歴史学<海域アジア史>

時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ

桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

 

第10回<最先端研究を覗こう>

海域アジア史への招待(5) ベトナム戦争と海域アジア

ベトナム戦争では、アメリカの要請に応えて韓国、フィリピン、タイ、オーストラリア、ニュージーランドも南ベトナムに派兵した。とくに共産主義への敵愾心(てきがいしん)の強い韓国軍は、大規模な戦闘行動をおこなった(韓国では最近、それをめぐる反省と歴史和解の取り組みもおこなわれている)。またアメリカ軍は、フィリピン、タイ、沖縄を含む日本列島などの軍事基地もフルに利用した。北爆をおこなう米軍機に、沖縄の基地から発進した米軍機が空中給油した例から見て、もしその能力があれば、北ベトナムには沖縄の米軍基地を攻撃する権利があったと考えられる。

 

アメリカは、東南アジア諸国に開発援助

 

また、日本は憲法上の制約によって、自衛隊の派兵や武器の輸出はできなかったが、当時のベトナム周辺では飛び抜けた工業力をもっていた日本には、米軍関係者が使用する武器以外の生活用品など、大量の注文が殺到した。

 

アメリカは、東南アジア諸国に共産主義が浸透し革命がおこるのを防ぐため、開発援助をおこない、そこに高度経済成長期の日本企業が進出したので、東南アジアの資本主義諸国の開発主義に拍車がかかった。いっぽう、日本やタイのベトナム反戦運動は、アメリカに大きな困難をもたらした。このように、ベトナム戦争はアメリカとベトナムだけの戦争でなく、周辺地域に大きな影響をあたえたのである。

 

興味がわいたら

『市民のための世界史』

大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)

2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。

 

(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。

 

近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統」の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。

 

高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。

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『中国化する日本』

與那覇潤(文春文庫)

「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。

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『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』

村井章介(岩波新書)

おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。

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韓流歴史ドラマ『広開土大王』

高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。