犯罪社会学

18歳成人問題として「『少年法』適用の低年齢化」について考えてみた ~高い貧困率なのになぜ?

『若者の気分~少年犯罪の〈減少〉のパラドクス』を読んで見えたことを踏まえ、犯罪社会学者・土井隆義先生と開成中学・高校生が語り合う

土井隆義先生

筑波大学 社会・国際学群 社会学類/人文社会科学研究科 国際公共政策専攻

 

[討論後編]<最終回>

少年法適用は何歳までが、実は妥当? 脳科学的には30歳で成熟

Dくん:親・先生の理解が高くなっているようなのに、なぜ自傷や自殺が減らないのですか。

 

土井先生:自殺には、不満が背景にあるものと、不安が背景にあるものが考えられます。これは個人の動機の話ではなく、社会的な原因の話です。社会から不満が減ってくると、そのタイプの自殺も減ってきます。人は不満を直接の動機に自殺に走るわけではありませんが、不満の強い社会で何かに躓いた人は、その躓きを過大視しやすいからです。

 

ところが現在の社会では、不満ではなく不安が広がるようになっています。その分だけ、自殺の傾向も変わってくるということです。自傷についても同様のことが言えるでしょう。世代間の対立構造がなくなり、人間関係がフラットになって、また価値観も多様化して、生き方が自由になればなるほど、不満は減りますが、今度は不安が高まります。それが昨今の自傷や自殺の背景にあるのではないでしょうか。

 

ドイツの社会心理学者エーリヒ・フロム『自由からの逃走』には、第1次大戦で敗北し、賠償問題や不況・失業にさらされたドイツ国民が、当時の憲法で享受していたはずの「自由」を重荷と感じるようになり、ナチスの全体主義を招いたと書かれています。個人の自由を享受する喜びと、ときに自殺を招くような不安感とは、実は表裏一体と言えます。

 

Hくん:少年法の年齢が引き下げられ、18・19歳を成人に入れると、実はほとんどは処罰もされないし、矯正教育でケアされなくなるという、先生の話はショッキングでした。土井先生ご自身、少年法は何歳にすれば一番いいという意見ですか。

 

土井先生:最新の脳科学の知見では、人間の衝動を抑える「前頭前野」が成熟するのは20代後半から30歳だと言われています。だから若い人たちは冒険やリスクを好むのですが、それがチャレンジ精神の源となってきた面もある一方で、逸脱行動に駆り立てられやすい面もあると言えます。このような観点に立つなら、20~30代を完全に大人扱いにするのではなく、ドイツのような青年法を設けてもよいのではないかという意見もあります。その場合、もちろん適正手続の保障は大切でしょう。そうでないと、これまでの少年法ではないがしろにされ、成人には認められていた諸々の権利が逆に侵害されることになります。いずれにしても、処罰より更生に重点を置いた処遇が必要です。

 

Aくん:処罰を厳しくすることが犯罪の予防効果になるということも言われますが、どういう指標でできているのでしょうか。

 

土井先生:わかりやすく死刑存廃論議で話をしてみましょう。死刑は、凶悪犯罪を抑止する威嚇効果があるとされますが、実際にその効果はわかりません。社会科学は実験ができないので、確かめようがないのです。しかし、死刑制度のある国とない国を比較することで間接的に推測することはできます。それによると、死刑を廃止した国のほうが、逆に犯罪率は下がっているというデータがあります。もちろん因果関係は逆の場合もありうるので、厳密には言えませんが、それでも死刑の抑止効果はあまり高くないといえるでしょう。

 

今後は、少年法だけでなく、民事法の成人年齢を引き下げようという議論も出てくるはずです。皆さん自身の世代の問題として、ぜひ真剣に考えていただきたいと思います。

 

◎前列左から

折井森音くん(高校1年)、青山龍平くん(高校1年)、坂谷竜聖くん(高校1年)、竹内紀博くん(高校1年)、杉山佑太くん(中学3年)、山本紘生くん(中学3年)、藤野和真くん(中学2年)

 

◎後列左から

野村優くん(高校2年)、土井先生、加藤辰明くん(高校2年)

 

連載おわり

 

オーサービジットに参加して

他人との関係を断つことは自分の一部分が消えること

坂谷竜聖くん(高校1年)

 

僕も一か月に一度くらいは、人間関係に気疲れする。僕たちの世代は、優等生を批判しつつ、みんな優等生になりたがっていると思う。先日文科省のとあるイベントに行った時も、みんなノリで意気投合して(これはこれで楽しかったが)、連帯感という甘い蜜を甘受しているだけに思えてならなかった。彼らは、表向きには雰囲気を同一にして楽しんでいたのだろう。このような上辺だけの一体感というものに馴染むことが苦手な私にとって、今回のオーサービジットはそのような関係を完全に絶つことを勧めてくるものだと思っていた。

 

しかしながら、土井先生は最後にこうおっしゃっていた。

「多様な人々とつながることで安心する」

 

多様な人と表向きだけでつながるからこそ辛いのではないのか。なぜわざわざもっと多くの人々と関係を持たないといけないのか。僕にとって、この考えは受け入れるには斬新すぎた。

 

しかし今落ち着いて考えてみると、この考えはとても的を射ているように感じられる。人間というのは、やはり他人と影響しあうことによって、他人からの視点によって、成り立っている部分があると私は考えている。つまり他人との関係を断つということは或る意味自分自身の一部分が消えるということ。この考えをもとにしてみると、我々は人間との関係を続ける必要性があり、そのためにはたくさんのコミュニティに属して、外部との関係が立たれるリスクを最小限にすることが効果的なのだ。

 

選択肢の多い、開かれた環境では、現代を見る限り「保護的な」思想に傾いているように感じられる。イギリスのEU離脱、米大統領選をまとめて、「反グローバル化」とみる評論家も多いようだが、それは身近な人間関係においても同じロジックが通じているのかもしれない。

 

開成高生おススメの本

『シャーロック・ホームズと99人の賢者』

水野雅士(青弓社)

書名を見ると、誰もがシャーロック・ホームズシリーズの一冊であると勘違いするに違いない。僕もこの題名に惹きつけられ、借りてみたのだが、実はこの本、シャーロック・ホームズにはほとんど関係しない。

 

だが、読んでみるとその実用性の高さに驚かされる。ギリシャ哲学など、様々な思想についてよく書かれた本なので、「倫理政経」によく使える。哲学者の解説が盛りだくさんであるので「授業では一人一人の説明が少なすぎてなかなか暗記できない!でも用語集を使うとつまらない」という方にもテスト前勉強にお薦めだ。

 

また、各節ごとに必ずシャーロック・ホームズの小ネタがはさまれているので、シャーロック・ホームズが大好きという方も、もちろん楽しめる。読書しながらテスト勉強もできて、一石二鳥の本である。(青山龍平くん)

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『極短小説』

スティーブ・モス、ジョン・M・ダニエル:編、浅倉久志:選訳、和田誠:絵(新潮文庫刊)

ページをめくるごとに、笑いあり、涙あり、感動あり、冷や汗あり。そんなバラエティに満ちた短編集です。この本に載っている物語は全て、英語で55語以内、日本語で200字以内。極限まで贅肉を削ぎ落とした鮮やかで、切れ味が良く、かつ結末の見事な物語を、和田誠の印象深い挿絵とともに味わってくさい。(書名も含みこれで約200字です。)(折井森音くん)

 

『君たちはどう生きるか』

吉野源三郎(岩波文庫)

この物語は、主人公コぺル君の成長を通して、我々はどう生きるべきか考えさせる作品である。「人間 分子の法則」など人間は世界の中の一つに過ぎないことや、「真の友達とは何か」など様々な考察が盛り込まれている。僕自身、友達に卑劣な行いをしてしまったときにこの本に出会ったからか、相手の心を思いやるということなど当たり前のことだけど、多くの言葉がとても心にしみた。

 

また、この作品にはかなり反戦の要素が含まれている。登場人物の中にも、軍隊出身の人や、国枠主義を押し付ける学生など様々な立場の人間が登場するが、客観的な視点を通して暗に戦争をも否定しているようにも感じられた。(坂谷竜聖くん)

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『天の夕顔』

中河与一(新潮文庫刊)

ある男が28年間に渡って一目惚れした良人ある女性に片想いし続ける。それは人生を棒に振ったものだったのだろうか。無口だが、内に激しい想いを持った男の口から語られる、静かな恋慕の物語。(野村 優くん)

[出版社のサイトへ]

『ネット炎上の研究』

田中辰雄、山口真一(勁草書房)

「炎上」という言葉はよく聞くが、しかしその実態についてはよく知らない人も多いのではないか。私もその一人であり、本書を読んだ。結果、炎上について知るだけでなく、ネットについて大きく考えが変わった。例えば、ネットで炎上を起こす人の特徴、関連してネット右翼の実際の特徴などである。今まで漠然と勝手なステレオタイプを持っていたが、半分は間違いであると文中の調査、統計からわかった。

 

本書では炎上について分析、考察した上で、それに対する個人や企業がすべき対策について書いている。さらに、社会的な観点から炎上はどのようにして防げばいいのか、またSNSは他にどのような形式のものが考えられるかについて書かれている。今のSNSについて漠然とした不満を感じる人、またはSNSとはどうあるべきかと考える人はこの提案についてのみ知るのも価値あることだろう。

 

ただし、社会科学の本として真剣にこの本を読むとすると、物足りない部分もあった。途中の考察でデータの扱い、論理の展開について雑だと感じる記述があり、これはいただけなかった。社会学であれば、第三者の視点から丁寧に研究分析すべきではないのか。アンケートの結果とモデルにより推測した結果との差異を切る捨てるときの考察は、より慎重になるべきだと幾つかの場面で感じた。

 

このように細かい点では不満もあったが、内容の大筋においては賛成であり、得られた情報はもちろんとても有用だったと感じている。(加藤辰明くん)

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