学問本オーサービジット(大阪大学協力) 

高校生は「規範を守り」「保守化が進行」~高校生の社会観・規範意識を明らかに

~『リスク社会を生きる若者たち』を読んで

社会学・友枝敏雄先生+岐阜県立可児高校6人 

●オーサー 友枝敏雄先生 大阪大学 未来戦略機構

 

●参加者 岐阜県立可児高校6人

永井克輝くん、柳生泰輝くん、戸谷美友さん、山田茉弥さん、山本千紗さん、櫻井幸乃さん(全員1年)

 

●実施 2018年2月1日

計量社会学(社会調査)を中心とした社会学をリードする大学・研究者

 

『リスク社会を生きる若者たち―高校生の意識調査から』

友枝敏雄(大阪大学出版会)

この本は、2001年に第1回調査を実施して以来、6年ごとに実施している高校生調査(調査票調査)のデータの計量分析の結果を、第3回調査(2013年)を中心にしてまとめたものです。この本の特色は次の2点にあるといってよいでしょう。第1は、3時点12年間のデータ分析によって、21世紀に入ってからの高校生の「規範へ同調傾向の強まり」と「保守化の進行」を明らかにしたことであり、第2は、第3回調査(2013年)で実施した「震災・原発」に関する意識の分析から、「文系の生徒より理系の生徒の方が原発支持である」「女子生徒の方が男子生徒よりも脱原発志向である」という興味深い知見が得られたことです。そして、なぜこういう知見が得られたのかについて、データ分析の結果の解釈を試みています。

 

日頃私たちが若者に対して何となく抱いている感覚を、意識調査のデータにもとづいて客観的に解明することを試みた書籍です。統計分析の手法に慣れていない人には、因子分析、重回帰分析などをわかりやすく解説した「(コラム)調査票調査を深く理解するための基礎知識」が役に立つはずです。

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グローバル化と保守化の関係についてディスカッション

◆先生が行ってきた研究について教えてください。

 

社会学理論の研究では、「人間とは何か」について、「人間と社会との関係」について考察しています。(a)人間が社会を作るのか、逆に(b)社会によって人間が作られるのか、といったことについてあれやこれや考えます。さらには、人間の社会では、なぜ規範や制度があるのか、あるいはなぜ正義が問題になるのか、といったことについて研究しています。

 

社会調査データの計量分析では、世論調査によって、どの程度正確に社会現象を捉えることができるのかといったことを考えています。これまでに行ってきたデータ分析のテーマは、社会階層と社会移動(日本社会は平等な社会なのか、それとも不平等な社会なのか)、家計の貯蓄行動(貯蓄に熱心な人はどんな人なのか)、高校生の社会観・規範意識です。高校生の社会観・規範意識に関する研究の成果の一つが、今回、可児高校で講義した『リスク社会を生きる若者たち』です。

 

◆生徒とのディスカッションで盛り上がったのは、どんな内容ですか。

 

この本の122頁に書いてある「グローバル化が進行するにもかかわらず、保守化が進行する」という命題と、「グローバル化が進行するがゆえに、保守化も進行する」という命題の、どちらがリアリティのある命題かという、この本の内容を的確に理解した上での鋭い質問がありました。まず高校1年生であるにもかかわらず、この書籍の内容を的確に理解してくれていたことに、感動しました。

 

この質問に対する私の答えは、「グローバル化によって、生活様式(食べるもの、着る物など)は似通ったものになってくるでしょう。情報化によって、スマホ・携帯が世界各地で利用されるということもすでに起こっています。ただ『自分とは何か』という問いを考えるようになると、自分のアイデンティティの根拠として、日本人であることを考える人たちが出てくるのではないでしょうか。自分の生まれ育った地域や国土を誇りに思うことはよいことですが、そのことが、人間および文化の多様性(diversity)を認めないのはよくないのではないでしょうか。言い古された言葉となりましたが、多文化共生の実現が、21世紀の日本社会の課題でしょう」というものでした。 

 

理系の人は原発支持が多く、女子生徒は脱原発志向が強い

<学問本オーサービジットに参加して>

◆オーサーの話でどのようなことが印象に残っていますか。

 

本の題名「リスク社会を生きる若者たち」の「リスク社会」という言葉がなぜ使われるようになったのかをお聞きしました。リスク社会という言葉は2000年代から使われはじめ、その背景には、終身雇用があたりまえでなくなっていること、非正規雇用の増加、少子化(人口減少)、格差社会があるということでした。どれも、ニュースなどで取り上げられている言葉ばかりで、身近にリスク社会があることを実感しました(永井克輝くん)。

 

 

日本の就職や雇用制度についてお話いただいた時に、日本人はたくさん働くのに、他国に比べて効率は変わらない、とうかがいました。長時間労働などの勤労環境に対する問題は、これから社会人として就職を目指している私たちにとって重要なことなので、どうしてたくさん働いているのに、効率が変わらないのか、など自分で調べられることは情報を集めて状況の理解に努めたいです。

 

また、若者の同調意識という話の時、先生の口から「トイレ飯」という単語を聞くことができたのは意外でしたが、若者の「周りから見た自分」を気にして自分を守ろうとする意識の高まりが、このような現象を助長していると感じました(山田茉弥さん)。

 

◆オーサービジットで取り上げられた本について、とりわけ面白いと感じたところはどこですか。

 

高校生にはぜひ読んでもらいたいと感じる本でした。自分たちと似た感覚を持った大勢のデータが集まっていて現代社会の自分たちと同世代の人たちがどういう傾向、考えを持っているのかがわかる本でした。

 

そのデータから自分と合致する点としない点を見つけ出して、今後の自分の考え方につなげていこうと思えました。社会学の中でも量的データを用いた調査から社会のこれからの傾向を読み取っていくというもので、このような本、学問に初めて触れたこともあり、新鮮な気持ちで楽しんで読み、この学問に興味を持つことができました(永井克輝くん)。

 

この本は高校生への調査をまとめたもので、一番面白かったのは、理系の人は原発に賛成の人が多く、女子生徒は脱原発志向が強いということです。このように高校生への調査なので、身近に感じやすく読みやすいと思います(柳生泰輝くん)。

 

◆オーサービジットを振り返って、読書やオーサーの話、ディスカッションから、どんなことを考えましたか。

現代の「リスク社会」に自分たちが置かれているという状況でどのような意識を持てばよいか、という質問に対して、最近の若者(大学生)は等身大の身近な話にしか興味を持たない、もっとマクロな視点を持つべきだということを話されていました。自分はマクロな視点、広い視点を持って、この不安定な時代に振り回されないようにしなければと思いました(永井克輝くん)。

 

今回のお話で高校生の同調意識の高まりについての話題が出ましたが、自分を守るために、とりあえず周りに言動を合わせるというのは、確かに私もやってしまいがちだと思いました。しかし、これは、政治や人付き合いに対しての場合で考えると消極的な態度に転じてしまうこともあるので、見直すべきだと思います(山田茉弥さん)。

 

統計をとって仮説を立てて検証することが、とても大切だとわかりました。先生の話を聞いて、自分は選挙について少しわからないところがあったので、新聞などをしっかり見て勉強していきたいです。今後は10年前と今の若者を比べている本や、これからの日本のリスクなどの本を読みたいと思いました(戸谷美友さん)。

 

興味がわいたら

『社会学のエッセンス』

友枝敏雄・竹沢尚一郎・正村俊之・坂本佳鶴恵(有斐閣)

社会学の入門書として、1996年に初版の刊行以来、20年以上売れ続けています。出版元の有斐閣の編集者の当初の予想をはるかに超えて売れ、ロングセラーの入門書です。

 

「人間とは何か」について、「人間と社会との関係」について、社会学のキーワードを紹介しながら考えていきます。キーワードを学習することによって、社会学的思考が身につきますし、人間や社会についての新しい見方を獲得できます。基礎知識なしに、どの章から読んでもよい構成になっています。社会科学という学問を知ってみたい人にお薦めです。

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『Do!ソシオロジー』

友枝敏雄・山田真茂留編(有斐閣)

21世紀の日本社会の現状がどのようなものであり、どのような方向に進んでいるのかを学ぶのに最適な書籍です。

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『集団と組織の社会学』

山田真茂留(世界思想社)

人間が社会を生きていく上で、必ず所属する集団と組織について、平明に書かれた書物です。

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