学問本オーサービジット(筑波大学協力)
部活動や生徒会にも活きる知見~組織づくりを政治に学ぶ
~『社会民主主義は生き残れるか 政党組織の条件』を読んで
比較政治学・近藤康史先生+法政大学第二高校5人

●オーサー 近藤康史先生
筑波大学 社会・国際学群 社会学類/人文社会科学研究科 国際公共政策専攻
●参加者 神奈川・法政大学第二高校5人
宮島昌英くん、伊藤克真くん、小池理知くん、今井祐斗くん(以上3年)、吉川怜佑くん(2年)
●実施 2018年1月27日
『社会民主主義は生き残れるか 政党組織の条件』
近藤康史(勁草書房)
最近の選挙結果を見ると、民意の受け皿として日本から社会民主主義政党は消失したように見えます。しかしヨーロッパでは、社民主義政党は今も一定の支持を受けています。この「差」はなぜ生じたのでしょうか? 本書はイギリス労働党、ドイツ社会民主党、そして日本社会党を、制度としての政党組織に焦点を当てて比較し、分岐の要因を明らかにします。
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イギリスやドイツと比較して、日本の社会主義政党の衰退を探る
◆オーサービジットではどのような講義やディスカッションがされましたか。

本書で取り上げているテーマは「社会民主主義政党」です。とはいえ、社会民主主義と言われても、日本では特に、ピンとこない人も多いでしょう。その原因は、日本では社会民主主義を掲げる政党(日本社会党・社会民主党)が、衰退してしまっているからです。では、なぜ日本では衰退してしまっているのでしょうか。本書では、イギリスの労働党やドイツの社会民主党との比較を通じて、社会民主主義政党の成功と失敗の要因を探っています。
政党が成功する一つの要素は、ある程度固定的な支持者を動員することです。社会民主主義政党の場合、この固定的な支持者というのは労働組合や活動家でした。しかしこの固定的な支持者にこだわりすぎると、失敗の要因にもなります。なぜなら、政党は常に新たな支持者を開拓していかなければ拡大することはできませんが、昔からの固定的な支持者は反発し、そのための変化を止めてしまう場合も多いからです。固定的な支持者をつなぎとめながら、新たな支持者の開拓に向け変化するような「柔らかい」組織であることが、政党にも求められるようになっています。
一言で言えば、柔らかい政党へと脱皮したのがイギリス労働党、硬いままだったのが日本社会党ということになります。柔らかい政党は、社会の変化にも形を変えながら対応することができますが、硬い政党は、強い圧力を受ければ壊れてしまいます。その違いが社会民主主義政党の生命力の差となりました。
ただし、柔らかすぎる政党にも問題点はあります。流動的な支持者を開拓するために考え方をコロコロと変えてしまうと、その政党が軸とする考え方が見えにくくなり、今度は逆に固定的な支持者が失われる可能性があります。その場合、いわゆる「風頼み」の政党になってしまうと同時に、どの政党にも声を聞いてもらえない層も生まれ、政党全般に対する不満も高まります。現在の政党には、この問題点も指摘されるようになっています。
◆先生の研究分野である、比較政治学について簡単にご説明ください。
現代の政治には様々な問題があります。そのような問題がなぜ生まれたのか(原因)を、比較という手法を用いて探り、場合によってはどのような処方箋がありうるのかについて考えるのが比較政治学です。
皆さんも、例えばテストの点が悪かったりした時に、その原因を考えるでしょう。その時、例えば「以前のテストと比べて勉強時間は多かったか少なかったか」「他の分野と比べて、得意か苦手か」などを手掛かりとして考えるのではないでしょうか。この場合、「比較」が「原因を突きとめるため」に用いられています。
比較政治学でも基本的には同じです。現代の日本にある問題があるとします。その問題の原因を比較という手段を用いて突きとめるのです。同じような問題を抱えている国と比較して、共通点を探る場合もあるでしょうし、その問題が存在しない(あるいは解決した)国と比べて、その違いにアプローチする場合もあります。また、他の国だけでなく、過去の日本と比較するという方法もあるでしょう。
このように「比べる」ことによって、日本だけを見ているだけではわからないような、日本の固有の問題や特徴を導き出すことを目指すのが、比較政治学です。もちろん、対象の中心になるのは日本だけではありません。例えば、民主化する条件を考える場合には、非民主主義国に焦点を当てます。自分の問題関心に合わせて、対象とする国や地域が決まってくるのです。
◆オーサービジットで取り上げる本から、先生の分野について、何を知ることができますか。
序章を読むことで、以下のことを知ることができればと思います。
・何を問題として設定しているか
→「日本ではなぜ社会民主主義は衰退したのか」
・そのためにどうして比較という手法をとるのか
→イギリスやドイツといった「成功例」と比較することで、成功と失敗とを分けた原因を探る
・具体的にはどのような理論や視点に基づいて比較を進めるのか
→特に政党の中でも「組織」に注目し、それを「制度」の視点から比較する
また、第1章から第4章でも、それぞれの章で「問題の所在」としてある節と「分析枠組」としてある節を読んでいただくと、上記のことがより具体的にわかると思います。

◆生徒とのディスカッションで盛り上がったのは、どんな内容ですか。
部活動や生徒会などでも、新しい試みに反発するメンバーがいたりして、なかなか柔軟に運営できないという悩みを持つ参加者がおり、政治学の観点からのアドバイスを求められました。今回のテーマであった政党の問題は、広く「組織」の問題に関わる面があります。柔軟な組織になるためにはどのようなことが必要かという点で、参考になることもあるかもしれません。
古くからのやり方にこだわるメンバーと、新たに開拓したいメンバーとの間でのジレンマに陥るのは組織の常ですが、社会民主主義政党の場合には、リーダーにどの程度の自律性を与えるか、またそのリーダーを支えるシステムをどのように作り上げるかがポイントだったというお話をしました。これがそのまま生徒会や部活動の組織に当てはめられるかは考えなければなりませんが、このように、政治学から得られる知見は、様々な活動に応用可能な面があり、それゆえに面白いのです。
組織が生き残るのは、指導力や柔軟性が必要
<学問本オーサービジットに参加して>

◆オーサーの話でどんなことが印象に残っていますか。
自由民主党や共産党などの有名な政党などは多くの人に知られていますが、日本社会党というのは現在存在しておらず、極端に言えば知られていません。そんな中、今回のイベントにより社会民主主義の考え方だけでなく、その考えを持った政党の各国の組織の年代による衰退や発展や日本との差、それを踏まえた組織としての在り方や、理想の形などを知ることができました。政治の話だけでなくこれからの自分たちに必要となる技術のアドバイスを得られました。
政党が生き残るための条件として、政党幹部の指導力や政党の柔軟性が必要であり、また、これは政党に限らず様々な組織にも共通しているというお話をしていただきましたが、これについて私たちの学校の組織(生徒会や部活動など)を例にとって解説していただいたことが印象的でした。自分たちにとっても身近な話につながりとてもわかりやすく、参考になりました。
◆オーサーの本で、とりわけ面白いと感じたこと、参考になると思ったことを教えてください。
政党に限らず、強い組織を作るにはどうすれば良いのか、組織が周りの人々に影響を最も与えられる条件は何か、その参考となる一冊です。この知識は部活や生徒会、社会に出てからも重要なものだと思います。
組織を良いものにするには、リーダーの能力がただ高いだけでは不十分です。イギリス、ドイツ、日本それぞれの社会民主主義政党が例として挙げられているこの本では、成功例・失敗例ともに比較することができ、大変参考になると思います。
◆オーサービジットを振り返って、読書やオーサーの話、ディスカッションから、どんなことを考えましたか。

若者の政治離れについてのテーマも興味深いものでした。かつて人々は自らが政治に参加する権利を求め、命を懸けて戦いました。しかし、現在では苦労して手に入れたはずの権利を行使しない人も多くいます。
これは裏返して考えれば、現状に大きな不満がない、政治のシステムを変えてまで自分の意見を通さねばならないほどの状況にはいない、ということだとも当然考えられます。
「投票は行くものだから」と半自動的にいくのではなく、自らの要求、意見を伝えるといった本来の意味についても考えるべきなのではないかと感じました。
今回のオーサービジットを通じて、強い政党組織を築くために必要な条件を知り、そこから現在の政権与党、自民党がこれだけ強い状況を作り出せた原因についても考えることができました。野党が弱いというのも要因の一つですが、自民党が強い組織体制を築き上げたというのも大きいと考えられます。自民党がどのように派閥中心の組織からトップの強い組織体制に変わったのか、ひとつの事例として調べてみたいと思います。

興味がわいたら
『現代日本の政党デモクラシー』
中北浩璽(岩波新書)
近年の日本政治の展開の中で、どのように政党が変化してきたかがよくわかります。また近年の政党の変化は、民主主義にとってどのような利点と問題点を持つのかを考えることができます。
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『分解するイギリス』
近藤康史(ちくま新書)
なぜイギリスはEU離脱に至ったのかを起点に、イギリス政治の展開を制度と政党政治の観点から論じています。ある一つの国を、政治学や比較の観点から見るとこうなるという、一つの例です。
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『わたしは、ダニエル・ブレイク』
ケン・ローチ監督
格差が広がる現代のイギリスを舞台とした映画です。政治や行政が人々の生活にいかに影響するかとともに、人間の社会的尊厳とは何かを考えさせられます。日本とも決して無縁の話ではありません。(配給元:ロングライド)
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高校生からもおススメ

吉川怜佑くん(2年)
『変身』カフカ著
「変身」という物語は一言で言えば、「絶望」から始まって、「絶望」で終わるのである。まず、主人公の家族は、自分の家に間借りさせている同居人が毒虫の存在を知ったため、気持ち悪がって出て行ってしまい、家賃収入がなくなってしまうので生活に困ることを予期する。また、主人公は虫になったために仕事を休まなければならず、収入がなくなってしまうのである。このことでさらに虫になった主人公を煙たがるという行為が加速するのである。
家族は、最初は毒虫に対して、気持ち悪いから目の前から消えてもらいたいという程度の気持ちを抱いていたと思うが、段々この世から消えてもらいたいという恨み、憎しみに近い感情をさらに抱いたのではないか。その結果、物語終盤で父親が主人公に林檎を投げ、大けがをさせるのだ。
それが致命傷となったので主人公は1ヶ月後くらいには動かなくなり、死ぬのである。死んだ後、家族はまるで喜んでいるかのようであった。安堵感と共に日常を取り戻せた喜びを噛みしめていたのである。
主人公は、どうやって人の姿に戻れるかの思案もなく、最初からほとんど絶望の中で生活し、家族にも生きることを拒絶されるという絶望の中で死んでいき、また、虫になってしまっていたということで、死を悼んでもらえることもない。
主人公の日常は小さな希望を見つけては潰されるようなそんな生活であった。つまり、この物語では、主人公に救いが全くないのである。私は救いがない話を読むのが好きなので、「変身」は好きな物語の1つである。

伊藤克真くん(3年)
『世界航空史』日本図書センター編
人は古くから大空へあこがれていました。それは信仰の対象となっていたり神話となったりと、文化と空は案外密接にかかわっています。そんな大空を人が身近に感じることができるようになったのは、わずか100年前ライト兄弟がライト・フライヤー号を飛ばしたときに始まりました。
この出来事以来、現代のスマートフォンのような勢いで各国にて開発が始められ、先進国の必須条件となっていました。この本は図鑑のような形となっていますが、この100年世界の国が各々の考えのもと生み出し、大空を羽ばたいた人間の翼が集められています。ジブリの『紅の豚』のような冒険飛行が多かった時代の、今では考えられない航空機から、悲劇を生んでしまった第二次世界大戦時の技術の粋を集めた航空機など…。航空機には先人たちの挑戦が詰まっています。

宮島昌英くん(3年)
『砂の女』安倍公房著
私たちは普段、「自分は自由だ」と信じ切って生活しています。拘束されることもない、自由な世界。しかし、自由とはそもそも何でしょうか。
主人公は昆虫採集が趣味の男性教員。ある日、砂地の昆虫を採集しに出かけ、村人の家で一晩を過ごします。彼らは砂地に穴を掘った中に家を建て、一風変わった生活を送っています。しかし、これは長きにわたる砂の中での生活の始まりでした。
この作品で描かれる世界は非常に奇妙です。しかし、ただ「変な話」として終わらせることのできない、深いテーマについて描いています。主人公は外出することができず、行動範囲を極端に制約されます。しかし、彼は外の世界、日常では自由だったのでしょうか。職場や家庭での人間関係など様々なストレス。穴の中と外の日常、どちらが「不自由」なのか。そもそもどちらが「異常」なのか。自由とは何か?正常とは何か?私たちが生きる意味とは? 最後に主人公はどんな選択をするのか、ぜひ読んで確かめてください。

小池理知くん(3年)
『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』フレッド・ピアス著 藤井留美訳
外来種と聞くと、私たちは、生態系保全とか駆除などといったことを連想する。日本で代表的な外来種といえば、アメリカザリガニやブラックバス、セイヨウタンポポなどであろうか。確かに、これらのように、在来の生態系に影響を与えた種類も存在する。
しかし、環境に悪影響を及ぼす種類はほんの一部である。むしろ、その土地の生物多様性を高めるものもいるし、人間の活動によって荒廃した土地に入り込み緑を呼び戻すものもいる。本当の意味で環境保護を考えるならば、これらの種類にも目を向けて「外来種」という言葉に対するネガティブなイメージを払拭するべきではないだろうか。
この本では、世界各地の外来種に関する実例やこれまでの環境保護活動などを数多く紹介し、これらをもとにこれからの環境保護のあるべき姿について述べられている。私自身、外来種や環境保護などに対する考えを改めるきっかけとなる本であった。

今井祐斗くん(3年)
『流星の絆』東野圭吾著
「あの時、こうしておけばよかった」。今まで生きてきてそう思ったことはありませんか。なるべくなら失敗や悔いなく生きたいと誰もが思うでしょう。しかし、人は生きている間に必ずと言っていいほど失敗も悔いも経験します。その失敗などを悔やんでいても時間は戻りません。逆にどんどん進んでしまいます。そのため私たち人間は同じ失敗を繰り返さないように気を付けて今を生きていくのです。私が生まれて18年という短い人生でも失敗したことは多くあり、そこからわかったこともあって今の自分というものができています。
この本は「過去」は変えられなくとも、それをふまえて今や将来を変えることが可能だということを改めて教えてくれます。また、父親の存在意義も考えさせられるものでもあります。ドラマ化もされたお話ではありますが、本で読んでみるとより詳細な心理状況を読み取ることができます。何かに迷った時、読んでみてはいかがでしょうか。