科学技術政策、情報学/人工知能

超スマート社会実現に向け、力を入れ始めた国の人工知能研究政策

栗原潔さん 文部科学省 研究振興局 参事官(情報担当) 

第2回 イノベーション力の高い世界トップ10にトヨタ・パナソニックが入れない厳しい現実

研究論文数に見る国の力

研究の分野についても見ていきましょう。研究論文数の国際比較をしてみます。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が分析をした、この10年の国別の研究論文数の分析の結果を見ると、科学の多くの分野で論文数のランクが低下しています。21世紀初頭、日本の論文数は米国に次ぎ2位でしたが、今や5位に下げました。

 

もっとショックなのは情報分野(計算機科学・数学)の数字です(下図)。この10年間で、被引用数が全体の上位1%に入る注目度の高い論文の数については、8位から20位へ下落しました。この20位という順位は中国、韓国、台湾、インドはもとより、イラン、トルコなどよりも下位に位置づけられているという分析結果となっています。

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最初に紹介したように、今や日本が市場規模の大きい分野で世界シェアを誇るのは自動車(ガソリン車)が中心という厳しい現実があります。ハイブリット車(世界シェア88%、売上高3.1兆円)も有望ですが、広範な分類で捉えると同一の産業分野となりますし、現在は好調な日本のCVT(無段変速機)に代表されるような自動車用部品についても、グーグルなどでの研究がよく知られているレベル4と言われる完全自動運転の電気自動車が主流になった際にも、引き続いて高い付加価値を提供し続けられるのかは大変危惧されています。

 

情報分野に対する研究投資は

こうした新技術を支える国や民間の研究投資はできているのでしょうか。国全体の投資比率のデータを見ると、少子高齢化による社会保障費の増加、税収減の中で、科学技術振興費は容易には増やせない現状があります。

 

科学技術費の中でも深刻なのは、この数年の情報分野の投資額の減少です。20世紀初頭は、ITが注目されはじめ、国の科学技術振興計画でも情報分野は重点項目とされていたにもかかわらず、内閣府の統計データによれば情報分野の投資額(下図の黄色の箇所)は必ずしも増えていません。

 

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世界で最もイノベーション力の高いトップ10のデータ(下図)では、ここ数年アップル、グーグル、アマゾン、サムスン等です。以前はランキング上位にあったようなトヨタ、パナソニックなどの日本企業の名は、現在ではなくなってきています。IT技術を活用して高い価値を生み出せている企業がイノベーションを牽引している時代だということがわかります。

 

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ではそうした日本国内企業の研究開発投資がどれくらいでしょうか。2015年時点での政府シンクタンクの推定資料をもとにしたものですが、民間企業の研究開発投資額は総額で約3000億円程度と推定されています。一方、アメリカの企業は、マイクロソフト1.5兆円、アマゾン、グーグルは各1兆円以上と言われており、日本の複数企業の研究開発投資を併せても、GAFAと呼ばれるような企業の一社に投資規模が及ばない現状があります。科学技術立国と言われていた日本の建て直しはできるのでしょうか。

 

興味がわいたら

『パーソナルコンピュータを創ってきた人々』

脇 英世(SBクリエイティブ)

私が中学生・高校生の頃に非常に好きだった雑誌連載をまとめたもので、IT業界の生ける伝説の人々の素顔とエピソードが魅力的に語られている書籍。マイクロソフトのビル・ゲイツ、ポール・アレンにはじまり、アップルのスティーブ・ジョブス、スティーブ・ウォーズニアック、ペプシから移籍したジョン・スカリー、オラクルのラリー・エリソン、LINUXのリーナス・トーバルド、ダイナブックのアラン・ケイ等。しかし、この本の素晴らしい点はこういったIT成功譚で一般的に語られる機会のあまりないドナルド・クヌース、ビアルネ・ストラウストラップ、ビル・ジョイ等の本当に世に貢献した天才たちに触れているところで、この分野のイノベーションの土壌を理解しやすく、また一つの人生の指針にもなる内容です。

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『深層学習』

谷貴之(講談社サイエンティフィク)

私が本書を購入した2015年は「人工知能」なる単語を冠して様々な書籍が出版され「深層学習」がバズワードとしてもてはやされている中で、自身で実際に深層学習のコーディングもしてGPU環境で実装してみることで技術の一端を理解することができたと感じたもの。理論的に明快に簡潔に、しかし、SGD・オートエンコーダ・cNN・RNN・RBMと基本的な技術を俯瞰して親しむための(本書を含む「機械学習プロフェッショナルシリーズ」全体がそうであるが)素晴らしい書籍です。

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こちらも中高生におススメ

『昭和史』

半藤一利(平凡社)

学生時代に読んで以来、何度も読み返してしまう書籍。体系的に日本史の授業で学べない昭和史に触れられるとともに学ぶべき歴史的教訓も示唆が深いですが、それ以上に、詳細な筆致から多様な人物が歴史を紡いでいく様子が感じられて、自らも貢献できるような存在になりたいと感じさせる迫力があります。

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