化学生態学/生理活性物質化学、昆虫科学 

果樹園を守れ!昆虫のプロポーズ大作戦を知って害虫駆除

西田律夫先生 京都大学 名誉教授(元農学部応用生命科学科)

第2回 ミカンの葉っぱから、アゲハチョウの産卵を掻き立てる特有の味覚成分のブレンドを発見!

私は子どものころから昆虫少年でした。高校では生物部で病みつきになったまま、いまもなお昆虫を追いかけています。

 

これは温州みかんです。ミカンの葉はアゲハチョウの幼虫がむしゃむしゃ食べます。

葉は光合成をするので、これを食べられるとミカンの収穫量が落ちてしまいます。アゲハチョウの幼虫はサンショウの葉も食べます。なぜかというと、サンショウはミカン科なのです。こういうふうに昆虫は自分の食べる植物の種類が決まっています。例えばキアゲハはニンジンの葉を、アオスジアゲハはクスノキをという具合に。なぜか自分に適した種類の植物の葉を上手に探し当てる。不思議ですね。超能力と言っていいのかもしれません。

 

さて、アゲハチョウはミカンの葉を食べ、ミカンに害を与えます。これを何とか防ぎたいと思った私たちは、ミカンの葉っぱの抽出液をろ紙に染み込ませ、アゲハチョウのメスに見せました。メスはすぐにおなかを曲げて卵を産みました。最初私たちは、アゲハチョウのメスの産卵を掻き立てるのは、ミカン特有の匂いなんじゃないかと考えました。アゲハチョウは触角で匂いを感じることがわかっていたので、触角をちょん切りました、かわいそうだけど。しかし卵を産み続けました。

 

次に私たちはアゲハチョウをじっと観察しました。すると必ず卵を産む前に、前足でポンポンと、ミカンの葉を叩くことがわかりました。すごく速いスピードで音が聞こえるほど強くたたきます。拡大鏡で覗いてみると、前足に歯ブラシ状の毛が生えていました。どうやらこの歯ブラシの毛でミカンの葉の成分を認識しているらしい。

そこまでわかったので、今度はいよいよミカンの葉の抽出エキスを化学分析してみました。すると、エキスの中に含まれる産卵刺激物質は、10種類にブレンドされた化合物が集まって、はじめてこれがミカンの葉っぱの情報になるのだということがわかりました。個々の化合物だけでは活性はなく、10種類すべてを混合したときに、ミカンの葉のエキスと同等の強い活性を示すことを発見したわけです。アゲハチョウのメスは「ブレンドの味」を足で感じていたのです。

 

私たちは今、ブレンドエキスを造花の葉に染み込ませてミカン畑に置き、アゲハチョウを誘うことができるか実験をしています。まだなかなかうまくいきません。造花の葉ではダメで、やはりミカン葉特有の微かな匂いはもちろん、自然の葉の艶やかさ、しなやかさもひょっとしたら重要なのかも。自然はそれくらい精妙です。

 

興味がわいたら!

『化学』2016年3月号(化学同人)

化学に関する月刊誌で、最新トピックスが満載。3月号の巻頭は西田先生の記事「生物たちの言葉を化学で解き明かそう!─ケミカルエコロジーの世界への誘い」。幼いころ、アゲハチョウがなぜミカン科の葉だけを食べるか不思議に思いこの分野に進んだ話や、東南アジアの果樹の害虫を追ってジャングルへ向かった話なども興味深い。

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『サイボーグ昆虫、フェロモンを追う』

神崎亮平(岩波科学ライブラリー)

オスのカイコガ(絹を作る蚕の成虫)は、数キロ離れた所から漂うフェロモンの匂いを頼りにメスを見つけ出す。米粒ほどの小さな脳でありながら、優れたセンサと巧みな行動戦略をするのが昆虫脳。そのひとつひとつのニューロンをコンピュータ上にモデル化し、シミュレーションすることで明らかする。

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『共進化の謎に迫る―化学の目で見る生態系』

西田律夫、山岡亮平、高林純示(平凡社)

黒澤映画に登場したアリの行列、会話する植物、グルメなアゲハチョウの話など、観察と実験から昆虫と植物を結ぶ目に見えない情報ネットワークを解き明かす化学の試み。西田先生は、このなかで、アゲハチョウの食草の謎を執筆。

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※出版元に在庫無し

『植物を守る 生物資源から考える21世紀の農学第3巻』

佐久間正幸:編(京都大学学術出版会)

害虫や雑草の駆除は、農薬ではなく、「生物学」による防除の時代に。西田先生は、「第3章 昆虫と植物 —攻防と共存の歴史—」を執筆。

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『昆虫はすごい』

丸山宗利(光文社新書)

恋愛、戦争、奴隷、共生…、人間がやっている行動は、ほとんど昆虫が先にやっている。特に面白いのは繁殖行動。相手と出会うためあの手この手を使い、贈り物、同性愛、貞操帯、子殺し、クローン増殖と何でもアリ。養老孟司氏推薦。気鋭の昆虫学者が紹介する虫の世界。続編『昆虫はもっとすごい』も。

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『植物の不思議な生き方』

稲垣栄洋(朝日文庫)

自ら動けない植物は、子孫を残すために、昆虫と駆け引きし、動物も利用する。植物のちょっとグロテスクな生態のほか、春になると黄色い花が咲く理由、甘いスイカの狙いなど、植物学の研究が明らかにした植物の生存戦略が楽しい。

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『ファーブル昆虫記』

奥本大三郎(NHK出版)

著者はフランス文学者にして、『ジュニア版ファーブル昆虫記』を翻訳した、ファーブル昆虫館の館長。古今東西の名著の魅力を、25分×4回の100分で解説する番組の人気テキストで、膨大なファーブル昆虫記の要点が学べる。

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西田先生おススメ 中高生に読んでほしい本

『昨日今日いつかくる明日~読切り「エネルギー・環境」~』

村上信明(現代図書)

著者は、長崎総合科学大学で新エネルギー、バイオマスを研究。これからの地球のこと、人類のこと、問題提起されたエネルギー・食料・環境などを考えながら、いろいろな発展的学習ができる。

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