論理学・分析哲学・言語哲学

20世紀の大哲学者ウィトゲンシュタインの「哲学と一致させた人生」の謎に迫る

六甲学院中学・高等学校オーサービジット

『ウィトゲンシュタインはこう考えた』を読む

鬼界彰夫先生 筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類 現代思想コース/人文社会科学研究科 哲学・思想専攻

 

第7回 後期の主著『探究』もその後の思想に大きな影響を与えた

ウィトゲンシュタインの後期の主著『探究』も20、21世紀の思想に大きな影響を与えています。例えば、米国の科学哲学者・科学史家のトマス・クーンは、1960年代に新しい科学観を提示したのですが、そこで彼は科学者たちが科学を実践するにあたって共有しているのは言葉で明確に示された概念の定義や『探究』の規則でなく、明示的に言語化されるとは限らない、個別の判断例に基づく価値観、手続き、基準であると主張し、それを「パラダイム」と呼びました。科学革命とは単に科学理論が変化することではなく、科学者が共有するパラダイム自身が変化することだ、というのが彼の科学観のポイントですが、彼の「パラダイム」という概念はウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」という概念に大きく影響を受けています。

 

今日なお輝きつづける後期哲学

 

まとめましょう。ウィトゲンシュタインは、まず19世紀まで哲学の根本的問題であった「人間の本質とは何か」という問いを、「人間にとって言語とは何か」という問いとして考えました。そのために、彼は非常に厳密な世界を築き上げました。それで、人間は言語によって世界を十分理解できると考えました。しかし、前期の『論考』完成直後から、彼は自己を偽って理想を演じることに悩み続けました。その中で、「自分の築いた理論と自分自身との矛盾」と向き合い格闘する中から後期の考え方が生まれました。『探究』に代表されるウィトゲンシュタインの後期哲学は、今日なお独特の輝きを放ち続けています。

 

興味がわいたら

『ウィトゲンシュタイン 没後60年、ほんとうに哲学するために』

鬼界彰夫、永井均、飯田隆、岡本賢吾、野家啓一、戸田山和久、山田圭一、大屋雄裕、田中久美子ほか(河出書房新社)

 

法哲学者は「言語のゲーム、ルールの言語」という項で、ウィトゲンシュタインの言語理論が、法律の世界でどのように見られているかを述べている。また建築設計の専門家は「ウィトゲンシュタインの建築問題」の中で、哲学者ウィトゲンシュタインの建築家としての唯一の仕事として知られるストンボロー邸のユニークな空間構成について述べている。哲学以外の分野でウィトゲンシュタインがどのように見られているかに興味を持つ人へお勧めしたい一冊。他分野も含めた国内のウィトゲンシュタイン研究者による最近の研究動向と発言で構成されている。

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(本オーサービジットは2015年2月に実施されました)