LSI設計技術

欠陥品を出さないために、集積回路の均質な性能を予測

粟野皓光先生 

東京大学 大規模集積システム教育研究センター

情報化社会は、半導体集積回路によって支えられているといって過言でありません。集積回路はトランジスタと呼ばれるスイッチの集合体です。現代の集積回路は数十億個ものトランジスタが数十ミリ四方のシリコン片に集積されており、非常に高度な情報処理を実現しています。これだけ数が多いと問題は、集積回路が搭載された1台1台のコンピュータの性能が予測できないこと。それは均質さを求める商品としては困りもの。粟野先生は、モンテカルロ歩留まり解析という、欠陥商品を出さず、集積回路の均質な性能を予測する研究で目覚しい成果を挙げています。

スマホを分解すると、電子基板に搭載された黒い樹脂で覆われた部品を目にすると思います。この樹脂の中には、数ミリ~数センチのシリコンのかけらが入っています。さらに細かく見ると、トランジスタという小さなon・offのスイッチが並んでいます。とても小さなシリコンのかけらですが、この中に、なんと70億個のトランジスタが集積されているんです。これが情報化社会を支えています。

 

僕はこの集積回路研究に魅せられました。集積回路の問題は何でしょう。70億個の1個1個に特性があることです。意外と思うかもしれませんが、1個1個は、反応に敏感なやつ、ゆっくりスイッチングするやつ、電力が大食らいなやつ…いろいろです。

 

問題は、全体としてのコンピュータ製品の性能の予測ができないことです。人間集団なら個性があってよいけれど、製品としてみれば、困りもの。そこで何%商品価値のあるやつを得られるかという予測研究をしています。これを歩留まり予測といいます。

 

歩留まり予測は確率の期待値計算、つまり積分計算に帰着されます。積分計算といっても綺麗な数式で表現できないので、コンピュータを使った数値積分が必要になります。このとき一般的に用いられる方法が、モンテカルロ法と呼ばれる手法です。

 

モンテカルロ法とはシミュレーションや数値計算を乱数を用いて行う手法のこと。わかりやすい例は、乱数を使って円周率を計算する問題です。円周の中に点をランダムにばらまき、円の中にどれだけの点が落ちるかを数えることによって円の面積を計算し、円周率を推定するというやり方です。

 

僕たちの歩留まり解析も同じようなやり方です。ただし問題は、積分変数の次元数が数千次元あることです。

 

高次元特有の難しさというのは、なかなか直感的に理解しにくいと思うので、ミカンの皮と中身で例えてみようと思います。我々が認識している3次元空間では、ミカンの皮は薄くて、大部分が食べられる実ですね。しかし、皮の体積は次元数に比例して大きくなっていくため、高次元空間では体積の大半を“皮”が占めてしまいます。さて、先のモンテカルロ法による円周率計算に戻ってみましょう。この図では、2次元で、十分に多くの乱数が円の中に落ちると予想できますね。しかし、次元が増えていくと、球が占める体積が減って、ほとんどの乱数が球の外側に落ちてしまいます。例えば、1000個の乱数サンプルを撒いたとしましょう。ほとんどのサンプルは球の外に落ちますが運が良ければ3個程度は球の中に落ちるかも知れません。もし、運が悪ければ1個しか球の中に落ちないこともあるかも知れません。すると球の体積は3/1000なのか、あるいは1/1000なのか、正確な値がわからなくなってしまいますね。これが高次元空間で積分することの難しさで、“次元の呪い”と呼ばれています。

 

解決法として、ランダムウオークという数学的手法を使います。もっと専門的に言うと「マルコフ連鎖モンテカルロ」と言います。簡単に言うと、そこが探し出したい領域なのかということを判断して、一歩、一歩、ランダムにその空間を歩き回るという方法です。それを歩留り解析に適用して、高次元問題を解決しました。最新の成果として、600次元の積分計算を、従来のやり方の50倍高速化することに成功しています。

 

司会者・竹川佳成先生×森勢将雅先生の一言

 

竹川先生――数ミリ四方に70個の集積回路って、想像を超えますよねえ。

森勢先生――こういう集積回路の性能の検査をするって非常に難しいんです。例えば、宝くじでほんとに当たるのか予測し、それを検証しようと思ったら莫大な時間がかかるといえば、わかりやすいと思うんですけど。

 

LSI設計技術とは

◆先生の研究分野である「LSI設計技術」について簡単に教えてください。

 

皆さんがお持ちのスマートフォンやPCには、集積回路と呼ばれるシリコンの欠片(チップ)が搭載されており、シリコン上を電子が動き回ることで、動画を再生する・ゲームをプレイすると言った高度な情報処理が実現されています。シリコンの表面には、トランジスタと呼ばれる極小のスイッチが作りこまれており、電子の動きを制御しています。半導体製造技術の進歩に伴い、最大で200億個ものトランジスタを1つのシリコンチップに集積することができるようになりました。ここで問題となるのは膨大なトランジスタをどのように組み立てて、期待通りの動作をする回路を組み立てるかということです。そこで、回路の動作を人間に読みやすい言語で記述し、自動的に集積回路の設計図(物理レイアウト)を生成する方法が盛んに研究されています。上記の分野では、非常に複雑な回路を設計するための方法を、グラフ理論等の離散数学を駆使した理論面と、実際に回路を作成してみる応用面の双方から研究しています。

 

興味がわいたら

『NHKスペシャル 電子立国 日本の自叙伝』

NHK番組。ベル研究所でトランジスタが発明されてから、集積回路ができるまでの流れを概観できます。集積回路はありふれた人工物の1つですが、それを作るためには化学・物性・光学など多様な分野の先端技術を組み合わせる必要があります。例えば回路を作りこむシリコン基板1つとっても99.999999999%もの高純度が要求されています。このような繊細な製品をいかにして工業製品として作りこむのか、その難しさと面白さを感じられると思います。DVD化、書籍化されています。

 

『NHKスペシャル 新・電子立国』

上記の続編。上記はハードウェア中心に対して、こちらはソフトウェア中心。マイクロソフトやアップルの黎明期が紹介されており、今となっては貴重なインタビューも多く含まれています。書籍化されています。

[出版社のサイトへ]

 

映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』

コンピュータの基本理論を考案したアラン・チューリングの生涯を描いた映画。コンピュータができた歴史的背景を知ることができます。

 

※情報処理学会第79回大会 IPSJ-ONE講演より

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