読書案内〜将来の仕事選びのヒントとなる本

無計画に進む学びを大事にしよう!

 

自らを重んじ、自らを恃(たの)み、泥臭く力強く学ぼう。そこから高校卒業後も見えてくる。そして読書こそ、創造的な学びに出逢わせてくれるだろう。そんな数々の本。

 

まずはNHKの『プロフェッショナル〜仕事の流儀』のパーソナリティであった脳科学者茂木健一郎さんが、自らがパーソナリティをつとめたNHKの『プロフェッショナル〜仕事の流儀』で、学んだことを、日経ビジネスオンライン副編集長の渡辺和博さんにインタビューで語り下ろした本の言葉からです。

(このBOOKGUIDEは神奈川県立多摩高校の石原徳子先生のご協力で作成しました)

 

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『プロフェッショナルたちの脳活用法』(NHK生活人新書)
『プロフェッショナルたちの脳活用法』(NHK生活人新書)

“本気”の学びはどこからくるのか

 

自発性、主体性をいかに担保するかが「学び」の根底にある。

 

脳科学の観点からは「計画性」は「学び」から最も遠くに位置しているものです。体系とは人類の歴史の中でいろいろな人のサプライズを積み重ねて、あとから整理されて出来たもの。だからある意味では“既に死んでいるもの”とも言えるわけです。

 

学校で多くの子供たちが「勉強はつまらない」と感じているのは、ひょっとしたらすべてが整理された後の、いわば死んだ体系になっているものから学ぼうとするからではないか。

 

近代の脳科学の最大の前進の1つは、「創造性」は学びと非常に近いということが分かってきたことです。ですから、人間の学習能力を最大限に生かすためには、理想的には何かを生み出すかのように学ぶことが大切です。創造に近い学びをやろうとすると、当然「計画性」からは外れてきます。

 

実際に我々の社会の中での学びというのは、もっと無計画に進む。今日出会った人の言葉に対して、何を感じ何を考えるかといった単純なことから、仕事上のことまで、体系性から離れたところで学びが進んでいく。

 

カリキュラムがあって、体系性が得られるのは悪いことではないのだけれど、もっと無計画にしか進まない「学び」というものを大事にしていかなければならない。

 

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あなたの「創造的な学び」を導いてくれるものの一つが、読書です。ここに挙がっていないものでも構いません。何か一冊、「仕事」について考えられそうな本を読んで、一つでも良いので、心に残ったことばを書き留めておいてください。

 

I まずは、いろいろな仕事を知りたい人へ

 

この2冊はいろいろな仕事をしている人にインタビューをして紹介している本です。特に(2)の本を書いた西村さんは、「働き方研究家」を名乗っている人で、このテの本をたくさん書いていらっしゃいます。私はこの本が一番好きなので、紹介しました。

(1)『プロフェッショナルたちの脳活用法』

茂木健一郎・NHK「プロフェッショナル」取材班(NHK生活人新書)

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(2)『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』

西村佳哲・ with 奈良県立図書情報館 (弘文堂)

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II 仕事への「熱」を感じてみたい人に

 

そして、(2)の本に紹介されていて気になった人が、次の本の著者、三島さん。勢い余って会いに行ったりしてしまいました。

 

(3)『計画と無計画のあいだ: 「自由が丘のほがらかな出版社」の話』

三島邦弘(河出文庫)

特に出版業界にあこがれを持っている人は、ぜひ読んでみてください。

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(4)『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。 東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦』

出雲充(ダイヤモンド社)

ミドリムシの可能性と、困難に満ちた起業のエピソードを読むにつれ、大興奮すること間違いなし。著者が高校時代から抱いていた問題意識からスタートした物語です。

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(5)『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』

佐々涼子(早川書房)

紙の本は好きですか? その紙が、どこでどんなふうに作られているか、考えたことがありますか? 8号機が止まる時は、日本の出版が止まる時。津波に襲われた石巻工場の、半年での再生は可能なのか。

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III イメージを共有すること、よく「伝える」ことについて

 

生きていくには、絶対に「他者」が必要です。自分の思ったこと、やりたいことを伝えるためには、何が必要?今活躍しているデザイナーの著書です。「伝えるための思考」を考えてみたい人におすすめ。

 

(6)『佐藤可士和の超整理術』

佐藤可士和(日経ビジネス人文庫)

多分、あなたも目にしたことがある、佐藤可士和さんのデザイン。新国立美術館のロゴを考えた話が印象に残っています。

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(7)『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』

寄藤文平(美術出版社

JTや東京メトロなどの広告を手掛けていらっしゃるので、こちらの作品も、きっと目にしたことがあるでしょう。『千利休 無言の前衛』という本のカバーデザインを何通りも考えているシミュレーション、おもしろいです。国語の授業でもやってみたい~。

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IV 身近なことにもドラマがある!!

 

レストランの世界にも、パン屋さんの世界にも、信念を持って働いている人がいますよ!こういう本を読むと、心を込めて作られたモノが、少々高いのは当たり前だと思うようになりました。丁寧な仕事を、買い支えていかなければならない。フェアトレードとかも、そういう発想ですね。

 

(8)『調理場という戦場 「コート・ドール」斉須政雄の仕事論』

斉須政雄(幻冬舎文庫)

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(9)『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』

渡邉格(講談社)

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V その他、自分にできることを考えてみよう

 

(10)『人を助けるすんごい仕組み ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか 』

西條剛央(ダイヤモンド社)

この本、本当に「すんごい」です。3.11の時に、どんなふうにして避難所に効率よく物資を届けるか。SNSを駆使して、多くの人を巻き込んで、ボランティア組織を作ったことが語られています。情報社会に秘められた「可能性」を強く感じました。出版社のサイトへ

 

(11)『ソーシャルトラベル 旅ときどき社会貢献。』

本間勇輝、本間美和(発行:ユーキャン 学び出版 発売:自由国民社

「ヒゲとボイン」の新婚夫婦が、ちょっとした「いいこと」をしながら、世界中を旅した記録です。働くって、「ありがとう」って言ってもらいたいところから始まってるんだなって、改めて感じさせられます。ブログによるとこの二人、今も活躍中のようです。

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(12)『しあわせな仕事の見つけ方、つくり方 ~共感・応援の時代の仕事道~』

久米信行編(ワニブックス)

商売には、「思わず応援したく何か」があることが必要であり、その基本に「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしが存在していると説き、その具体例として、筆者が感動した人々のお話がかかれている。どれも、基本的なスタンスとしての情熱があり、そこに応援してくれるチャンスを掴む積極性があるお話である。(Amazon星出光俊さんのレビューより)

 

子供がいないのに、病児保育のシステムを作った人。テレビのプロデューサーから、地方の公立図書館の館長に転職した人。泥団子の中に植物の種を入れて、その泥団子を「播く」ことで砂漠化を食い止めようとする人。アイデアと行動力、そして熱い思いのある人がたくさん紹介されています。

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VI〈番外編〉

(13)『働きマン』

安野モヨコ(講談社モーニング コミック

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(14)『宇宙兄弟』

小山宙哉(講談社モーニング コミック)

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(15)『グラミン銀行を知っていますか 貧困女性の開発と自立支援』

坪井ひろみ(東洋経済新報社)

貧困層に少額の融資をして自立支援し、社会貢献だけでなくビジネスとしても成立している「グラミン銀行」。詳しく知りたいなと思って検索してみたら、これが読みやすいかもと思いました。

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(16)『「最高の授業」を、 世界の果てまで届けよう』

税所篤快(飛鳥新社)

『グラミン銀行を知っていますか』を読んで、自分にできることを考えた学生さん(早稲田の教育学部)が著者。東大やユニクロなどから、融資を受けているようです。

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「自分に何ができるか」を考えたら、連想するのはどうしても東北。今日帰宅したらすぐ買います!(みなさんにこのお便りが届くころには、もう読了しているはず・・・)

(17)『東北のすごい生産者に会いに行く』

奥田政行、三好かやの(柴田書店)

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(18)『三陸人 復興を頑張る人を応援する旅』

COMMUNITY TRAVEL GUIDE編集委員会(英治出版)

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多摩高校+学問本オーサービジット

ポスト3.11の「安心」のかたち ~異なる立場の住民同士が話し合うことから生まれた安心感

~神奈川県立多摩高校オーサービジット

五十嵐泰正先生 筑波大学 社会・国際学群 社会学類/人文社会科学研究科 国際公共政策専攻

 

多摩高校では、2年生の秋<16年10月>の、被災地訪問を含めた東北の修学旅行に向けて、1年生の「総合的な学習の時間」でグループ研究をしており、その一環として、オーサービジットが企画されました。企画したのは、震災の課題に関心のあった高校生と、「総合的な学習の時間」を担当している国語科の石原徳子先生です。

 

石原先生は、グループ研究の前提として、「震災後の社会」を生きる高校生に「働くこと」を考えてほしいと、入学と同時に、復興に向けて新しい働き方を模索している人や、これまでになかった価値観を提案している人が書いたり、紹介されたりしている「働き方に関する本」を紹介しました。その読書経験を経て、「学問本オーサービジット」のブックリストにあった五十嵐泰正先生の本に、高校生が興味を持ち、このオーサービジットも企画されました。