歴史学<海域アジア史>

時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ

桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

 

第11回<大学では世界史をどう学ぶか>

学生の学び方 ~入門、ゼミ、大学院での研究

第6-10回の5回で、新たな世界史研究として「海域アジア史」を紹介した。この回では、1年から4年、大学院での学び方や、就職について紹介しよう。

 

「東洋史」「西洋史」など世界史にかかわる専攻に所属する学生は、教養課程や専門課程(通常はその初期)に、いくつかの「概論」や「入門講義」を学ぶほか、専門課程ではいろいろな個別テーマを深く学ぶ「特殊講義」と、史料読解や研究発表のトレーニングをする「ゼミ」(演習ないし実習)を受講するのが普通である。その間に、歴史好きなら高校時代から読んでいたような文庫・新書や概説書だけでなく、専門論文や専門書を読むことに慣れておく必要がある。そして、講義や演習で学んだことをもとに、「指導教員」による個別指導も受けながら、卒業論文を書いて卒業する。

 

大学院に進学すれば、同様の手順を踏んで修士論文(博士前期課程ないし修士課程)や博士論文(博士後期課程)を書くことになるが、大学院、とくに博士後期課程では授業より個別指導と自分で計画を立てておこなう研究の比重が大きくなる。

 

就職の不利はなくなっている

 

現在では、学問の複雑化の結果、理工系や医歯薬系と同じように、学部4 年間では十分な実力が身につかないので、一般社会人や高校などの教員として就職する場合でも、大学院で修士号までは取っておくことが一般化しつつある。採用する企業などの側も、終身雇用制が過去のものになった今では、浪人・留年なしの学部卒しか採用しないようなやり方は後退し、大学院などで余分な年数をかけても、十分な学力や関連する語学力、海外経験などを身につけた人材を優先するケースが増えている。「優秀な製品を作って決まった方法で売ればよかった時代」とちがい、相手の文化や歴史を深く理解したマーケット戦略などが求められる現在では、社会科学系や国際系とくらべて人文系の卒業者がとくに不利ということもなくなっている。

 

テーマを見つける力、オリジナルな見解をうむ力を養う

 

さて、「世界経済の変遷」のような大きなテーマは経験の浅い学生にはまず無理なので、外国史の研究は、初めのうちは特定の事件や制度に焦点を当てたり、「フランス近代の農民の暮らし」のような、国(地域)と時代、領域を限定した研究をおこなうのが普通である。経験を積むと、しだいに大きな問題や広域の歴史が研究できるようになる。

 

研究のためには、単なる趣味や教員のまねではなく、自分の能力や置かれた状況で研究できる適当なテーマを見つける能力、必要な史料を図書館・文書館やインターネットを利用して自分で探す能力、その史料を解読する能力(外国史の史料は普通は外国語、それも近現代史でなければ古語で書かれている。それを読む訓練には時間がかかる)、他人の見解(先行研究)を的確に理解・批判したうえで自分のオリジナルな見解を対置する能力のトレーニングが、おもに演習を通じておこなわれる。

 

英語+研究対象国の語学力が必要

 

外国語では、英語はいまやどの学問領域でも当然である、また、卒業論文は日本で手に入る英語の史料だけ(東アジア史なら漢文史料だけ)で書くこともまだ可能だが、大学院ではそれは基本的に許されない。そのテーマにかかわる史料は何語でも読むべきだし、対象とする国の研究者や、元植民地の場合は旧宗主国で研究がさかんな場合が多いので、現地で現在使われている言葉(中国なら現代中国語、インドネシアならインドネシア語)や、英語以外のヨーロッパ言語(ベトナムや西アフリカの歴史ならフランス語、中南米の歴史ならスペイン語)などの能力も必要になる。

 

史料も日本では(またはインターネット上では)手に入らないものも多いので、大学院になると、現地や旧宗主国に史料を探しに行ったり、長期留学することも当たり前になる(→外国語の会話能力や現地経験、そのための行動力や生活能力の向上にもつながる)。学部のうちに、こうした力の伸びや、自分の好きな分野(たとえば中国の三国時代)だけでなく、歴史学の広い範囲が理解できる視野の広がりを見せる学生もいる。そうなれば、研究者や教員だけでなく、国際人としてさまざまな分野での活躍が可能なはずである。

 

興味がわいたら

『市民のための世界史』

大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)

2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。

 

(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。

 

近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統」の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。

 

高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。

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『中国化する日本』

與那覇潤(文春文庫)

「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。

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『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』

村井章介(岩波新書)

おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。

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韓流歴史ドラマ『広開土大王』

高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。