学問本オーサービジット(筑波大学協力)

人は歴史をなぜ描いたのか、なぜ歴史を学ぶのか

~『破壊と再生の歴史・人類学:自然・災害・戦争の記憶から学ぶ』を読んで

日本の江戸時代社会論・山澤学先生×富士見高校有志6人

●オーサー 山澤学先生

筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類/人文社会科学研究科 歴史・人類学専攻

●参加者 東京・富士見高等学校有志6人

●実施 2017年2月17日

 

『破壊と再生の歴史・人類学:自然・災害・戦争の記憶から学ぶ』

伊藤隅純郎・山澤学編(筑波大学出版会)

私たちは、グローバルな現代文明を生きる中で、自然災害、人災、戦争、革命など、様々な「破壊」に直面し、「再生」への道を求めています。しかし、同じような状況は、変革期と称される過去の時代にも、たびたび出現していました。歴史学・人類学を研究する私たちは、過去の変革期に起こった「破壊」のかたちと、「再生」に向けての人智を検証し、本書をまとめました。本書を通じ、読者とともに、現代の私たちに課されている諸問題を考えていければと思っています。山澤先生は、2章「自然災害の記録と社会 『信州浅間山焼記』を事例に」を執筆。

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◆先生の研究分野である「歴史学」の中の「日本の江戸時代社会論」について、簡単にご説明ください。

 

日本の江戸時代は、歴史学の中で、しばしば現代日本の様々ものが準備された時代と言われています。私は、社会の中で人々がどのようなつながりを持って生きていたのか、また、そのようなつながりの中で、個人の力がどのように発揮されていたのかについて関心があります。かつては、日本の江戸時代社会は、明るい近代と対極にある暗い封建制の社会と言われてきましたが、私は、近年の研究もふまえ、近代を生み出す時代として考えようと思っています。とくに、素材としては、人のつながりをつかみやすい宗教や信仰を取り上げています(生まれた場所が栃木県の日光であったことも影響していると思います)。

 

◆オーサービジットで取り上げる本から、先生の分野に関して、どのようなことを知ることができますか。

 

人は歴史をなぜ描いたのか。なぜ歴史を学ぶのか。より大きく言えば、人文科学は人の役に立つ学問なのか。これらの質問は、近年、よく聞かれるものです。その問いに答えるべく、書きました。自然科学は、すぐに役に立つものとして重宝されますが、人文科学も、質に違いがあるとはいえ、重要なものと考えます。とくに人間がよく生きるためには不可欠のものと思います。

 

大震災から再生するにはどうすればいいのか

◆オーサーはどのような話をしましたか。

 

みんなで読んだ本は筑波大学の人文社会系の先生方の論文、9編を1冊にまとめたものです。第7章のアメリカのリベット工ロージーの話では、第二次世界大戦期のアメリカの軍需工場で働いていた女性たちにとって、そこで働いた経験がその後アメリカでの女性の社会進出を促進させたことを話されました。第4章の血盟団事件では、宗教は悪いことではないが、茨城の純朴な青年たちが財界の重鎮たちを暗殺させるまでに至ってしまった、という恐さ、第6章の英霊礼賛では、あくまでプライベートな理由で兵士たちは戦っていたが、それでも兵士たちは国から英雄としてたたえられたこと、そして第5章の東日本大震災では、復興で今までよりよいものを作り出していかなければならないことを話されました。最後に先生がお書きになった第2章の浅間山を話して、全体のまとめをしました。

 

◆とくに丁寧に説明があったのは、どのような内容でしたか。

 

第5章の東日本大震災の章については特にいろいろとお話を伺いました。震災当時、先生がどこにいらっしゃったか、筑波大学がどのような被害にあったのか、などお話ししてくださいました。先生の個人的体験をふまえながら、災いから「再生」するためにはどうしたらいいかを考える上で、これまでの災害後の復興を振り返ることでヒントが得られ、また今回の震災の破壊と再生を記録することで、次に役立つ、といったことをおしゃっていました。確かに記録を残すことで未来の人々へ教訓を残すことができ、なにより今回私たちが考えたように、資料を通して考えてもらうことができるので、記録の重要性を改めて実感しました。

 

◆どのようなことをディスカッションしましたか。

 

基本的に各章について触れ、そこから派生する形で話が進んでいきました。例えば、浅間山の噴火について触れ、そこから自然災害について東日本大震災などに話題が広がったりしました。山澤先生が、私たちの感想や疑問を拾ってくださり、話しを深めてくださったので予定時間が過ぎても話し合いが続きました。

 

テロにも戦争にも目的がある。それを読み取りたい

<学問本オーサービジットに参加して>

◆オーサーの話では、どんな内容が印象に残っていますか。

 

◆なぜ宗教にはまってしまうのか、と思ってしまいますが、どうしてもできなくなって困ってしまった弱い状態に人々がさらされたときに、宗教や神にすがってしまう、と先生から聞いて、私たち普通の人でもそういうふうになる危険性があるのだなと考え、自分の考えや意見をしっかり持っていようと思いました。(古川さん 1年)

 

◆偽文書など嘘のものは歴史を学ぶ上では、全く無駄ではないということです。今までは事実とは違うことを書いているものならあっても意味がないと考えていましたが、なぜ嘘のものを作らなければならなかったのか、どのような意味のある嘘なのか、などを考えることで歴史的な背景がわかるので、役立てるべきだと考えました。そのためにはまず正しいものか見極める力が必要だと感じました。(山口さん 1年)

 

◆真木の屋志げきが、当時、50年も前の浅間山噴火を『信州浅間山焼記』でまとめたのは、ただ過去を思い返すだけではなく、社会をよりよく再生させるための方法を見つけるために書いたということです。現代にも通じる再生の方法だと思いました。(田中さん 1年)

 

◆私たちと同じような年齢の人たちがある日突然「血盟団」という暗殺団を結成した章についての話が印象に残りました。山澤先生は「彼らだって何か違えば、事件を起こさなかったかもしれない」と言っていました。私たち参加者の中には「どうしてそういう思考になったのか理解できない」と言っている人もいましたが、私はどんな人の行動にもなにか意図があるのだと、相手を理解しようとすることが大切だなと思いました。(野崎さん 1年)

 

◆一番印象に残っているのは、先生が本を書くときにいろいろな人の「気持ち」を重視したとおっしゃっていた点です。私が興味を持ったのは日本のテロリストたちの章でした。今のテロリストたちも、元は社会に貢献したい気持ちが大きかったのではないかと思いました。また彼らのような人々を生み出さないためには、教育が大切になると思いました。(森崎さん 2年)

 

◆いろいろなことに疑問を持つことが大切だと、繰り返しおっしゃっていたのが印象に残りました。特に贋作のことなどを聞いたとき、先入観にとらわれずに物事を見ることで新しい考えを持つことができたり、見えたりすることに気づき、面白いと感じました。(泉さん 2年)

 

 

◆オーサーの話から、どんなこと考えましたか。

 

◆身の回りのことにも目を向け、テロや戦争が行った際にただ単にこわいと思うだけでなく、なぜそれをしてしまったのかについても考えることが重要だと思いました。(古川さん 1年)

 

◆破壊したり、されてしまったりしたら、復興して前より良い世の中にしたいという考えや、後世の人々のために経験したことを残しておきたいという考えなどには、どの時代も変わりはないのだと気づき感銘を受けました。(山口さん 1年)

 

◆「破壊されて、ただ破壊以前の状態に再生するのではなくさらに良い状態にしていかなければならない」、「いろいろなことに疑問を持つことが大切」。山澤先生が話してくださった被災地の話で、「なくなったらまた作って思い出せばいい」など、これから起こる「破壊」と「再生」をどう考えればいいのか、どう対応すればいいのかがよくわかりました。(田中さん 1年)

 

◆相手を理解しようとすることの大切さを感じました。特に、血盟団事件のことを通して感じました。世界中でテロが起きたり、朝鮮など他の国から批判を受けていたりすることにも一歩引いて考え、何を目的としているのかを読み取ろうと思いました。(野崎さん 1年)

 

◆最後に「一つの事件を研究するだけでは、どのように今につながるかわからないのでは」という趣旨の質問をしたところ、「一つのことを研究することで、それが結局普遍的なことにつながるから、必ずしもそうとはいえなく、また他の学者との交流を通していろいろな刺激を受けられる」とおっしゃっていて、それが新たな発見となりました。これからは歴史と現在を結び付けて考えるのも面白いなと思いました。(森崎さん 2年)

 

◆歴史の中のある出来事に対して、その人の立場によってそれに対する考え方や捉え方が違うのは、見ていた視点が違うという当たり前のことが関係していたことに気づきました。そのうえで、どうして異なった視点から見ていたのかを、「当たり前」で済まさずに、深く考えることでさらに新しいことに気づけるのではないかと思いました。(泉さん 2年)