歴史学<海域アジア史>

時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ

桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

 

第9回<最先端研究を覗こう>

海域アジア史への招待(4) 多様性の中の統一国・インドネシア

オランダからの独立、スカルノ時代へ

 

オランダ領東インドでは、強制栽培制度への批判を受けて、オランダが教育や福祉を重視する政策をとった20 世紀初頭から、多数派であるジャワ人だけの運動、ユーラシアン(ヨーロッパ人とアジア人の混血児)の東インド全体での運動など知識人の運動が始まり、その後、1910 年代に華僑・華人に対抗して結成されたイスラーム同盟、それに1920 年にアジア最初の共産党として誕生したインドネシア共産党の運動など、大衆的な運動も発展した。さまざまな集団や原理にもとづくこれらの運動を、スカルノらが「インドネシア民族運動」としてまとめあげた。その際、多数派のジャワ語ではなく、商業用の国際語(大半の使用者にとって第二言語)として広く使われていたマレー語を将来の国語に選ぶなど、多くの集団の融和をはかるしくみが考えられたことは興味深い。

 

「多様性の中の統一」を国是とした独立後のインドネシアは、しかしその多様さゆえに揺れ続ける。ジャワの伝統や中立路線の理念を強調する華麗な演説で国民を魅了しつづけた「独立の父」スカルノは、軍と共産党など異質な勢力のバランスのうえに絶対的な権力を築こうとしたが、自前の組織がないうえにアメリカとの対立などが響いて失脚した。

 

今も、地域間、宗教間などの対立は残る

 

かわって1965 年に権力を握ったスハルトは、第二次世界大戦中に日本軍の訓練を受けた軍人で、反対派をきびしく弾圧する一方、日本の大政翼賛会に似た「ゴルカル」という組織を通じて各業界に開発の利益をばらまく「アメとムチ」によって、国民をまとめあげようとしたが、1997 年のアジア通貨・金融危機によって、その長期独裁政権も瓦解した。民主化が進んだ今日でも、地域間、宗教間などの対立はくすぶっており、国民統合はなお未完の課題である。

 

興味がわいたら

『市民のための世界史』

大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)

2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。

 

(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。

 

近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。

 

高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。

[出版社のサイトへ]

 

『中国化する日本』

與那覇潤(文春文庫)

「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。

[出版社のサイトへ]

 

『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』

村井章介(岩波新書)

おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。

[出版社のサイトへ]

 

韓流歴史ドラマ『広開土大王』

高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。