犯罪社会学

18歳成人問題として「『少年法』適用の低年齢化」について考えてみた ~高い貧困率なのになぜ?

『若者の気分~少年犯罪の〈減少〉のパラドクス』を読んで見えたことを踏まえ、犯罪社会学者・土井隆義先生と開成中学・高校生が語り合う

土井隆義先生

筑波大学 社会・国際学群 社会学類/人文社会科学研究科 国際公共政策専攻

 

第2回 「貧しいって」? でも友達いるし親子の仲も良くて、幸せな若者

一般に犯罪はなぜ起こるのでしょう。犯罪社会学の緊張理論では、貧しい人が彼らを取り巻く他の人々が富んでいる時に感じる相対的不満の大きさが犯罪を生むとされます。言い換えると、自分の境遇が周りに比べ劣っていると感じる格差問題から生じる不満が犯罪をもたらすと考えます。

 

今、10代若者の貧困率は上昇しています。1985年と2012年を比較すると、特に10代から20代の貧困率はかなりの勢いで高まっています。にもかからわず、なぜ少年犯罪は激減したのでしょうか。

 

 

1980年代後半のバブル期や昭和の高度成長期は、ほしいものを手に入れたいという欲望に煽られた時代でした。言い換えると、他の時代より相対的不満が高かったため、失業率が低かった割には、犯罪が多かったんです。ところが、現状を幸せと感じる今の時代の10代は、相対的不満が低い。そのため、実際には貧困率が高いにもかかわらず少年犯罪は激減したと言えます。

 

皆さんの世代は、欲望に煽られないという意味で「さとり世代」とよく言われますね。今の若者は欲望に煽られなくなったため、少年犯罪も減ったと考えられます。

 

非行に走った原因の1位は、学校の友達との関係

今度は、犯罪社会学における欲望の理論ではなく、犯罪という“逸脱世界”への接触を容易にさせる人間関係に関わる理論を見ていくことにしましょう。

 

まず若年層の人間関係の動向から見ましょう。15歳~39歳の若い人が生活に満足する理由を調査したデータによると、50%を超えるのが「好きな家族や恋人、友人などがあり、精神的に充実しているから」というものです。

 

また、10代の小学5、6年、中学、高校生が大切だと思うことは、お金がたくさんあることでも勉強ができることでもなく、ダントツの1位が「友達がたくさんいる」ことです。

 

一方、少年院に収容されている少年に聞いた「自分が非行に走った原因だと思うこと」という調査の結果を見てみると、そこでも1位が「学校での友達との関係」となっています。

 

学校での非行グループの友達に引きずられることが多ければ、少年犯罪はもっと増えそうなものです。しかし、実は親や学校への不満の低さが友達関係をかつてとは違ったものにしているのです。

 

皆さんの親は、自分の考えを皆さんに押しつけてきますか。僕らの世代と比べて、現在は親の押しつけが減っています。困った時に親は相談に乗ってくれますか。これも僕たちの世代と比べて、今では友達のように相談に乗ってくれる親が増えています。かつてより現在のほうがフラットな親子関係になっているのです。

 

ある番組で放送された、大学生300人に尋ねた「反抗期があったか」というアンケートでは、「反抗期はなかった」との回答者が54.7%と半数を超えていました。

 

これらを見ても、価値観が多様化し、今の親は子どもに自分の考えを押しつけなくなっていることがわかります。皆さんも親や学校の先生にあまり反発しなくなっているでしょう。こうして親や学校の先生との人間関係の対立が融解してきたことが、子どもたちの友達関係のあり方に変質をもたらし、それが少年犯罪の激減につながっていると考えられます。