日本文化論

学問本オーサービジット(筑波大学協力)

日本人を深く知るための「深層文化」を考える

~『日本の深層文化序説~三つの深層と宗教』を読んで

宗教学・日本文化研究 津城寛文先生+関西大倉中学校・高等学校

津城寛文先生 筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類/人文社会科学研究科 国際日本研究専攻

第2回 ラフカディオ・ハーンは、霊や死者に敏感な日本人の心性を見出した

『菊と刀』以外にも、外国人の見た優れた日本文化論はあります。例えば『朝日の中の黒鳥』がそうです。

 

著者のポール・クローデルは駐日仏大使で、フランスの象徴派詩人です。彼は能という日本の高度な象徴劇の、ある意味、「発見者」です。1920年代(大正時代)、外交官として過ごしたクローデルは仕事の傍ら、日本各地への旅行、美術や演劇に対する旺盛な好奇心、様々な人びととの出会いなどを通して、日本の風土と文化への理解を深めました。そうしてまとめられたこの本は、「能の仕草一つ一つをこれほど注意深く見つめ、その思い入れを言葉で表現し尽くすことに成功した作家はいない」と言われるほどでした。

  

外国人による日本の深層文化発見で有名な人をもう一人挙げると、小泉八雲がいます。出生名をラフカディオ・ハーンと言います。彼はギリシャで生まれ、日本に来ました。1896年(明治29年)に日本国籍を取得して「小泉八雲」を名乗ります。ハーンは優れた日本民俗の研究者であると同時に怪談作家として知られます。

 

彼の有名な怪談小説に「耳なし芳一」があります。盲目の琵琶奏者が、全身に経文を書き平家の落人の怨霊封じをするんですが、耳にだけ経文を書かなかったばかりに怨霊に耳を切り落とされてしまう話です。ハーンはお経に霊力があると信じていました。彼は日本体験を通じて、仏教的な霊魂観や、霊や死者に敏感な日本人の心性を見出しました。そこから、日本人の大切にする祖先崇拝やそうした風景に対する懐かしさはどこから来るのかという深層文化の一つにたどり着いたといえます。

 

それだけではありません。ハーンの作品は日本の説話や伝説を題材にしながら、特定の国ではなく誰にとっても懐かしい、始原の風景といったものが描かれています。その懐かしさの核をなすのは、母と子の原風景です。彼は懐かしい母の国ギリシャの幻影に日本の幻影を重ね、自文化と異文化の二つを生きることで、西洋と日本、二つの文化に通底する深層に達しました。それによって日本固有の深層文化が異文化の人にとっても体験可能になることを示しました。ハーンは、国籍のない民俗学を築いたと言えるのでしょう。

 

興味がわいたら Book Guide

『菊と刀』

ルース・ベネディクト 長谷川松治:訳(講談社学術文庫)

70年くらい前に、日本語もできず、日本に来たこともない文化人類学者によって書かれた、日本論の古典。欠点を含めて、作品として味わう価値のある本です。

 

この本は、誤解を含めて、他者理解とはなにか、どうあり得るかというヒントを多く含んでいます。とくに、課題設定の仕方が、うまい。これはセンスの問題であり、著者が詩人であったことが、決定的です。鈍感な研究者は、何を研究しても、理解が鈍いが、繊細な研究者は、細かい材料を見る前に、何をどう考えるか、見通しができます。そのようなセンスのよさを、視点や課題設定の仕方から、学ぶことができます。作品として、物語として、見事である。

 

冒頭部分で、本書が明らかにしたい課題が、様々に言い換えられています。「生活の営み方に関する日本人の仮定」「日本人をして日本人たらしめているところのもの」「国民に共通の人生観を与える、焦点の合わせ方、遠近の取り方のこつ」「思想・感情の習慣」「習慣がその中に流し込まれる型、パターン」など。まとめると、日本的なパターンを見つけることが、『菊と刀』の課題です。

 

『菊と刀』からは、センスのよさを培うことを、再確認させられます。ベネディクトが採った方法は、文化人類学的なもので、研究対象は「日本人、日本文化」でしたが、他の研究対象も、センスよく扱うべきことを、この作品は例示しています。具体的な知識を得ようとしてこの本を読むと、著者の間違った解釈を学ぶか、あるいはそれを批判するだけか、どちらにしても、表面的な読み方になります。自分の関心のある対象を、どんな方法を使って研究し、どのような作品に仕上げるかの「考えるヒント」にしてください。

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「お迎え」されて人は逝く 終末期医療と看取りのいま

奥野滋子(ポプラ新書)

超高齢化を迎え、どう生きるかとともに、どう死ぬかを考えることが必要な時代になりました。死生観を考える参考になります。若い人でも、「なぜ生きるのだろう?」と悩む人には、おすすめ。

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『人類は「宗教」に勝てるか』

町田宗鳳(NHKブックス)

世界で起こる宗教的な紛争を、一神教世界の特徴とみて、それをどう超えるかを問うています。

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『「日本文化論」の変容』

青木保(中公文庫)

戦後の日本文化論が、時代ごとにどういう特徴を持っているか、わかりやすく整理したもの。

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