歴史学<海域アジア史>

時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ

桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

 

第12回<大学では世界史をどう学ぶか>

西洋史・東洋史・日本史に分かれつつも横断。水準は世界一

世界史(日本史を含む)に強い関心をもち、自分でこれを専攻したいと考えた場合、それはどこで学べるだろうか。それは一般的には、人文系学部の「史学科」ないし「史学系」ということになる。日本の場合それは、明治時代の終わりごろにできたしくみによって、「日本史」「東洋史」「西洋史」の3 つの専攻ないし専修(プラス考古学や、大学によっては人文地理学など)に分れており、学生はそのどれかに所属しながら、他の専攻の科目も必要に応じて学ぶという方法で研究をおこなうのが普通だった。

 

これは、歴史学の対象をほぼ西洋に限っていた欧米諸国のしくみとくらべると、自国史としての日本史、さらに東洋史という専攻を独立させた点に大きな意味があった。日本史はもちろん、近代以前からつちかった漢文の素養が生かせる東アジアの歴史など多くの分野で、日本の歴史学は第二次世界大戦前から世界トップレベルの業績をあげ、最近では西洋史や、東アジア以外のアジア諸地域の研究についても、世界で活躍する研究者が少なくない。日本の歴史学は、グローバルな理論の発信などはあまり得意ではないが、史料の細かく精密な読み取りと、世界史の主要地域・時代や領域のほとんどについてハイレベルな専門家を擁している点は、おそらく世界一の水準にあると思われる。高校世界史B の教科書が、まだひどくヨーロッパに偏っているとはいえ、全世界の歴史を網羅できるのも、そうした学界の水準が背景にある。

 

3つに分かれている弊害もある

 

ただし、3 つの専攻の関係は対等ではなく、自国史(しかもつねに内部の力で動く特別な存在)としての日本史、人類の「普遍」であり日本が目ざすお手本としての西洋史の2 専攻はつねに人気があるが、「それ以外の遅れた地域ないし日本が指導すべき地域」を押し込んだ東洋史は、「少数の変わり者」だけが進学する専攻であるという構図は、主要大学のほとんどで一貫して続いていた。

 

しかし、現在ではこの三分体制の弊害が顕在化している。たとえばアフリカ史は3 専攻のどこにも居場所がないなど、歴史学の多様化や対象の変化についていけていないし、歴史学全体の動きが理解できるような3 専攻共通の教育もしにくくなっているのである。そのままでは専門研究がうまくいかないだけでなく、新しい内容をきちんと教えられる中学・高校教員や、新しい内容を踏まえて入試問題を作成し教科書を書ける大学教員が養成できない。とりわけ現在では、日本史とアジア史をつなげた理解、西洋中心でないトータルな世界史などが、歴史学の内側からも外側からも強く求められている。そこで、専攻の壁を越えて、そのような課題に取り組む若手研究者も増加している。

 

史学系以外の学科でも学べる

 

このほか、人文系学部の哲学史、文学史や美術史、法学部の法制史や外交史、経済学部の経済史、医学部の医学史など、どの学問分野でもその歴史が研究されている。外国語系・国際系の大学・学部にも外国史の専門家は数多い。したがって、歴史の研究者には、史学系以外のそうした大学・学部や専攻を卒業した者も少なくない。他方、日本の特徴として、「歴史学部」(や「哲学部」)が大学にほとんど存在しないこと、大学付属、その他の省庁の管轄下などを含めて、歴史学の研究所がほぼ皆無であることなどもあげられる。国によっては、こうした機関が重要な役割を果たしている場合がある。

 

おわり

 

興味がわいたら

『市民のための世界史』

大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)

2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。

 

(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。

 

近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統」の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。

 

高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。

[出版社のサイトへ]

 

『中国化する日本』

與那覇潤(文春文庫)

「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。

[出版社のサイトへ]

 

『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』

村井章介(岩波新書)

おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。

[出版社のサイトへ]

 

韓流歴史ドラマ『広開土大王』

高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。