化学生態学/生理活性物質化学、昆虫科学

西田律夫先生インタビュー

京都大学 名誉教授(元農学部応用生命科学科) 

 

◆先生の研究を教えてください。

 

植物・動物・微生物―それぞれの生物は他の生物とのあいだで何らかの影響を与え/受けながら生存しています。こうした生物と生物をつなぐ目に見えない糸を化学の言葉で解き明かしていくのが「化学生態学」です。仲間同士の交信は化学記号の言葉“フェロモン”、草食者を寄せつけない植物の毒素と、それに対抗する“食う側”のメカニズム、送粉者を誘う色とりどりの花の色素・香・蜜。人間の役に立つ抗生物質も微生物同士のせめぎあいの中で発達してきた化学因子。私たちの研究分野では、無限に広がる生態系ネットワークの界面で繰り広げられるミクロな化学の世界を覗き込み、生物の営みを理解し、それを害虫防除や自然保全のために活かすことを目指しています。

 

私は、この中で、とくに昆虫と植物の関わり合いを仲立ちする化学的要因について研究しています。

 

 

◆生み出された成果は、社会的にどのように貢献できると思われますか。

 

昆虫の行動や体内生理を化学・生化学観点から理解し、作物害虫を防除する新たな素材を提供することを目標としています。また、自然生態系の成り立ちを「化学の目」で理解することにより、自然環境の保全に貢献しようと考えています。 

 

◆先生は、研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。

 

子供の頃から「アゲハチョウはどうしてミカンの葉に卵を産むのだろうか?」という疑問を抱いてきました。大学の農芸科学科(現在の応用生命科学など)で有機化学の基礎を学び、具体的に取り組むことで、解き明かすことができました。

 

『化学』2016年3月号にも、上記に関する記事が掲載されています。そちらもどうぞ。

 

私は昆虫が好きで、ワクワクしながら観察をしているうちに、意外にもまだ誰も知らなかったようなことを見つけることができたのです。そのことが作物を害虫から守ることにつながるなど、これからの農業や自然保護へのヒントとなることがいくつもわかってきました。植物を育てたり虫を飼ったり、顕微鏡で覗き込んだりと、どんな小さなことでも、自分の目で見ることが大切だと思います。

 

 

◆高校生が、授業や課外活動等で、先生のテーマや学問領域に関する研究をするとして、高校生でも問えるような課題を挙げていただけますか。

 

家から飛び出して、野外に出てみよう! 空・雲・木々・草々・虫々・土・目に見えない微生物…。この「奇跡の惑星」地球にはまだまだわからない不思議なことがいっぱい。ちょっと散歩をすれば毎日きっと何かを感じ、何かを見つけられます(タブレットの中には、ないよ)。これを“日常化”すれば、感性を育み、思考は軌道を越えて広く深く発展すると思いますよ。

 

 

◆先生が指導されている学生の研究テーマ・卒論テーマ、大学院生の研究テーマを教えてください

 

まず、自分でやってみたいテーマはある?と聞いた上で:

 ・チョウはどのように食草を探り当てるか

(食草に含まれる産卵刺激物質、幼虫の摂食刺激因子の探究)

 ・昆虫はどのように異性を見つけるか

(性フェロモンの構造解明、化学合成、応用)

 ・昆虫の化学センサーの謎に迫る

(嗅覚・味覚:何をどこで、どうやって感じるのか?)

 ・花粉媒介を介した昆虫と植物の「共進化」の謎に迫る

(花香・花蜜・花色の化学)

 ・ゴキブリのたどった道を探る

(3億年前から地球の先住民、天変地異の中、どうして生き延びてこられたのか?どうしてその一部が家屋害虫化したのか?その訳をゴキブリに教えてもらう)

 

 

◆先生のゼミや研究室の卒業生は、どんな仕事をされていますか。

 

・農業資材に関わる会社の製造/開発部門

・製薬・食品・香料関連会社(化学分析・合成技術を生かす)

・大学教員

 

昆虫のフェロモンなど微量生理活性成分を化学分析したり、化学合成したりする手法を修得することは、医薬・農薬などの開発や香料・食品分析にもとても役立つので、化学・食品分野への就職者が多い。また、生物を扱うことができ、やりがいとして実体験しているので、境界領域(活性物質の生物への評価・応用など)での活躍も期待されています。

 

 

◆先生は、高校時代は、どのように学んでいましたか。何に熱中していましたか。

 

1年時は虫取りに熱中していて(生物部)、実力テストの成績があまりふるいませんでした。2年生のころ、計算ばかりで大嫌いだった「化学」が炎色反応や沈殿反応を実体験して大好きになりました。3年生では、ちょっと大学生の有機化学の教科書も覗いてみたりして、化学だけは上から3番になったことが嬉しかったでしたね。大学では昆虫と化学を勉強しようと思ってがんばりました。

 

 

◆化学生態学が学べる研究室

京都大学農学部化学生態学研究室ホームページ

 

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