学問本オーサービジット(筑波大学協力)
日本国民は右傾化しているのか~先入観を排してデータを分析
~『徹底検証 日本の右傾化』の「第6章 有権者の『右傾化』を検証する」を読んで
日本政治論、計量政治学・投票行動論・政治過程論 竹中佳彦先生+東京・富士見高校

●オーサー 竹中佳彦先生
筑波大学 社会・国際学群 社会学類 政治学主専攻/人文社会科学研究科 国際公共政策専攻
●参加者 東京・富士見高校5人
林崎さん(2年)、倉田さん(1年)、山崎さん(1年)、三浦さん(1年)、岡さん(2年)
●実施 2018年2月13日
『徹底検証 日本の右傾化』
塚田穂高 編著(筑摩書房)
日本の右傾化が進んでいると言われて久しい。実際、ヘイトスピーチや改憲潮流、日本会議など、それを示す事例には事欠かない。ならば日本社会は、全般的に右傾化が進んでいるのか?本書ではその全体像を明らかにすべく、ジャーナリストから研究者まで第一級の書き手が結集。「社会」「政治と市民」「国家と教育」「家族と女性」「言論と報道」「宗教」の六分野において、それぞれ実態を明らかにしていく。いま、もっとも包括的にして最良の「右傾化」研究の書である。
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◆オーサービジットで取り上げる本から、先生の分野について、何を知ることができますか。
2012年12月の第2次安倍内閣登場以来、国内外に「日本は“右傾化”している」と論じる人がいます。しかし1990年代以降、「イデオロギー対立の時代は終わった」と言われてきました。はたして日本の国民は、「右傾化」しているのでしょうか、それとも「脱イデオロギー化」しているのでしょうか。
考えておいていただきたいのは、(1)安倍内閣の政策が「右寄り」であるとしたら、それを支持する日本の有権者も「右傾化」しているのかどうか、(2)もし日本の有権者が「右傾化」しているとしていたら、なぜそう思うのか、(3)もし日本の有権者が「右傾化」していないとしたら、なぜ安倍内閣は支持されているのか、といった点です。
オーサービジットで取り上げる本は、全体として、日本は「右傾化」しているという立場の論者によって書かれています。しかし同書を通して読んでいただくと、同書の執筆者は、「右傾化」について共通する認識をもっているわけではありません。いったい何をもって「右傾化」していると言うのでしょうか。ある基準に従えば「右傾化」していると言えるかもしれませんし、別の基準でみると「右傾化」とは言えないかもしれません。みんなが言っているから「右傾化」していると言うのではなく、自分で「右傾化」と呼ばれている「事実」を分析し、それに基づいて考察するという姿勢が必要だと思います。
世間でいわれていることを、まったく無視していいとはいいませんが、いったんは疑ってかかることが学問にとって大事なことです。そして概念を明確にし、先入観や予断を排して事実やデータを分析してみることが不可欠であろうと思います。
◆先生の研究分野である、「日本政治論(政治意識・投票行動)」について簡単にご説明ください。
選挙権年齢が18歳に引き下げられましたが、近いうちに選挙が行われるとしたら、皆さんは、何を基準にして投票する政党や候補者を決めるでしょうか。政党でしょうか。政治家個人でしょうか。それとも政策でしょうか。その政策がどんなものかどうやって調べますか。いくらインターネットがあるといっても、自分で調べるのにはすごく時間と手間がかかるでしょう。現実には、そんなに時間や手間をかけずに多くの人が投票しています。なぜ投票できるのでしょうか。
投票行動研究は、選挙で有権者が何を基準にして投票しているかを分析する政治学の領域です。政治意識論は、有権者がどのように政治を捉えているのかを分析するものです。
私は、自分の研究分野を「政治学・日本政治論」と説明しています。日本政治史・日本政治思想史に属する研究と、現代日本の政治、とりわけ有権者のイデオロギーや政治意識、投票行動の研究を行ってきたので、それらを一つに包含するためです。オーサービジットで取り上げる本は、後者ということになります。
政治意識や投票行動の研究は、政治学のなかの政治過程論のなかに位置づけられています。政治過程とは、国民が政治に対して自分たちの利益を表明し、それらを政党や圧力団体が政策案として集約し、政治家や官僚などが中心となって政策を決定し、執行されていく一連の流れを指しています。
筑波大学名誉教授の中村紀一先生から伺った表現を借り、政治家や官僚が政策を決定する過程を、自動販売機に見立てますと、私たち有権者は、自動販売機で何が起こっているのか、外からはよくわかりません。しかし私たちが、何らかのボタンを押さないと、商品(=政策)は出てきません。
とくに民主主義社会で、国民の政治意識やイデオロギーが政策決定過程や政策の内容に重要な意味を持つことは容易に理解されるでしょう。
若者たちは政治に無関心。政策をよくわからないまま投票行動
<学問本オーサービジットに参加して>
◆オーサーの話でどのようなことが印象に残っていますか。
「私たちは、日々、より満足を得るため合理的に消費する人間である」という、経済の面があることは知っていました。しかし、それが政治にもあてはまり、「政治市場」と呼ばれていることを初めて知り、より身近に政治を感じることができました。またイデオロギーそのものを、近年、20代や30代の人たちは理解していなかったり、政党の名前だけで、革新や保守を判断してしまう傾向があることは、とても興味がわきました(林崎さん)。
日本人が右傾化しているかどうかについて話しているときに、年齢ごとの政党のイデオロギーの位置づけのグラフを見ました。若者は年配者に比べて、政党のイデオロギーを理解できていなかったのが、若者の政治への関心の低さが感じられて面白かったです(山崎さん)。
「どういう基準で投票するのか」について、政党(同じ方針を持った人ではなく、共通の目的をもった人々の連合)、政策、個人など、結局は自己利益追求のためとわかり面白かったです(三浦さん)。

◆オーサービジットで取り上げられた本について、とりわけ面白いと感じたところはどこですか。
竹中先生は、日本人が右傾化しているかどうかについて数値を使って説明しています。現在の安倍政権は保守化していますが、有権者は安倍政権の保守的な姿勢を支援しているのか、日本人が右傾化しているのかを、様々なポイントで示しています(山崎さん)。
安倍政権は右傾化の政策をしていますが、有権者が必ずしも右傾化しているとは限りません。竹中先生は、若者たちが政策をよくわからないまま投票行動をしていたり、右左・保守革新もわかっていなかったりといった調査結果を出して、検証しています(三浦さん)。
◆オーサービジットを振り返って、読書やオーサーの話、ディスカッションから、どんなことを考えましたか。
安倍首相の右寄りの考えを、必ずしも安倍首相に好感情を抱いている人が賛成しているわけではないことがわかりました。安倍首相が、金融政策(アベノミクス)に賛成している人のやわらかい支持を得ていることから、有権者が右傾化していると主張するのは、必ずしも正しいことではないと考えました。また、60代、70代の人々よりも、20代、30代の人々の政治への興味が圧倒的に低いことが、少子高齢化を加速させ、社会保障の手厚い政策を掲げる政党が多いことにつながっているのではないかと考えました(林崎さん)。
若者の政治への無関心さが、グラフによって数値化され、表されていました。ディスカッションの中でも、なぜか若者が政治に関心をもたないのかについても話し合いましたが、今後日本を先導するのは若者だからこそ、もっと日本人が政治に興味を持つようになればいいなと考えました(山崎さん)。
今回の話で、自分が選挙権も持った時にどの政党に投票するのかなど、改めて不安になりました。選挙のことを学校では深く習えない(なぜなら、先生の意見などを間接的に伝えてはいけないから)ので、やっぱり自分で調べたり、ニュースを見たり、いろいろ肌で感じていくべきだと思いました(倉田さん)。

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