歴史学<海域アジア史>

時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ

桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

 

第3回<どのように歴史を学ぶか>

研究の仕方、歴史学の解明の方法

「史料批判」~史料から歴史上の事実を確定する

 

 歴史を研究するというしごと(作業)は、大きく2 つに分かれる。第一は、原史料(資料)に対する厳密な「史料批判」にもとづいて、歴史上の事実を確定する、一般に「実証」と呼ばれる作業である。

 

文字史料の例をあげれば、できごとや事象を記録した史料には、現場の生の記録から、後の時代に他人の記録を引き写したり、そこに自分の勝手な判断を付け加えて書いたものまで、いろいろありうる。中には、古い時代に書かれたかのように偽装した、新しい時代の文献や文書もある。直接の記録が思い違いや書き間違いをしているのを、後の記録者が正しく訂正するケースもあるが、一般には生の記録に近いほど、情報の価値(信頼度)が高い。

 

ある史料の由来や性格を調べたり、同じ事象を記録した複数の史料を比較することなどを通じて、それぞれの史料や記述の信頼度を確かめる作業を史料批判といい、それなしに「史料に書いてあるから事実だ」とするようなやり方では、事実は突き止められない。そこで、研究者が、自分の研究テーマについて記録している史料を読む際には、他人の引用したもの(正確でないかもしれない)でなく、可能な限り自分で原文をチェックしなければならない。そのためには、出版されている書物や史料集だけでなく、ときには写本や文書、碑文などの現物を見て検討しなければならないことがある。

 

「歴史叙述」~事実にもとづき論理的に語る

 

「いつ」「どこで」「だれが」などは、より客観性が高い。しかし、解明される事実は無数にある。それを羅列しただけでは、歴史を理解したことにはならない。歴史研究における第二の作業は、多数の事実の中から、一定の理論や歴史観にもとづいて特定の事実を選び出し、それを論理的に組み合わせて、できごとの因果関係や意味・影響、社会の大きな構造や時代の大きな流れなどを論じること、すなわち「歴史叙述」である。

 

事実を選び出したり組み合わせるやり方には、時代ごとの関心の違いや個人の考え方が反映するので、完全に客観的な歴史叙述はありえない。しかしそれは、歴史学が自由に自分の主観を述べる手段であることを意味しない。歴史学の専門論文や専門書は、自分がどの史料のどの箇所を用いたか(史料的根拠)を明記するだけでなく、どういう理由や考え方によってどの事実を選びどう組み合わせたかというプロセスやロジックも、他人の検証が可能なように明示しておく義務がある。それを他の研究者が批判的に検討し、お互いに討論を繰り返す中で、「事実にもとづき論理的に語る」という条件を満たさない叙述は排除されることになる。その条件を満たしたものの間でも、どうしても見解が分かれることがらもあるが、「妥当な線」で共通な理解が成り立つことも多い。新しい史料の発見によって新事実が解明されたり、時代の流れで解釈の角度が変わったりするまでは、そうした「妥当な理解」が「定説」とされ、教科書にも書かれることになる。

 

興味がわいたら

『市民のための世界史』

大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)

2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。

 

(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。

 

近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。

 

高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。

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『中国化する日本』

與那覇潤(文春文庫)

「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。

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『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』

村井章介(岩波新書)

おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。

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韓流歴史ドラマ『広開土大王』

高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。