科学技術政策、情報学/人工知能

超スマート社会実現に向け、力を入れ始めた国の人工知能研究政策

栗原潔さん 文部科学省 研究振興局 参事官(情報担当)

日本企業が国際的な競争力を落としていると言われます。ほんの5~10年前まで、科学技術立国と言われていた日本の建て直しは、果たしてできるのでしょうか。そのための国挙げての骨太の大型プロジェクトとして考えられるのが、人工知能、センサネットワーク、ロボティクスに基づく次世代の社会システム「超スマート社会」に向けた計画です。超スマート社会とは?

 

文部科学省で科学技術振興を担当する栗原潔さんに、国家戦略としての「超スマート社会」はいかにして実現されるか、お聞きしました。

★上記はおススメ本『パーソナルコンピュータを創ってきた人々』

 

第1回 日本企業の実力は? 衝撃のデータ

最初に、ちょっとショッキングなデータをお見せしましょう。これは日本企業の分野別の世界シェアと市場の規模を表した図です。

◆日本系企業の主要先端製品・部材の売上高と世界シェア

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横軸が世界シェア、縦軸が各産業の世界市場規模(売上高)、図の中にプロットされた大小の〇をご覧ください。目を引くのは、やはり日本の自動車(ガソリン車)(世界シェア24%、売上高53.1兆円)の強さです。トヨタ・日産・ホンダをはじめとする企業群を想起した方も多いと思います。また、世界的な人気のデジタルカメラや複写機、光学レンズなどに代表されるような光学系製品・部材では日本の世界シェアは80%以上という高さを誇りますが、ここに挙げられている様々な分野で比べた場合には市場規模の金額そのものは比較的小さい分野になります。つまり日本企業がシェアを占めていて、かつ世界市場の規模が大きい分野の代表例は自動車とその関連分野が主体であると見て取れます。

 

一方でアメリカはどうでしょうか(下図)。世界シェアも市場も卓越したものが多数あります。例えば、アップル社やマイクロソフト社をはじめとするデジタル機器やソフトウェア商品、オラクル社やシスコシステムズ社等のインターネット関連分野の機器類やソフトウェアはもちろん、航空機産業も世界シェア8割を占め圧倒的な強さを誇っています。医療機器分野(例えば、コンタクトレンズ、人工関節、冠動脈疾患治療に用いられるステント等が挙げられます)も、世界シェアの8割以上は米国が占めるという調査結果となっています。

 

◆米国系企業の主要先端製品・部材の売上高と世界シェア

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一方、中国も、世界シェア・市場規模ともに大きなものがかなり増えています(下図)。自動車(ガソリン車)の世界シェア19%となっており近年の上昇を反映していますが、例えば鉄鋼・炭素鋼(炭素鋼は43%、49兆円)の分野では、しばらく前から既に世界の生産の中心的位置を占めていると言えるでしょう。エレクトロニクス系部材・装置でも、静電容量タッチパネル、ディスプレイ、シリコン太陽電池、カメラモジュール等で高いマーケットシェアを誇ります。

 

◆中国系企業の主要先端製品・部材の売上高と世界シェア

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韓国も世界シェアの高いものがあります。パソコンやスマートフォン等に用いられるDRAM素子のシェアは高く、有機ELディスプレイは世界シェアのほぼ100%、スマートフォンやタブレットの記憶素子として使われているNAND型フラッシュメモリは世界シェアの60%程度を占めるなど、エレクトロニクス系での存在感が非常に大きくなっています。

 

いかがでしょうか。様々な報道等でも日本企業が国際的な競争力を落としているとの指摘を目にしますが、みなさんがなんとはなしに薄々感じていることが、調査結果として定量的に見えてきます。

 

つづく

 

興味がわいたら

『パーソナルコンピュータを創ってきた人々』

脇 英世(SBクリエイティブ)

私が中学生・高校生の頃に非常に好きだった雑誌連載をまとめたもので、IT業界の生ける伝説の人々の素顔とエピソードが魅力的に語られている書籍。マイクロソフトのビル・ゲイツ、ポール・アレンにはじまり、アップルのスティーブ・ジョブス、スティーブ・ウォーズニアック、ペプシから移籍したジョン・スカリー、オラクルのラリー・エリソン、LINUXのリーナス・トーバルド、ダイナブックのアラン・ケイ等。しかし、この本の素晴らしい点はこういったIT成功譚で一般的に語られる機会のあまりないドナルド・クヌース、ビアルネ・ストラウストラップ、ビル・ジョイ等の本当に世に貢献した天才たちに触れているところで、この分野のイノベーションの土壌を理解しやすくまた一つの人生の指針にもなる内容です。

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『深層学習』

岡谷貴之(講談社サイエンティフィク)

私が本書を購入した2015年は「人工知能」なる単語を冠して様々な書籍が出版され「深層学習」がバズワードとしてもてはやされている中で、自身で実際に深層学習のコーディングもしてGPU環境で実装してみることで技術の一端を理解することができたと感じたもの。理論的に明快に簡潔に、しかし、SGD・オートエンコーダ・cNN・RNN・RBMと基本的な技術を俯瞰して親しむための(本書を含む「機械学習プロフェッショナルシリーズ」全体がそうであるが)素晴らしい書籍です。

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こちらも中高生におススメ

『昭和史』

半藤一利(平凡社)

学生時代に読んで以来、何度も読み返してしまう書籍。体系的に日本史の授業で学べない昭和史に触れられるとともに学ぶべき歴史的教訓も示唆が深いですが、それ以上に、詳細な筆致から多様な人物が歴史を紡いでいく様子が感じられて、自らも貢献できるような存在になりたいと感じさせる迫力があります。

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