刑法学

死刑廃止やテロ等準備罪を考える〜社会の変化と刑法の変化

井田 良(まこと)先生

中央大学大学院法務研究科

第2回 時代とともに法律は変化してもよいのだろうか

刑罰を厳しくする社会へと変化

 

社会の変化にともなう刑法の変化についてお話しましょう。私が刑法学者となって歩んできた33年の間に日本の刑法は大きく変化しました。

 

最も大きな変化は、以前より積極的に刑罰を用いようとする傾向が強まったことです。これを刑罰積極主義といいます。戦後の刑法思想は、「刑罰は使わなければ使わないほどよい。使うときでも軽ければ軽いほどよい」という考え方が基本でした。これに対し、現在は刑罰を厳しくする社会へと変化しつつあります。これについて、2つの傾向について、詳しくお話ししたいと思います。

 

1つ目は、これまでより重い刑罰を科そうというような、重罰化・厳罰化の傾向であり、もう1つは、処罰の早期化の傾向です。処罰の早期化は、放っておけば危険なことになりうる行為を早期にやめさせることが目的です。最近クローズアップされた、いわゆるテロ等準備罪をめぐる議論も、処罰の早期化にまつわるものです。

 

この2つの変化は、起こってしまった後の厳しい応報処罰と、起こる前の被害の未然防止という異なった方向の傾向が同時に進行しているという特色があります。

そして犯罪に対する重罰化も処罰の早期化も、1990年代の後半以降、特に2000年代に入って、立法を通じて実現されてきました。

 

原則を守るのか、変化を容認するか

 

とりわけ重要なことは、重罰化や処罰の早期化に向けての変化が、これまで刑法学の共通理解として承認されてきた刑法の基本原則や基本法理と矛盾するものを持つように見えることです。従来の刑法は、歴史的流れの中で、いろいろな基本原則・基本法理を形成してきました。簡単には例外を認めてはいけない約束事を作り上げてきたのです。それと衝突する方向への動きだとなると、これは見過ごすことはできません。

 

これまでの基本原則自体が間違っていて修正が必要なのか、それとも、新しい傾向の方が社会にとって悪いことなのかをしっかり考えなくてはなりません。法律の専門家にも、社会の変化に応じた法律の変化を容認する人と、刑法の基本原則の多くは人権を保障するためのものだから、それをむやみに放棄することはできないと、従来の原則を固く守って変化を拒絶する人がいます。

 

私自身は、刑法には「動かしてはならないもの」と「社会の変化に応じて、動くことを認めてよいもの」とがある、ということから出発し、どちらが問われているのかよく考え、よく見極めて対応することが大切だと思っています。

 

興味がわいたら ~本と映画の紹介

『死刑 究極の罰の真実』

読売新聞社会部(中公文庫)

はじめて刑法の問題を考えるときには、死刑の問題から入るのが1つの有効なやり方だと思われます。死刑制度について論じるためには、刑罰の本質や目的に関する理論、死刑制度の現状と実際、犯罪の原因とその対策等々に知らなければなりません。何も材料を持たずにいきなり死刑の存廃を論じるというわけにはいかないのです。死刑の持ついろいろな側面について詳しく触れているという点で本書をお薦めしたい。

 

まずは本書に書かれていることをきちんと理解し頭に入れた上で、死刑についての自分の考えを決めてほしいと思います。死刑を廃止しようとする側の言い分にも、またそれを維持すべきだとする側の言い分にもそれぞれかなり理由があることを、本書から読み取ることができるでしょう。対立側の言い分を無視して自分の考えだけを述べ立てても、それは学問的な主張にはなりません。両方の言い分を踏まえて、双方が納得できるような主張こそが学問的に価値のある主張です。そのような自説を構築することは決してやさしいことではありません。そうしたことを本書から学んでください。

 

本書を注意深く読めば、犯罪と刑罰の理論、刑罰の本質と目的、刑事裁判のあり方などについて学ぶことができる点で、刑事法学入門(特に刑法学入門)として適しています。

[出版社のサイトへ]

映画『それでもボクはやってない』

周防正行監督作品。現実に忠実な形で刑事裁判を描いた作品であり、裁判のこわさ・難しさを知るには好適の映画。高校生が最初に見る映画としてお薦めできます。

 

映画『ショーシャンクの空に』

スティーブン・キング原作、フランク・ダラボン監督。犯罪と刑罰に関する映画の中で最高の名作でしょう。キーワードは「希望」であり、刑事政策と犯罪者処遇の本質に触れる作品です。