現代の子ども・若者が抱える<優しい絆>に迫る」

日本教育再興連盟に所属する大学生によるインタビュー取材をまとめたものです。

 

「LINEで閉じる友だちの世界~ネットで狭くなった人間関係~」

明治図書出版のオンライン・ジャーナル「教育Zine」に寄稿した文章です。 

 

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