ヒューマンコミュニケーション基礎<情報工学>

共感すれば情報が伝わる。ライフログから似た経験を引き出し、「要は何?」を説明する技術

望月理香先生 日本電信電話株式会社 サービスエボリューション研究所

 

友だち同士だとわかりあえても、お父さんに「これって、要は○○のこと」と、説明したい時、どうすりゃいいかな。文化も違う外国人相手の場合は、どうする?相手の体験した状況に置き換えて、わかりやすく説明してくれる情報提示技術を開発したのが、望月理香先生。そのポイントは、ライフログを活用する方法でした――。

研究のきっかけは、その人の体験や状況に応じて「これって要するに」と簡単に説明してくれたらいいなあということでした。

 

例えば、自分では高くて買えないようなワインをはじめて見て「このワインって要は何?」って、尋ねたら、「昨日君と飲んだ○○ってワインのようだよ」と知っているものに例えて説明してもらえればわかりやすい。ものだけじゃなく、気持ちや感覚も例えてもらえると、すごくわかりやすいです。

年代・文化の違うお父さん、外国人に説明したい場合はどうでしょう。これって、なかなか大変です。でも、相手が実際に経験したことに置き換えてあげられると、相手の共感を得られやすい。そうすれば情報が伝わります。また、相手にとってわかりやすい表現を作ることができます。

そこで、私が着目したのが、ライフログを活用することでした。

 

ライフログとは、日々の活動や見たこと、思ったことを、文字や映像、音声などのデジタルデータとして記録すること。ブログやSNSもライフログですね。

 

どうやって作ったかといえば、最初にライフログを貯めます。次に、ライフログ上にある経験を、出来事の珍しさ、場所の馴染み度、一緒にいた人の親密度など、いろいろな観点でパラメータ化していきます。そして、自分と相手の経験をマッチングさせていきます。自分が伝えたいものが相手の経験のどこに位置づけられるかがポイントです。

実際に、GPS、スケジュールデータ、購買歴等プライベートなライフログを、のべ11名、約5年間分のライフログを集め、貯めたデータを全部数値化し、同じような経験を提示する試作版を作ってみました。

 

おおよそ同じような経験を見せると、同じような感情や感覚が伝わることが確認できました。外国人には、あなたの国の食べ物に例えるとこういうものだよと、例えて説明してあげるとよく理解してもらえました。 

でもまだ課題もあります。ライフログのバリエーションが少ない人はうまくいかないようです。置き換わる経験が出てこないので、表現が乏しいんですね。

いろいろな種類のライフログがある人は、その人自身のいろいろな経験が出てくるので、いろんな人とコミュニケーションが取れる。自分自身も楽しいですし、自分にとっての表現も豊かになるということがわかってきました。

 

結論―ライフログの豊かなユーザは、表現も豊かに!自分のライフログを自分自身のために活用して、コミュニケーションに役立ててみませんか。

 

司会者・落合陽一先生×竹川佳成先生の一言

 

竹川先生――自分の体験した状況に置き換えて説明してくれるのって、スーと入っていけますね。

落合先生――要は何?って、わかりやすい問いかけですよね。ポイントは経験に基づいていること。デジタル機器などのエクスペリエンスデザインが着目されるようになって、数年経ちますけど、そうした体験を機械学習ベースでやっていくと、我々は機械だったのか、人間は何を体験しているのか、そして生み出してきたものが人格とどうか関わっているのか、けっこう気になってきますね。

 

興味がわいたら

『ライフログのすすめ ―人生の「すべて」をデジタルに記録する!』 ゴードン・ベル、ジム・ゲメル 訳:飯泉恵美子(ハヤカワ新書juice)

ライフログの基本概念と可能性、実践方法などが書かれています。著者はライフログの分野を切り開いた人です。

 

ライフログに興味を持った方やこれからライフログ関連の勉強を始めたい方はまず読んでいただくと、ライフログとは何かを理解できます。筆者自身がログを貯めた試行錯誤の体験談や、ライフログで世界がどう変わるか、そして、なにより筆者の実体験に基づく内容はとても面白く、参考になります。

 

ライフログの収集や分析に必要な手法に着目すると、何を勉強するべきかもわかります。例えば、いつどこに行ったかという位置情報や歩いた速度等の情報を集めたいと思ったら生体センサについて知る必要が、集めたデータから自分の歩き方の特徴や買い物の趣味嗜好を分析したいと思ったら、統計学を勉強する必要がある、といったようにです。

 

著者曰く、「人の記憶力には限界がある。だが、あなたの見聞きしたもの、触れたもの、そして普段は気にかけない自分の位置情報や生体情報まで、人生の『すべて』をデジタルに記憶させれば、いつでも簡単に検索して取り出すことができる」。

 

筆者のライフログ収集実体験をぜひ読んでみてください。

[出版社のサイトへ]

『図解でわかる等価変換理論 ―技術開発に役立つ70のポイント』 等価変換創造学会(日刊工業新聞社)

世の中にも実は類似性に基づく技術がたくさんあります。それらの事例をわかりやすく解説しています。技術のアイデアってどうやって生まれるのと思った方にお勧めです。

[出版社のサイトへ] 

『デジタル・メタファー ─ ことばはコンピューターとどのように向きあってきたか』

荒川洋平(東京外国語大学出版会)

比喩やたとえによる説明といった言語学分野に興味がある方は、荒川先生の解説は大変わかりやすいのでぜひ一読ください。

[出版社のサイトへ]

『デザインあ』

NHK Eテレで放送。子ども向けのデザイン的思考を育てる番組ですが、大人が見ても興味深いです。デジタルアート、物理現象など面白い作品の背景に実は技術要素が隠れている点が面白いです。また、『テクネ』(NHK Eテレ)もおススメ。こちらの方がより大人向けです。

NTTインターコミュニケーション・センター(略称:ICC)

http://www.ntticc.or.jp/ja/

NTT東日本が運営する、初台のオペラシティにある無料でアーティストやサイエンティストの作品を見ることができる施設。最先端の技術的なアート作品・活動を知るのにおススメです。

望月先生インタビュー

「こんな時、こんなことができたら良いのに」がアイデアの泉

望月理香先生 インタビュー

日本電信電話株式会社 サービスエボリューション研究所

ヒューマンコミュニケーション基礎でリードする大学・研究者

※情報処理学会第78回大会 IPSJ-ONE講演より

<慶應義塾大学日吉キャンパス協生館藤原洋記念ホールにて>

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⇒先生のプレゼンが見られます(IPSJ-ONEのページへ)

http://ipsj-one.org/2016/videos/11_mochizuki_fs.mp4

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