人工知能/機械学習
国内最大人工知能の拠点、AIPセンターは何をめざすのか~日本の機械学習研究
杉山将先生
理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIPセンター)センター長
今マスメディアを賑わしていない日はないというほど人工知能(AI)ブームです。日本でも昨年、国内最大級のAI拠点、AIPセンター(革新知能統合研究センター)が、理化学研究所に創設されました。自動運転を出すまでもなく、世界中で加熱するAIブームを支えるのが、話題のディープラーニング研究です。ディープラーニングは、コンピュータが学習に適したデータの表現を獲得するための画期的なAI技術です。それは人工知能誕生60年以来のブレークスルーをもたらしましたが、根っこには、機械学習(マシンラーニング)研究の蓄積があります。機械学習の専門家でありAIPセンター長の杉山将先生に、日本が機械学習研究で、世界で勝ち抜くための新しい戦略について伺いました。
第1回 今話題のディープラーニングとは何か

今、人工知能(AI)とディープラーニングはたいへんブームです。ディープラーニングとはなんでしょう。それはAIの最先端研究=機械学習の1つです。では機械学習とはなんでしょう。コンピュータに学習する能力を持たせる研究を指します。私はこの機械学習を20年来専門にしています。今日はその立場から機械学習とは何かを話しましょう。
機械が学習するときの仕方は、大きく3つに分けることができます。(1)教師付き学習、(2)教師なし学習、(3)強化学習。この3つです。1つめの教師付き学習というのは、人間(教師)がコンピュータに答えを教えることによって学習を行なうものです。
被験者は電極キャップを被り、コンピュータの画面の前に座り、画面にL(左)と出ると[左に動け]と左手を動かすイメージします。よく知られているように脳神経は交差しているので、左手への運動指令は右脳に伝わります。そして活発になった右脳の脳波パターンを記録します。同様に、画面にR(右)が出ると、[右に動け]と右手を動かすイメージし、活発になった左脳の脳波パターンを記録します。
機械は最初、脳波パターンのデータを見ただけでは、それが何を意味するのかわかりません。そこで被験者がイメージしたことと脳波のパターンとの対応付けを、人間が1つ1つ記録をし、機械に提示してやるのです。つまり、人間が教師になってデータに意味付けをし、それをコンピュータが学習します。この教師付き学習の繰り返しによって、機械は徐々にどの脳波パターンが右・左を表すのかを学び、判別できるようになります。
準備をここまですると、2人の人間が“念力”(イメージ)だけで対戦ゲームができるようになります(笑い)。つまり被験者が、頭に「右だ」「左だ」と手の動きを思い浮かべるだけで、実際にコマンド操作をしないでゲームができようになります。このような人間がデータに意味付けをして教える教師付き学習はかなり進歩し、例えば今では車椅子を脳波で操作するような実証実験ができるレベルに達しています。