学問本オーサービジット(筑波大学協力)

外国語学習研究のビジュアル面に着目!外国人によるジェスチャーの習得という研究テーマは世界で2人目

木田先生インタビュー

木田剛先生 

獨協大学 外国語学部 フランス語学科

(元筑波大学 グローバル教育院 地球規模課題学位プログラム/人文社会科学研究科 文芸言語専攻)

◆先生が行ってきた研究について教えてください。

 

長年、ミクロな視点で言語行動について研究してきました。そこではことばだけでなく、間合いの取り方、顔の表情、身振り手振りなどを含めた総合的なコミュニケーションの痕跡が研究対象でした。後に、その中にマクロな視点、すなわち共同体を構成している社会、経済、文化、人種、国家などの要素が含まれていることに気付きました。とりあえず、言語と経済の関係という視点で研究しています。

 

今日のグローバル社会では多くの人びとが社会的・経済的な圧力のもとで暮らしており、言語の状況も変わりつつあります。文系と理系の知識や考え方を活用して、この世界にある見えない力学を分析することは意義があると思います。時とともに人も国も言語も変化してきたのが人類の歴史、これを私なりの方法で読み解いていきたいと考えています。

 

◆先生は、研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。

 

フランス語を学んでいた時、外国語はどのように習得されるのかという問題から出発しました。その後、建築学を専攻しましたが、素晴らしい建築物は人に語りかけるようなコミュニケーション能力があるだろうと思いながら、独学で言語学の研究書を読んでいました。後に本格的に言語学を専攻することにしたのですが、外国語の学習者の問題を考えながら、これまで勉強してきた建築学で慣れ親しんだビジュアルな側面が、外国語学習研究ではあまり扱われていないことに気付き、外国人がどのようにジェスチャーを変化させるのかという課題を研究テーマにしました。世界でこの研究をしたのは、1930年代に行われた研究に続いて私が2人目だと思います。

 

◆先生は今度どのように研究を発展させようとお考えでしょうか。

 

これまで行ってきた様々な研究を振り返ると、人間が作り出すメッセージとアイデンティティの関係であったと思います。これを具体的に捉えるために、今年からまたミクロ研究にもどって、人工知能(AI)の研究者と一緒に、音声と感情の関係を見る共同研究を行う予定です。

 

そこではコンピューターが感情を持つ音声を自律的に再生できるのかという課題に取り組みます。もしこれが可能になれば、感情を持ったコンピューターができることになり、悩んでいる人の話を聞いて慰めたり、身内を失った人びとの癒やしになったりする可能性を秘めています。とくに高齢化時代には一人きりのお年寄りが増えると予想されているので、応用される範囲は広いでしょう。

 

 

◆高校時代は、どのように学んでいたか、何に熱中していたかを教えてください。

 

高校時代はアウトドア派で、部活(テニス部)と釣り(とくにルアーフィッシング)に熱中していたと思います。英文の釣り雑誌を読んだり、自分でルアーや竿を作ったりしていた程です。

 

印象的な思い出は体育祭で全校男子生徒が一斉に演じる高校特有の体操でしょうか。一糸乱れずに体操に興じる風景は圧巻でした。

 

私の高校はいわゆる進学校でしたが、文武両道に重きを置き、また個性の強い友人がたくさんいました(フランス語を自分で勉強していた友人もいました)。

 

当時、建築の世界に興味を抱き始め、人に感動を与える空間はどういうものかということを考えていたと思います。ただ、高校生活からはあまりヒントは見つかりませんでした。書店で偶然見つけた『フランス建築事情』をいう本を読んだのを機に、海外留学を考え始めたと思います。

 

現在研究者として、また大学の教員として私が重視している、「物作り」、「空間」、「共同作業」、「外国」、「身体」、「自然」、「独創性」などのキーワードの大部分が、これらの高校の経験から生まれていると思います。

 

 

◆こちらの記事も

「#065:つくば方式模擬国連を仕掛ける言語学者」

http://www.tsukuba.ac.jp/notes/065/index.html

 

興味がわいたら

『言語からみた民族と国家』

田中克彦(岩波現代文庫)

「言語は、すでにできあがった自明の道具に過ぎず、単に使われるべくそこにあるだけの、受動的な手段だと思うにとどまる社会科学に本質的な発展はなく、また自らが社会科学として何をやっているのかを考えてもみもしない言語研究は学問ではないのである」。社会とことば(あるいは言語)の関係に関心がある人にはお勧め。

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『言葉に心の声を聞く』

阿部宏(東北大学出版会)

ことばのいろいろな側面を言語学者の視点から説明した内容。平易な文章なので、ことばの問題に関心のある人、言語学とはどういうものか知らない高校生や大学生にも勧められます。

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『視覚的思考 創造心理学の世界』

ルドルフ・アルンハイム 関計夫:訳(美術出版社)

和訳が少し古いですが、わたしが最も影響を受けた本です(私はフランス語で読みました)。受動的だと考えられがちな「見る」という行為を、能動的と捉えて、人間の生活の中で視覚が果たしている役割について、いろいろな状況を説明したもの。

 

著者は芸術理論の専門家ですが、まずはその博識に驚かされます。視覚の生理的特徴から知覚特有の機能まで説明し、それが関与する様々な現象を論じます。その中で言語や文字や記号との違いや、われわれを取り巻く抽象的なイメージや具体的な像をどのように目が知覚して、解釈するのかという視覚世界のメカニズムに関する論を展開していきます。そして、教育が視覚に果たす役割を論じています。

 

このように人間の持つ生理的な側面から見るという日常生活に光を当てて、芸術の不思議を紐解いてくれます。あたりまえの常識を見直して、基本的な知識に謙虚に立ち返り、われわれが漫然と行っている行為について論じる姿勢はいつも見習いたいと思っています。

 

人間はビジュアルな世界に囲まれて生活しています。わたしが関わる言語学ではことばを研究しますが、人びとが会話する時に、ことばだけでなくジェスチャーや顔の表情を使ってコミュニケーションしていることに気付きました。このようにことばと関連する他の表現手段を同じに分析する立場をマルチモダリティといいます。

 

言語学を始める前は建築を勉強していたことで、ビジュアルな側面に自然と関心を持ちやすい素地があったのでしょう。また、外国に暮らしていたので、外国人による言語習得の問題にも関心がありました。

 

ここから、外国人は外国語を習得するけど、果たしてジェスチャーも習得するのだろうかという、課題を見つけました。この課題に取り組んだ理由を考えてみると、アーンハイムの独創的な視点を見つけて、学問の基礎を学び直す姿勢に影響されていると思います。

 

こちらもおススメ

『ぼくを探しに』

シルヴァスタイン(講談社)

線で描かれた絵本。悲しいハッピーエンド。思い悩んだ時に生き方の1つ指針になります。

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『草の花』

福永武彦(新潮社)

「人はみな草のごとく、その光栄はみな草の花の如し」。いつかフランス語訳をしてみたい本。

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『二十四時間の情事』(『ヒロシマ・モナムール』)

マルグリット・デュラス(河出書房新社)

戦争の悲劇をお互いに理解できないフランス人女性と日本人男性が記憶と忘却の間でさまよう恋の物語。アラン・レネ監督により映画化。

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『愛と宿命の泉』

マルセル・パニョール原作(評論社)/クロード・ベリ監督

土地への固執から生まれる愛憎を南仏の風景と情緒に溶け込ませた名作。2部作で長いが、飽きない映像が美しい。

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