歴史学<海域アジア史>
時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ
桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

『市民のための世界史』
大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)
2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。
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第1回<歴史学とは>
歴史は動かない過去の事実を暗記するだけの、「役に立たない」科目か

世界的に見ると、日本人は歴史好きな人々だと言われる。歴史小説やテレビの時代劇、マンガ・アニメやゲームなどで、歴史上の人物や事件を題材にしたものは数多い。古い寺社や城跡は観光地になるし、古代の重要な遺跡が発掘されるとマスメディアで大きく取り上げられ、説明会には一般市民がおおぜい訪れる。
これは、韓国や中国、ベトナムなど近隣諸国でも似たところがある。韓国や中国の歴史ドラマを見たことがある読者も、少なくないだろう。最近、残念なことにこれらの諸国間で歴史をめぐる対立が起こっているが、実はそれも、歴史への関心が高いことのひとつの表現だろう。どうでもいいものをめぐって、大きな対立はおこらないはずである。
理系からは「科学」とは呼べないと言われ
ところが、他の国々でも似たようなものだと言われるが、日本では、学校で習う歴史(高校では「世界史」「日本史」)に人気がない。「すでにわかっている過去の事実を」「ひたすら暗記するだけで」「現代には関係がない、したがって役に立たない科目」というとらえ方は、ずいぶん広く共有されているように思われる。逆に歴史が好きな人々の間でも、現代にどんな意味があるのかなど考えず理屈にも弱い、ただ「たくさん知っている」ことを自慢する、といったタイプが少なくない。
また、理系的な考え方をする人々のあいだでは、歴史の研究(歴史学)は実験によって客観的法則を証明することができない点を、「だから科学と呼ぶにあたいしない」「好き勝手な推理や解釈のゲームをしているだけ」ととらえる向きもある。日本や周辺諸国で見られる、明らかに政治的な目的で歴史をねじまげる動きも、歴史に対するそのような見方を強化するものと言える。では、これらのイメージはすべて正しいのだろうか。
興味がわいたら

『市民のための世界史』
大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)
2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。
(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。
近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統」の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。
高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。
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『中国化する日本』
與那覇潤(文春文庫)
「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。
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『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』
村井章介(岩波新書)
おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。
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韓流歴史ドラマ『広開土大王』
高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。
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「著者と話そう」梅田蔦屋書店で開催!
高校までの「歴史=暗記科目」というイメージをくつがえし、日本・アジア史・西洋史の全体をとらえた「新しい世界史」を一緒に学びませんか
6/18(日)14:00から、梅田蔦屋書店で桃木先生のトークイベントを行います。
内容は『市民のための世界史』から。
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