ユビキタスコンピューティング、行動認識<情報学>
コンピュータに気持ちよく操られて、楽しく課題解決できる社会へ ~ユビキタスコンピューティングで行動が変わる
荒川豊先生 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科

人間の行動をセンシングしたり推定したりする研究が盛んになりました。それを利用して、適切なサービスが提供される便利な社会になったけど、でもこの先、どうなるの?なんでもわかっちゃう社会って、ちょっと怖いかな。しかし情報技術によって人間の行動が変化させられるって時代になってきたのは確かです。そう、コンピュータに気持ちよく操られる社会に向けて、荒川先生はポジティブな想像力を働かせてくれました。
「コンピュータに気持ちよく操られる社会に向けて」という話をします。実は我々とコンピュータ・情報との関係はだんだん変わってきています。例えば、腕時計型のコンピュータ、アップルウォッチは去年から僕に「立て」と命じます(笑い)。座ってばかりだと健康に良くないからだというのです。

僕のテーマは、行動の変化によって、社会を変える。そのために、どういう情報を使えばどう行動が変わるか。それを楽しくやって、楽しく社会の問題を解決したいと思っています。
例えば、僕の住んでいる奈良県生駒市では今、プールの無料開放をしています。するとラッキーと思って泳ぎに行く人が増える。すると、家庭の電力消費が落ち、節電になるんです。

海外の社会実験の例を紹介しましょう。スウェーデンでピアノの鍵盤の絵のある、楽しい階段を作ったら、エスカレータより階段を上る利用者が増えたんですね。
2つ目は、スピード違反の事例です。罰金を取るんじゃなく、スピードを守れば家に宝くじが届くやり方をしたら、スピード違反が減ったんです。このようにFUNなことを入れると、人間の行動は変わるのです。

我々は情報の力によって、実は動かされていると思いませんか。IngressやポケモンGOといった位置ゲームでは、仮想空間の情報に釣られて、実際に外を歩きまわっていますよね。でもこれが社会貢献になるかも。人が動くことで、街おこしになるかもしれません。
最近、僕は乗り捨て可能なカーシェアシステム一式を研究設備として買いました。スマホだけで共同使用のEVカーに乗れるようになっています。駅前に乗り捨てすることもできるのですが、便利な半面、問題も起きます。大学から車に乗りたいのに、車は駅前に止まっている。その問題を情報の力で楽しく解決できないか、と考えています。現在、センサ技術のすごい進歩で、人の行動を予測できるようになっています。そのため、ちょうど大学に向かっている人に「今日は車で大学に行きませんか?」とメッセージを送ることができます。奈良先端大は山奥で駅から30分歩かないといけません。バスも1時間に1本程度です。そんなときに、メールが来たら、普段歩いている人は、ラッキーと思って車に乗って大学に向かってくれるかもしれません。そして、そのハッピーは次の利用者のハッピーへと繋がります。センサとメッセージをうまく使い人の行動を変えることができたら、楽しく社会を円滑に回せる可能性があります。情報技術に気持ちよく操られて回る社会と言えます。

僕の研究テーマは、センサと行動認識です。

3年前にセンサだらけの家を作り、100個くらいのセンサに囲まれた家に暮らしています。歯ブラシや箸にも超小型センサを入れて実験しています。ただしそれだけでは豊かな社会は作れません。みなさんの持つ情報のあらゆる力を借りて、コンピュータに気持ちよく操られる社会を作っていきたいと思っています。自治体とも連携していきたいですね。

興味がわいたら
シンギュラリティ―限界突破を目指した最先端研究―
NAIST‐IS書籍出版委員会(近代科学社)
奈良先端科学技術大学院大学の情報科学分野の50名超の研究者により、情報科学分野の最先端研究が網羅的かつ簡単に紹介されています。
ドラえもん
ドラえもんの道具は、まさにユビキタス社会と関連するものが多いです。そういった道具を現代技術でどうやって作るのかを考えることが重要です。