歴史学<海域アジア史>

桃木至朗先生インタビュー

大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野

 

先生の研究分野「海域アジア史」を簡単にご説明ください。

 

1990年代から各地の仲間たちと協力して創り出してきた新しい分野で、海を通じた交流や貿易の歴史を中心とした海からの視点によって、これまでは陸の視点で国ごとに分断されてきたアジア(当然日本を含む)の歴史を書き換えること、それによって21世紀を生きるのに不可欠な「アジアを正当に位置づけ日本を完全に組み込んだ世界史」を作り出すことなどを目ざしています。

 

◆研究をこれからどのように発展させようとしていますか。また、それは、どんな成果になっていくのでしょうか。

 

(1)私の元来のフィールドであるベトナム史の研究を強め、海域アジア史におけるベトナムの位置・役割をより明らかにする→日中韓だけでは国ごとの歴史を乗り越えられない「東アジア史」を、より広く柔軟にとらえ直す手がかりになります。

(2)海域アジア史の研究成果を、中学・高校などの歴史教育に反映させる→新科目「歴史総合」をはじめ、「日本史」「世界史」のギャップによる自己認識・他者認識両方のゆがみを是正することができます。

 

 

◆先生が指導されている学生や大学院生の研究テーマを教えてください。

 

 ・近世ベトナム王朝の貨幣・流通政策

 ・近世のべトナム・中国間での外交と貿易

 ・宋代中国の天下理念と国際秩序

 ・近世ボルネオ島のイスラーム王国ポンティアナックの歴史

 ・宋代の大食(アラブ系)商人の活動と商品

 ・唐代の新羅人の中国での活動

 ・近世アチェ王国の貿易と政治権力

 ・植民地時代のインドネシアにおける民族意識の形成

 

◆先生のゼミの卒業生は、どんな就職先で、どんな仕事をされていますか。

 

大学・高校・中学教員や外交官、地方公務員などのほか、海運、情報通信、証券、自動車、化学工業など民間企業への就職も多く、「文学部は就職に不利」などというのは過去の話です。とくに大学院で修士号を取ってから一般企業に就職する学生が目立ちます。民間企業の場合、通常は研究内容と仕事内容に直接の関係がないが、ベトナムの漁村に通い、方言を駆使して集めた古文書やインタビューにより画期的な修士論文を書いた日本人女性、中国と東南アジアの歴史上の相互認識について鋭い修士論文を書いた中国人女性が相次いで某化学工業会社に採用されるなど、「英語だけ」でない国際経験や語学力、珍しい分野にチャレンジする行動力などが、世界展開をはかる企業に評価されていると思われます。

 

◆ゼミや授業では、どのような指導をされていますか。また、どのような学生が、先生の分野の研究には向いていますか。

 

求める学生は「自分と異質な人々に出会ったときにそれを拒絶・排除するのでなく好奇心を持ち理解しようとする姿勢、それを通じて自分を変える一方で自分のことも相手に理解させようとする発想」を持つ学生。指導するのは「ものごとを言葉で説明・表現する方法」「一つだけの正解を探すより複数の角度から見て複数の可能性を考える方法」です。

 

◆先生は研究テーマをどのように見つけたのかを教えてください。

 

11の理由で留学したベトナムで、欧米ばかり崇拝してアジアのことを知らない、自国の言葉や歴史の教え方が「ガラパゴス化」していて外国人に教えられない、の2つの欠点が完全に日越共通であることを痛感し、周りの諸国も同様らしいと気づきました。そこで、アジア諸地域と自国(日本)を海でつなげた研究を、今回も他人がやらないなら自分がやってやろうと考えました。

 

◆高校時代は、どのように学んでいたか、何に熱中していたかを教えてください。

 

熱中していたのは将棋(同好会)。高校時代に認識した「あるべき自分の人生」は、「実力や実際の重要性の割に評価されないものを選ぶ人生」。当時のベトナム戦争報道を通じて東南アジアに関心を持ちましたが、こんなに重要なのに歴史の研究がほとんどないと世界史教師に言われ、自分で古い時代の研究をしようと考えたのです。

 

◆桃木先生関係のサイト

 

研究室のHP(東洋史学専門分野HP)

 

「ダオ・チーランのベトナム雑学講座」

(日本ベトナム友好協会大阪府連合会HP)

「ダオ・チーランのブログ・パシフィック」の歴史関係記事(「世界史雑記帳」など)(桃木先生のブログ)

 

◇桃木先生のFacebook https://www.facebook.com/shiro.momoki

◇桃木先生のツイッターのアカウント https://twitter.com/daochilang

 

 

◆先生の研究室を訪問してもよろしいでしょうか。

 

質問や訪問希望の場合は、メールアドレス(momoki●let.osaka-u.ac.jp )に送ってください。質問は、世界史と歴史学のことなら何でも可。訪問時もできれば事前に質問を出してください。(●は@にかえてください)

 

 

興味がわいたら

『市民のための世界史』

大阪大学歴史教育研究会編(大阪大学出版会)

2022年導入予定の高校新科目「歴史総合」「世界史探究」を先取りして、「日本を含むアジア中心の世界史」の構図を示した大学新入生用教科書。21世紀に大学で学ぶ歴史がどんなものか知りたい高校生必読。

 

(1)グローバルな歴史の構図と日本の位置の解説、現代につながる問いかけなどを基本に、(2)理工系向けの環境史など、歴史好きとは限らない各分野の学生に必要な内容も意識的にとりあげ、(3)学問の動きや国際的な論争の紹介とあわせて、「動かない事実の暗記」という歴史教科書のイメージを崩そうとした。

 

近現代の世界経済、中央ユーラシア史・中国史や日本列島史、気候変動の歴史やジェンダー史など、新しい世界史と海域アジア史の見方が満載(→「日本的伝統」の成立」「東アジア各国の食生活の変化」「近世東アジア諸国の共通性と差異」「周辺諸国にとってのベトナム戦争」などコラムも必見)。

 

高校生には、これを理解せずに日本の進路を考えることは不可能な、東アジア史の特徴とそこでの日本の位置を、「読者への問い」「課題」にも取り組みながら考えてほしい(例:現代史の章の最後に掲げた課題「東アジア諸国で他の地域と比べて突出した少子高齢化が進行しつつあるのはなぜか、人口が増えている地域や少子高齢化がそれほど進んでいない地域と比較しながら、歴史的背景を説明せよ」を、第6章「アジア伝統社会の成熟」と関連づけながら考えよ)。

[出版社のサイトへ]

 

『中国化する日本』

與那覇潤(文春文庫)

「中国のことを不愉快に思う日本」の本質を、最新の歴史・文化研究をふまえて解き明かした快著。歴史を現代の自分のために学ぶ意義が見えない若者に読んでほしい。

[出版社のサイトへ]

 

『シリーズ日本中世史4 分裂から天下統一へ』

村井章介(岩波新書)

おなじみ戦国時代の歴史を、世界史・アジア史の中で見直す最新の概説。「日本人専用でなく外国人にもわかる日本史」を必要とする人々のお手本である。

[出版社のサイトへ]

 

韓流歴史ドラマ『広開土大王』

高句麗の王、広開土王が主人公のドラマ。フィクションだが、隣国が日本や中国など世界をどう見ているかよくわかる作品で、古代史好きにはこたえられない。

 

桃木先生の記事を読む

時代の変化を反映し、東南アジア史、環境史、ジェンダー史など新しい分野もさかんに ~世界史をどう学ぶ、どこで学ぶ

桃木至朗先生 大阪大学 文学部 人文学科 東洋史学専修/文学研究科 世界史講座 東洋史学専門分野